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【連載小説】檻城の姫君|第二章 第二話 「翔」

▼前回▼


 翔は寂しさを紛らわすかのように、憂さを晴らすかのごとく、船内の猫型ロボットたちに片っ端から名前をつけて回った。
 お掃除用のロボットにはサナエ(翔の母親の名前)。
 洗濯ロボットにはタエ(翔の父型の祖母。翔の父の実家に住んでる)。
 翔の遊び相手のロボットにはスギタ、ナカジマ、サカモト。他にもいろいろ、とにかくつけまくった。
 で、なんで人型ロボットがないかといえば。 
「ごめーん。人型ってさーどうしても作り物度が高くなつちゃうのよねー。毛で覆われてないし、皮膚とかむずいじゃん? っていうか、人型ロボットなんて普及しないしー。そんなの造る奴いないから、人型ロボット技術? 進んでなくてかっこいいの作れないし、ロボットはブレスレットじゃ変身させらんないし。あ、もしかしてお父様ならそのうちなんか造らせるかも? ただでさえこの船地球っぽくしたのに、こだわりすぎて怪しまれても困るし。うーん、正直そこまで手が回んなくて。結構これだけ用意すんのも大変でさー」
 とかなんとか。 
 ━━正直いって、フライのことは嫌いじゃない。
 猫だって三日飼えば愛着が湧く。
 懐いてくれる猫ならなおさらだ。
 でも、やっぱり翔は地球に帰りたいのだ。
 だから本当の意味でフライを好きにはなれない。
 どうしても許せないというか、こだわってしまう部分がある。
 このまま一生フライと逃走劇を続けるなんて━━イヤなのだ。
 翔は遊戯室でサカモトとビリヤードをしながら、部屋の隅で爪磨きをしているフライを盗み見た。
 なんかどこにでもあるような段ボールを引っ掻いているだけだけなのだが、とても楽しそう。
 他にも鈴とか、噛むと音の鳴るお魚型のおもちゃとかを使って一人で遊んでいる。
 時々こっちを窺ってもいる。
 翔は地球に帰れなくて気が立っている。で、その原因のフライには結構冷たく当たってしまうこともある。それでフライは寄ってこないらしい。
 むかつくことにサカモトは強かった。背中に禿(はげ)のあるよくわからない雑種(? 翔は名前知らない。とにかくいろんな色。白地に赤とか緑とか黄色とか。斑(まだら)になってる。よく見たら尻尾の模様が星型だった。禿カラフルスターキャットと命名してみた)のくせして、こいつはなんでも器用にこなす。
 こないだも卓球で一回も勝てなかったし、今日はまだビリヤードで勝てないし。
 そう、昨日も将棋で負けた。チェスも負けた。花札も負けた。トランプもいろいろやったのに負けた。
 かといってナカジマは弱すぎる。ナカジマは真っ白なペルシャ猫だ。
 こいつはおとぼけ系で、すぐドジをする。でも、ばかっぽすぎてかわいいくらいだ。
 よく転ぶので壊れないか心配。
 でも、一生懸命なのわかるけど、弱すぎ。 
 スギタは尻尾がうさぎ並みに短く毛も短い、グリーンの猫だ(この猫ほんとにいるのか……ってくらい、グリーングリーン。翔にもわかってきた。ここは地球じゃないので、結構なんでもあり━━よくわからん種がたくさんいるらしい。それともロボットだからかもしれない。もしかしたらピンクの猫とか羽の生えた猫とかいるかもしれない……)。
 スギタは━━イカサマ師だった。サイコロで丁か半かとかやったら百発百中。ダウトも大好き。ちょっと目が離すとすぐズルをする。
 最初気づいたときにはむかついて、頭をぶん殴ったら、ロボットヘッドの硬さに翔の手の方が真っ赤になって、逆に大ダメージを食らってしまった。
 やっぱり今日もサカモトにビリヤードで負けてしまった。
 翔は、フライとは逆の方の隅っこで待機していたナカジマとスギタも呼んで、ボールを持って庭へ繰り出した。フライもついてきた。
 ━━この宇宙船。庭があった。ホログラムかなんかなのか、でっかい空があって、太陽まである。
 そよ風まで吹くし、なんと蝶や鳥まで飛んでいる。
 ちゃんと夕方になると空は茜色になる。暗くなると頭上には星々がきらめき、電灯がつく。
