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【ex.レポート】地政学的嵐の中のビットコインマイニング:ウクライナ・イラン戦争、エネルギー危機がチップ生産と電力を直撃する中、CAN(Canaan Inc.)はどこへ向かうのか


本記事の項目①〜⑥(約6,000文字)は無料でお読みいただけます
項目⑦・⑧は有料コンテンツです。
マイニング業界の現在地を完全に把握し、ティッカーシンボル CANへの具体的な投資判断に活用してください。


① 序論:地政学的嵐の中のビットコインマイニング

2022年のロシアによるウクライナ侵攻、そして2025年〜2026年にかけて激化した米国・イスラエルによるイランへの軍事攻撃——。これらの地政学的激動は、金融市場全体を揺るがしながら、ビットコインマイニング産業にも複合的かつ深刻な影響を与え続けている。

マイニングには「チップ(ASIC)」と「電力」という2つの根幹が存在する。前者のチップ生産は台湾・中国に高度に集中し、後者の電力は世界的なエネルギー価格の変動に直撃されている。さらに、フォルモサ海峡の緊張、ホルムズ海峡の封鎖リスク、黒海・カスピ海ルートの物流崩壊が重なり合い、ASICチップのサプライチェーンはかつてないほど脆弱な状態に置かれている。

一方で、このような混乱の中でも一部の企業は急成長を遂げている。その代表例が、NASDAQ上場のCAN(Canaan Inc.)だ。2025年の年間売上高は5億2970万ドル(前年比+96.7%)に達し、ビットコイン積立残高は1,750 BTCという過去最高水準を記録した。

本稿では、複雑に絡み合う地政学・エネルギー・テクノロジーの問題を解きほぐし、CAN株のリスクと機会を徹底的に分析する。


② マイニングチップ(ASIC)生産サプライチェーン危機

半導体王者TSMCへの一極集中というアキレス腱

ビットコインマイニングの心臓部であるASIC(特定用途集積回路)チップは、その生産において極めて特殊な地政学的脆弱性を抱えている。世界の先端半導体の約60%を生産するTSMC(台湾積体電路製造)が、その中心に鎮座しているからだ。

TSMCはApple・NVIDIA・QualcommのチップのみならずCanaanやBitmainのASICチップも製造しており、まさに「シリコンの番人」として機能している。2022年に台湾当局が「Duplicating the company's technologies was impossible」と宣言するほど、TSMCの技術的優位性は圧倒的だ。

問題は、この一極集中が「シリコン・シールド」理論——TSMC依存が米中双方にとって台湾侵攻を抑止する——として機能してきた一方で、万が一の際にはマイニング産業全体が瞬時に麻痺するリスクを内包している点だ。

CHIPS法と地理的分散の試み——しかし2030年まで間に合わない

米国のCHIPS法による520億ドルの投資、TSMCのアリゾナ工場(2027〜28年稼働予定)、日本の熊本工場(2024年開業)、ドイツ・ドレスデン工場計画——半導体の地理的分散は着実に進んでいる。しかし、このリシュアリング(製造回帰)には重大な遅延リスクがある。

TSMCのアリゾナ工場は当初2025年稼働予定だったが、現地技術者不足・設備調達の遅れにより2027〜28年に後ろ倒しされた。BCGの試算では、リシュアリングには従来の沖合生産と比べて40%以上複雑なサプライチェーン管理が必要とされており、単純なコピーは不可能だ。

ASICマイニングチップメーカーの観点から見ると、当面の間はTSMCや台湾・中国系ファウンドリへの依存は不可避であり、この構造的脆弱性は2030年代まで続くと考えられる。

中国のレアアース輸出規制という新たな火種

2025年後半、中国は半導体製造に不可欠なレアアースの輸出規制を強化した。これはTSMCを含む全世界のチップメーカーに追加的なコスト圧力をもたらしており、ASICの製造コスト上昇→マイニング機器価格上昇という連鎖反応が懸念されている。


③ ウクライナ戦争がもたらしたマイニングへの複合インパクト

ザポリージャ原発(ZNPP)を巡る異様な三角関係

2022年のロシアによるウクライナ侵攻は、世界最大の原子力発電所であるザポリージャ原発(ZNPP、欧州最大・6基の原子炉)をロシアが占拠するという前代未聞の事態をもたらした。

驚くべきことに、2025年後半から米ロ間でZNPPを「ビットコインマイニングハブとして活用する」という議論が密かに進行していることが複数の報道で明らかになっている。米国側は3者(米・露・ウクライナ)による33%ずつの利益分配案を提示。しかしウクライナは「ロシアとの共同ビジネスは受け入れられない」として拒否し、米国との50:50パートナーシップを主張している。

現実には、ZNPPの6基の原子炉はすべて冷温停止状態にあり、現在は非常用ディーゼル発電機で維持管理されている。ウクライナの現在のクリプトマイナーは約33kW/時程度しか使用していないが、ZNPPが完全復旧すれば世界最大級のマイニングファームを支える潜在能力を持つ。

