コンセントを、握りしめて
本当にあった話。
彼女は右手にライトを持っていた。
小さなライト。
左手には、コンセントの差し込み口。
まっすぐ、柱に向かって歩いていく。
何かを、探しているみたいだった。
柱の前に立つと、じっと見つめる。
上から、下へ。
右から、左へ。
一つひとつの木目を、確かめるように。
まるで、大事な地図を読んでいるみたいだった。
「ここかな」

木目の模様に、コンセントを差し込もうとする。
入らない。
「あれ」
でも、めげない。
隣の模様へ。
また、差そうとする。
入らない。
また、隣へ。
真剣だった。
とても、真剣だった。
私はそっと、近づいた。
「そんな感じでコンセントに差したら、感電するかも。危ないですよ」
「これ、預かっていいですか?」
彼女は、ライトを見た。
私を見た。
少し、考えていた。
「そう? あなたが持っててくれる?」
その声が、軽かった。
「良かった〜」
ぱあっと、笑った。
まるで、大事な役目を、やっと誰かに渡せたみたいに。
私に手渡してほっとした顔 声だった。
柱は、何ごともなかったように、そこに立っている。
彼女の真剣な横顔が私の中に残り、
彼女は何もなかった様に移動し、
鼻歌を歌いながら向こうの本棚の本を眺めていた。
いいなと思ったら応援しよう!
よろしければ応援お願いします!
いただいたチップはクリエイターとしての活動費に使わせていただきます!
励みになります!