 どうやら、地球の日照時間(それも日本)に合わせてあるらしい。
 それに、フライの星と地球は、一日の長さが大体同じらしい。この庭で雨や雪が降ったらするはナゾだが。
 ━━たぶん、それは無理っぽい(?)。
 そういえば翔はなんとなくフライが街で買ってくれた服をよく着ていた。半袖のくせに、全然寒くないのだ(街では寒かったが)。
 船内で暖房でも利いているのか。
 でもフライもよく最初に人間に化たときのあの緑と赤のクリスマスカラーな服とかを着ているが、あれは結構厚そうな服だった(スカートはミニだが)。
 どうやら、フライと翔の周囲にだけ自動的に温度調整されているらしい。
 なんか贅沢な話かも。
 でも、船全体とか、使用している部屋全体に冷暖房利かせたりするよりかは効率いいのかもしれない。……よくわからんが。
 燦々(さんさん)たる太陽光の注ぐ庭で、翔とサカモトとスギタとナカジマは、円陣組んでボールを蹴り遊ぶ(なんかちょっと演出程度に温かくなったりする寒くなったりすることもあって、陽光に温かさを感じる)。
 汗を掻(か)くほど遊ぶ(そうすると涼風が吹いたりする。風呂とか入る時はちゃんと体が熱くなったりするし、場面場面を心得ているらしい、このお魚の温度システム。でも、あんまりそういうことしてると、体が弱くなりそう)。
 翔は休み時間先生に内緒で、友人たちと空き部屋に潜り込んで球蹴り遊びするのが大好きだった。
 昼休みは校庭でやったりもするけど、空き部屋でやるほうが好き。
 で━━サカモトとかとやるボール蹴りは……何かものたりない。べつに庭だからじゃなくて……たぶんそう、こいつらがあんまり言葉を話さないからだ。一応AI機能がついているらしいし、言葉も話せるのだが、こいつらが話すことと言ったら……。
サカモト「翔。弱すぎ」
ナカジマ「翔。強すぎ」
スギタ「……」
 スギタは寡黙(かもく)だ。寡黙でポーカーフェイスでイカサマ師だ。
「照れてるんだよ。まだ会ったばかりだから」
 とフライは言っていた。ほんとかどうかはわからない。
 ━━翔は溜め息をついた。本物の坂本と中島と杉田を思う。
 坂本はどっちかいうと頭はとよくない。ゲームも大抵翔のほうが得意で、でもあいつはいつも陽気だった。その笑顔に何度も救われた。
 中島はちょっと嫌な奴だった。何かいうと鼻にかける。ちょっと香苗と似ている。でも、本当は結構小心者で、いい奴だった。ゲームは、種類にもよるがわりと翔と同じレベルっぽかった。学力も似通ってた。
 杉田はもちろんイカサマ師じゃない。
 犬をこよなく愛する純情一直線な奴で、獣医になるのが夢で、弓道部エースの高原先輩に一目惚れして、でも少女漫画のヒロインよりも内気で、いつもみんなでそのことをからかっていた。
 ……あいつは、この先、先輩とうまくやれるのだろうか。
 そもそもあいつら猫じゃないじゃないし。ロボットじゃない。翔は、もう一度溜め息をついた。
「翔。元気出せ」
 意外なことに、スギタがそういった。
「元気出せ」
 サカモトもそういった。
「お腹すいた? カナエちゃんのアジフライ食いに行く?」
 ナカジマはちょっとずれている。
 しかもカナエに気があるっぽくてちょっとむかつく。
 おまえは成田くんかよ。
「ねー翔」
 さっきまで仲間に入れて欲しそうに指をくわれていたフライが、いつのまにかボールにじぇれついている。
 ついこっちまで笑っちゃいそうな━━お陽様にも負けない明るいスマイルを浮かべて。  
 猫は気まぐれである。
「この船の名前さー、どうしよっか?」
「……お魚号じゃなかったか」
「それは仮名! やっぱりここは、翔に決めてもらうべきでしょう!」
「……」
 翔は考えた。……まだ使っていない名前。
「あっ!」
 閃(ひらめ)いた。
「えー? なになに?」
「ユウゾウ」
 翔の父親の名前だった。

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▼次回 第三話 「カナル」


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