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《🇺🇸株会社の歴史》「カボチャ」から始まった伝説と、数字で見る激動の12年史|Canaan Inc. 徹底解剖(2011-2025 Q3)

ビットコインマイニング業界のパイオニアであり、NASDAQ上場企業であるCanaan Inc.(嘉楠耘智:CAN)。

その株価はビットコイン価格と同様に激しく乱高下し、投資家を熱狂させると同時に、時には深い絶望も味わわせてきました。しかし、その「ボラティリティ」の裏側には、創業者の個人的な情熱から始まり、規制や市場崩壊を乗り越えてきた強烈なサバイバルストーリーが存在します。

今回は、Canaanの創業から2025年第3四半期(Q3)までの歴史を、「成長ストーリー(ナラティブ)」と「決算数値(ファンダメンタルズ)」 の両面から詳細に紐解きます。

なぜCanaanは生き残ることができたのか。そして今、財務状況はどう変化しているのか。株主や投資家の皆様にとって判断材料となる「事実」のみを積み上げました。

2011年:個人的な探究と「Pumpkin Zhang」の誕生

Canaanの歴史の前日譚は、北京航空航天大学の博士課程に在籍していた張楠賡(N.G. Zhang) 氏の個人的な活動から始まります。彼は当時、アニメ『新世紀エヴァンゲリオン』のファンであり、オンラインフォーラムでは「Pumpkin Zhang(南瓜張)」というハンドルネームで知られていました。

当時、ビットコインのマイニングはCPUからGPUへと移行していましたが、張氏はFPGA(フィールド・プログラマブル・ゲート・アレイ)を用いた専用機器の開発に着手します。彼が開発したFPGAマイニングボード「Icarus」と「Lancelot」は、初期のコミュニティで高い評価を受け、彼自身も開発者として名声を高めました。まだ企業としての売上などは存在しない、純粋な技術開発のフェーズです。

2012年:ASIC開発競争とButterfly Labsへの対抗

米国企業Butterfly Labs(BFL)が「ASIC(特定用途向け集積回路)を用いたマイニングマシンを開発中である」と発表し、顧客から多額の予約金を集め始めました。しかし、製品は一向に出荷されず、詐欺的な様相を呈していました。

これに対抗するため、張氏は「BFLより先にASICを完成させ、独占を防ぐ」ことを決意します。彼は博士課程を中退し、全精力をASICチップの開発に注ぎ込みました。プロジェクト名は、Fate/stay nightをから着想を得てアーサー王伝説の理想郷にちなんで「Avalon(アバロン)」と名付けられました。この時期、外部VCからの調達ではなく、自己資金と開発への情熱が原動力でした。

2013年:世界初のASIC出荷と高収益の創業

1月: 張氏のチームは、世界初となる商業用ASICマイニングマシン「Avalon 1(110nmプロセス)」 の出荷を開始しました。
この初期ロット(Batch 1)は、当時のビットコイン価格(約13ドルから年末には1,100ドルへ急騰)と相まって、購入者が数日で投資回収できるほどの圧倒的な性能を誇りました。

4月: 北京にて正式に「Canaan Creative(嘉楠耘智)」 が設立されました。
この創業期の財務は極めて好調でした。マシンは定価の数倍〜数十倍のプレミア価格で取引され、前払い(Pre-order)モデルによって豊富なキャッシュフローを獲得。これにより、Canaanは外部資本に頼らずとも独立独歩で経営基盤を築くことに成功しました。また、張氏は市場独占を嫌い、設計の一部をオープンソース化するという異例の決断を下し、業界全体の技術底上げに貢献しました。

2014年:暗号資産の冬と在庫リスクの顕在化

ビットコイン価格の暴落により、多くのマイニング企業が淘汰される「冬の時代」が到来しました。

製品開発: 製造プロセスを微細化させた「Avalon 2(55nm)」および「Avalon 3(40nm)」 を相次いで投入し、電力効率を高めることで市場での生存を図りました。

財務・経営状況:
マシンの需要が蒸発し、在庫リスクが経営を直撃しました。後の開示情報によると、この時期に人員削減やコストカットを断行し、バーンレート(資金燃焼率)を抑制しました。この経験から「在庫回転率」の重要性を痛感し、後の受注生産体制強化へと繋がります。

2015年:バックドア上場の模索と財務の安定化

マイニング機器市場での地位を確立したCanaanは、さらなる成長資金を求めて資本市場へのアクセスを模索し始めます。当時の財務状況は以下の通りです。

  • 売上高: 約4,770万人民元(約700万ドル)