この「ZNPP=マイニングハブ化」構想はウクライナ和平交渉の隠れた変数として機能しており、エネルギー政治・デジタル経済・地政学が交差する極めて特殊な状況を生み出している。

ウクライナ戦争によるエネルギー価格高騰の間接効果

直接的な影響としては、2022年以降の欧州を中心とした天然ガス価格の高騰(一時2倍以上)と石炭価格の高騰が挙げられる。これにより欧州のマイニング業者は電力コストの急騰に直面し、多くが事業停止や中東・北米への移転を余儀なくされた。


④ イラン戦争と物流崩壊:ホルムズ海峡封鎖がマイニングを直撃

世界の原油20%が流れるホルムズ海峡の封鎖リスク

2025年後半、米国とイスラエルはイランの核施設に対して協調攻撃を実施した。これにより、世界の原油供給量の約20%が通過するホルムズ海峡のタンカー航行が一時的に混乱し、ブレント原油価格は1バレル60ドル台から100ドル以上に急騰した(その後約90ドル水準で推移)。

Luxor Technology(ハッシュレートインデックス)の分析によれば、この原油ショックがビットコインマイナーに与える影響の主経路は「エネルギーコストの直接上昇」ではなく、「マクロ的波及効果を通じたBTC価格下落」だという。理由は明快だ——マイニング電力の50%以上は既に再生可能エネルギーが占めており、原油を直接燃料とするマイニングは少数派だからだ。

ただし間接的な影響は深刻だ。原油高→インフレ期待上昇→金利高止まり→リスク資産売り→BTCハッシュプライス(1PH/s・日当たり収益)の低下——という連鎖が確認されている。実際、2026年2月には1 PH/s・日当たりのハッシュプライスが過去最低の27.89ドルまで下落する局面もあった。

イランのビットコインマイニング産業の消滅リスク

イランはビットコインマイニングの「グレーゾーン大国」だ。2019年に正式合法化されたイランのマイニング産業は、制裁回避・ドル決済代替として国策的に育成されてきた。全体の85%は地下(非合法)運営とされており、正確な規模は不明だが、全世界のハッシュレートの2〜5%に相当すると推定されていた。

米・イスラエルの核施設攻撃後、ビットコインのグローバルハッシュレートは15%急落——過去3年間で最大の下落を記録した。これはイランの大規模マイニング施設への電力供給が一時的に途絶したことを示唆している。

さらに2025年6月18日、イラン最大の仮想通貨取引所Nobitexがイスラエル系ハッカー集団「Predatory Sparrow」に攻撃され、約9,000万ドル相当のBTC・ETH等が盗難・破壊されるという事件も発生した。イランのクリプトエコシステムへの攻撃は、現代の地政学的紛争においてデジタル資産が「標的」となることを鮮明に示した。

物流崩壊:マイニング機器の輸送ルート消滅

イラン戦争が引き起こした物流崩壊の影響は、ASICマイニング機器の輸送にも及んだ。中国・東南アジアで製造されたASIC機器の一部は中東を経由して欧州・アフリカ向けに輸送されており、ホルムズ海峡封鎖の影響でリードタイムが大幅に延長している。

また、Canaanのような中国系企業は製品を主に東南アジア(生産拠点)→米国・欧州・中東(顧客)へと輸送しているが、現在はスエズ運河・紅海経由のルートも機能不全に陥っており、喜望峰回りという遠回りルートへの切り替えが強いられている。


⑤ 再生可能エネルギー供給崩壊と電力課題:マイニングは「エネルギーの最終ユーザー」として何を変えるか

「余剰電力の吸収者」としてのビットコインマイニングの本質

ビットコインマイニングの電力消費量は2022年のピーク時に約204 TWhに達した。批判的な視点からは「膨大な電力の無駄遣い」と批判されることが多いが、産業の実態はより複雑だ。

マイニングの最大の電力的メリットは「需要の柔軟性(フレキシビリティ)」にある。太陽光・風力発電は天候に依存するため、発電量と需要量のミスマッチが構造的に発生する。マイニング業者はこの「余剰電力」の最大の吸収者として機能しており、プライスがマイナスになる時間帯に稼働量を増やし、電力需給が逼迫する時間帯に自発的に稼働を絞ることで、グリッドの安定化に貢献している。

テキサス州では再生可能エネルギーが急拡大する中、ビットコインマイナーがこのフレキシブルな需要の役割を担っている。カリフォルニア州との比較では、テキサスの再エネ:蓄電比率は大きく劣るものの、マイニングによる「需要側調整」がその代替機能を果たしているとも解釈できる。