  • 純利益: 約151万人民元

市場環境が悪い中でも黒字を維持しましたが、規模としてはまだ中小企業の域を出ていませんでした。

企業動向:
中国の電機メーカーなどによるCanaanの買収案が浮上。これはA株市場へのバックドア上場を意図したものでしたが、規制当局の監視や条件面での折り合いがつかず、実現には至りませんでした。同時に、ASIC技術を応用したAIチップ開発への検討が始まりました。

2016年:A株市場への挑戦と急成長

中国国内のA株市場(深セン証券取引所)への上場を目指し、山東省の機械メーカー「山東魯億通(Shandong Luyitong)」による買収計画が発表されました。財務データは急激な成長を示しています。

  • 売上高: 5億1,600万人民元(前年比10倍以上の急増)

  • 純利益: 5,800万人民元

  • 買収提案額: 30億6,000万人民元

16nmプロセスを採用した「Avalon A6」シリーズがヒットし、粗利率が改善。Bitmainに次ぐ業界No.2の地位を確立しました。

結末:
深セン証券取引所から「買収評価額の妥当性」や「主要顧客との関係」について厳しい質問状が届き、最終的に規制当局の認可ハードルが高すぎると判断され、9月に計画は白紙撤回されました。

2017年:仮想通貨バブルと驚異的な利益率

ビットコイン価格が2万ドルを目指して高騰し、Canaanの業績も爆発的に伸びた年です。バブル期のピークを示す数字が記録されました。

  • 売上高: 13億800万人民元(約2億ドル)

  • 純利益: 3億6,000万人民元

  • 販売総ハッシュレート: 2.94 EH/s(エクサハッシュ)

利益率の分析:
粗利率が40%を超え、製造業としては異例の高収益体質となりました。

企業動向:
8月に中国のNEEQ(新三板)へ上場申請を行いましたが、国内でのICO禁止や取引所閉鎖などの規制強化を受け、より流動性の高い海外市場(香港や米国)を目指すため、自ら申請を取り下げました。

2018年:在庫評価損の発生と香港IPO失敗

前半のブームと後半の暴落という、天国と地獄を味わった年です。

  • 売上高: 27億500万人民元(約4億ドル) ※過去最高を更新

  • 純利益: 1億2,200万人民元

財務上の課題:
売上増に対して利益の伸びが鈍化しています。これは後半の市場暴落により、高値で製造したマシンの在庫価値が激減したためです。数億人民元規模の在庫評価損(Write-down) を計上し、最終利益を大きく圧迫しました。

企業動向:
5月に香港証券取引所(HKEX)へIPOを申請しましたが、事業の持続可能性を懸念され申請失効。一方で、9月にはRISC-Vアーキテクチャを採用したエッジAIチップ「Kendryte K210」 を発表。単なるマイニング企業からの脱却(多角化)を投資家にアピールしました。

2019年:NASDAQ上場と失望のスタート

度重なる挑戦の末、ついに悲願を達成しましたが、市場の評価は厳しいものでした。

11月21日: 米国NASDAQ市場へ上場(ティッカー:CAN)。「世界初のブロックチェーン上場企業」となりました。しかし、上場初年度の決算は苦戦を強いられました。

  • 売上高: 14億3,100万人民元(前年比47.4%減)

  • 純損失: 10億3,400万人民元(赤字転落)

  • IPO調達額: 9,000万ドル(当初目標の4億ドルから大幅縮小)

  • 株価: 公募価格9ドルに対し、上場直後に急落。年末には5ドルを割り込みました。

分析:
赤字の主因は、マシン販売価格の下落に加え、上場に伴う株式報酬費用や在庫評価損でした。また、AI事業の売上比率は1%未満に留まり、多角化の成果が数字に表れていないことが投資家の失望を招きました。

2020年:ショートセラーの攻撃と底値圏での低迷

コロナ禍と半減期が重なり、業績は底を打ちました。

  • 売上高: 4億4,770万人民元(上場来最低水準)

  • 純損失: 2億1,510万人民元

  • 販売総ハッシュレート: 6.6 EH/s

  • 株価: 一時1.76ドルの最安値を記録。

企業動向:
「Wolfpack Research」などの空売りファンドから「架空売上の疑い」などを指摘するレポートが出され、株価が低迷。Canaanはこれを否定しましたが、信頼回復に時間を要しました。
組織面では取締役会の再編が行われ、張CEOへの権限集中が進みました。苦しい中でも研究開発費は維持し、次世代機の開発を継続しました。

2021年:起死回生のV字回復と自社マイニング開始

中国の規制強化という最大のピンチを、海外展開とビジネスモデル転換でチャンスに変えた激動の年です。5月には中国政府によるマイニング全面禁止令が発令されましたが、決算は過去最高益を記録しました。