再生可能エネルギー供給不安定化の新しい脅威

ウクライナ・イラン紛争は、再エネ普及に不可欠なレアアースや部材(太陽光パネル、風力タービン)の調達ルートにも影響を与えている。中国主導の太陽光パネルサプライチェーンに対する制裁・関税強化、太陽光・風力の主要鉱物(コバルト・リチウム・ネオジム)の供給不安定化は、中長期的な再エネ普及コストを押し上げる要因となっている。

イランへの攻撃がペルシャ湾岸の産油国に心理的影響を与え、サウジアラビアやUAEの投資判断に影響が出ている点も見逃せない。サウジのFoxconn・PIF連合によるNeomでの9億ドル規模の半導体ファウンドリ計画も、この不安定な環境下で計画通りに進むかは不透明だ。

電力コスト競争力:マイニング産業の生死を決める唯一の指標

ハッシュプライスが過去最低水準に落ち込む中、電力コストが「生存ライン」を決める

2026年2月に記録された過去最低のハッシュプライス(27.89ドル/PH/s/日)は、電力コストが高い業者に壊滅的な打撃を与えた。この環境下での損益分岐点は電力コストによって大きく左右される。

業界の電力コスト目安として:

  • 競争力ある水準:0.03〜0.05ドル/kWh

  • 生存ギリギリ:0.06〜0.08ドル/kWh

  • 事業成立不能:0.08ドル/kWh超

Canaanの自社マイニング事業の平均オールイン電力コストは0.043ドル/kWh——競争力ある水準に収まっており、これは北米・カナダでの電力調達が奏功しているためだ。


⑥ CAN(Canaan Inc.)企業徹底解剖:ハードウェア企業からビットコイン保有企業への進化

企業概要:世界初のASIC上場企業が歩む変革の軌跡

Canaan Inc.(NASDAQ: CAN、カナン)は2013年に創業され、2013年に世界初のASICマイニング機器(ブランド名:Avalon)を市場に投入した歴史的企業だ。2019年にNASDAQへ上場し、現在は世界で2番目のビットコインマイニングハードウェア市場シェアを保有する。

従来のビジネスモデルは「ASICチップを設計・製造して販売する」ハードウェアメーカーだったが、2024〜2025年にかけて大きな変革を遂げた。「垂直統合型モデル」——自社でチップを設計し、マイニングも自社で運営し、ビットコインを積立保有する——という複合収益構造への転換だ。

2025年通期業績:驚異的な回復を示す数字

Canaanの2025年通期業績は、地政学的逆風と関税ショックの中にあって驚くべき成長を示した。

2025年通期フルイヤー実績:

ビジネスモデルの3本柱

柱①:ASICハードウェア販売(Product Revenue)
主力製品はAvalon A15シリーズ(2024〜2025年の主力)およびA16シリーズ(2025年後半に投入)。2025年Q3には、米国の大手マイニング業者から5万台以上のA15 Pro(過去3年間最大の単一受注)を受注するなど、北米市場での復権が際立つ。

最新機種Avalon A16XP:300 TH/s・エネルギー効率12.8 J/TH——これは業界最高水準の競合品(MicroBT Whatsminer M66S++ の12.5 J/TH)に肉薄する性能を有する。

柱②:自社マイニング(Mining Revenue)
2024年から急拡大した自社マイニング事業は、2025年末時点で以下の規模に到達した。

  • 設置済みハッシュレート:9.41 EH/s(デプロイ済み)

  • 稼働ハッシュレート:8.12 EH/s

  • グローバル設備容量:234.8 MW(9拠点)

  • 北米設備容量:91.2 MW

  • 平均電力コスト:0.043ドル/kWh(競争力ある水準)

  • 2025年12月の月間マイニング:86 BTC

柱③:ビットコイン・クリプト保有(Treasury Strategy)
MicroStrategy型のビットコイン積立戦略を採用。2025年末に1,750 BTC+3,951 ETHという過去最高の保有残高を達成した。BTC現在価格(約6.5〜7万ドル水準)ベースで約1.1〜1.2億ドル相当のBTC財務資産を保有しており、これが株式のNAV(純資産価値)として意識される。

CAN株の現在地:低評価が続く中での転換期

2026年3月時点でのCAN株は大きく下落した状態にある(BTCが2025年10月の史上最高値126,199ドルから46%以上修正した影響が直撃)。しかし、経営陣は自社株買い(3,000万ドルのプログラム)を積極的に実施しており、会長・CEOのNangeng Zhang氏と副会長のJames Cheng氏は自ら合計145.6万ADS以上を追加取得(平均0.51ドル/ADS)。「現在の市場評価は我々の技術・戦略・成長ポテンシャルを正当に反映していない」とのコメントを発表している。

2025年11月には、Brevan Howard・Galaxy Digital・Weiss Asset Management3社から7,200万ドルの戦略的エクイティ投資を獲得。機関投資家の目に「投資に値するフェーズ」と映っていることを示す。


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