  • 売上高: 49億8,600万人民元(約7億8,300万ドル) ※前年比10倍以上

  • 純利益: 20億人民元(約3億ドル)

  • 販売総ハッシュレート: 22.3 EH/s

  • 株価: 3月には一時39.10ドルの最高値を記録。

戦略転換:
カザフスタンなど海外へ拠点を移すとともに、「自社マイニング(Self-mining)」 を開始。マシンを売るだけでなく、自社で稼働させてビットコインを直接得るストック型ビジネスをPL(損益計算書)に加えました。また、豊富なキャッシュを背景に最大2,000万ドルの自社株買いを発表しました。

2022年:カザフスタンの地政学リスクと減速

暗号資産市場の冷え込み(Crypto Winter)と移転先のカザフスタンでの混乱が直撃しました。

  • 売上高: 43億7,800万人民元(約6億5,000万ドル) ※微減

  • 純利益: 6億5,800万人民元(前年比大幅減)

  • マイニング収益: 3,250万ドル(稼働停止の影響を受けつつも成長)

  • 粗利率: 前年の57%から大幅低下。

企業動向:
カザフスタンの電力規制により、約2.0 EH/s分の自社マシンが一時稼働停止に追い込まれました。これを機に、地政学的リスクの低い北米(テキサス州など)への進出を加速。
製品面では、Samsung Foundryの8nmプロセスなどを採用した「Avalon Made A13シリーズ」
を投入し、エネルギー効率を高めました。

2023年:巨額赤字とキャッシュ・マネジメント

FTXショックの余波が続き、再び厳しい財務状況に陥りました。この年から財務報告は米ドルベースが主となります。

  • 売上高: 2億1,150万ドル(前年比67.5%減)

  • 純損失: 4億1,440万ドル

  • 現金及び現金同等物: 年末時点で9,600万ドルまで減少。

分析:
赤字の主因は、再び発生した在庫の評価替えによる多額の減損損失です。運転資金確保のため、ATM(At-The-Market)オファリングや優先株の発行を実施し、既存株主の持分希薄化(ダイリューション)が進みましたが、生き残りを最優先しました。製品ラインナップには液浸冷却モデルを拡充しました。

2024年:北米大口契約と受注残の積み上げ

ビットコイン半減期(4月)を通過し、最新鋭機への買い替え需要により受注が急回復しました。

  • Q1/Q2売上: 第1四半期で底打ちし、第2四半期は7,190万ドル(前年同期比105%増)へ回復。

  • 受注残(Contract Liability): 北米大手からの前受金が増加し、バランスシート上の契約負債が拡大。

大型契約の締結:

  • Cipher Mining: 合計1.6 EH/s以上の「Avalon A1466」を受注。

  • Stronghold Digital Mining / CleanSpark / HIVE: これら上場マイニング企業とのB2B契約を相次ぎ締結。

製品:
最新の「Avalon A14シリーズ」および「Avalon A1566(185 TH/s超)」 を発表。競合に対抗しうる性能を示し、顧客の信頼を取り戻しました。

2025年(〜Q3):ハイブリッドモデルの確立と製造枠確保

2025年第3四半期時点では、北米市場でのプレゼンス拡大と、ハードウェア販売・自社マイニングのハイブリッド経営が定着しています。

経営・財務の現在地:

  • 売上構成: 前年に受注した「Avalon A15」シリーズの納入がピークを迎え、ハードウェア売上が高水準で推移しています。

  • 自社マイニング: カザフスタン等の旧拠点を整理し、リソースを北米に集中。自社で保有するビットコイン(HODL分)が過去最大規模に積み上がり、バランスシートの資産価値を押し上げています。

  • 資金調達と半導体: シリーズA転換優先株などで数千万ドル規模を調達。AIブームで逼迫するTSMCやSamsungの製造ライン(ファウンドリ)を確保するための前払い金に充当し、供給網を安定させています。

総括:株主視点で見るCanaan

Canaanの歴史は、「ビットコイン価格への強烈なレバレッジ」 そのものです。

株主にとっては、2017年や2021年のように爆発的な利益を生む局面がある一方で、2019年や2023年のように在庫評価損により巨額の赤字を出すリスクと常に隣り合わせでした。

しかし2025年現在、「北米大手へのB2B販売」と「自社マイニングによるストック資産」 の組み合わせにより、単なる機器メーカーから、より強固な収益構造を持つハイブリッド企業へと変貌を遂げています。

AI半導体需要による製造ラインの争奪戦や、次なるビットコインサイクルの波をどう乗りこなすか。Canaanの「第3章」はまだ始まったばかりです。

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