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DCF法、雑に使うと答えが3割ずれる。自分がハマった3つの落とし穴

不動産の収益価格を出すとき、DCF法を使う場面がそこそこある。
将来のキャッシュフローを割り引いて現在の価格を出す、あのやつだ。

Excel でモデルを組んで、数字を入れて、それっぽい答えが出る。出るんだけど、自分は過去に「それっぽい答え」を信じて痛い目を見たことが何度かある。しかも後から検算したら、正しい前提で組み直した数字と比べて2~3割ずれていた。

DCF法って、構造自体はそこまで難しくない。でも「前提の置き方」で答えが暴れる。今回は自分が実際にやらかした3つの落とし穴を書いておく。同じ轍を踏む人が減れば幸い。

落とし穴1:割引率を「なんとなく5%」で固定した

DCF法の計算で最初にぶつかる壁が割引率の設定だと思う。

国土交通省の不動産鑑定評価基準では、割引率の求め方として「類似不動産の取引事例との比較」「借入金と自己資金に係る割引率から求める方法」「金融資産の利回りに不動産の個別性を加味する方法」など複数のアプローチが示されている。つまり、1つの正解があるわけじゃない。

自分が最初にやったのは、ネットで「不動産DCF 割引率」と検索して出てきた「だいたい3~5%」という情報をそのまま採用するパターンだった。物件の立地もグレードも関係なく、とりあえず5%。都心の築浅RCも、地方の築古木造も、全部5%。

これがどれだけ乱暴かというと、割引率が1%動くだけでDCF法の評価額は10~30%ぶれることがある。保有期間10年で組むと、1%の差が複利で効いてくるから後半の年度ほど乖離が広がる。

あるとき、同じ物件を割引率4%と6%でそれぞれ回してみたら、収益価格に25%以上の差が出て冷や汗をかいた。割引率の根拠がない計算は、結論が出ているようで何も決まっていないのと同じだった。

今は、J-REITの鑑定評価書で開示されている割引率を類似物件のベンチマークとして参照するようにしている。エリア・築年・用途が近い物件の割引率を3~5件拾って、その幅の中で対象物件の個別性を加味して決める。完璧ではないけど、「なんとなく5%」よりはだいぶマシになった。

落とし穴2:復帰価格の破壊力を甘く見た

DCF法の収益価格は「保有期間中の純収益の現在価値の合計」+「復帰価格(売却想定価格)の現在価値」で構成される。

ここで見落としがちなのが、復帰価格の現在価値が全体に占める比率だ。ある計算例では、保有期間中のキャッシュフロー現在価値が全体の約23%、復帰価格の現在価値が約77%だった。つまり、DCF法で出てくる数字の約8割は「将来いくらで売れるか」に依存している。

復帰価格は通常、保有期間終了翌年の純収益をターミナルキャップレート(最終還元利回り)で割って求める。

前提条件を明示しておくと、たとえば保有期間10年、11年目の想定純収益が500万円の場合。ターミナルキャップレートを4.5%にすると復帰価格は約1億1,111万円。5.5%にすると約9,091万円。たった1%の差で2,000万円動く。しかもこの数字がDCF全体の7~8割を占めているわけだから、最終的な収益価格への影響はかなりでかい。

自分の失敗は、割引率には神経を使ったのに、ターミナルキャップレートは「まあ割引率と同じくらいでいいだろう」と適当に置いたこと。鑑定評価基準では、ターミナルキャップレートは価格時点の還元利回りをベースに、保有期間満了時点の市場動向やそれ以降の収益変動の不確実性を織り込んで設定するものとされている。割引率とは別の概念なのに、横着して同じ数字を入れていた時期がある。

復帰価格は「最も影響がでかいのに、最もあいまいな前提で置かれがちな数字」だと思う。ここを雑に扱うと、DCF全体の信頼性が崩れる。

落とし穴3:キャッシュフローを「現状維持」で10年引っ張った

3つ目は、保有期間中のキャッシュフロー予測の話。

DCF法では保有期間(不動産だと5~10年が一般的)の各年の純収益を予測する必要がある。で、自分は最初、1年目の純収益をそのまま10年間コピペしていた。空室率も経費率も修繕費も、全部1年目と同じ。

現実には、築年数が進めば修繕費は上がる。エアコンや給湯器は10年前後で交換時期が来るし、外壁塗装や屋上防水も周期がある。固定資産税の評価替えもある。テナントの入れ替わりに伴う原状回復費やフリーレントも、長期で見れば無視できない。

たとえば、年間純収益500万円の物件で、5年目に大規模修繕150万円、8年目にエアコン全室交換100万円が発生するとする。これを織り込むか織り込まないかで、保有期間中のキャッシュフロー合計は250万円変わる。現在に割り戻しても200万円前後の差になる。

「復帰価格が全体の7~8割なら、保有期間中のCFは2~3割だし、多少雑でもいいんじゃないか」と思うかもしれない。自分もそう思っていた。でも、修繕費の見積もり漏れはCFだけじゃなく、復帰価格の前提にも影響する。保有期間終了時点で修繕が先送りされた物件は、買い手から見れば修繕リスク込みの価格になるから、ターミナルキャップレートが上振れする可能性がある。

結局、CFの雑さは復帰価格の雑さにも連鎖する。ここをサボると、落とし穴2とのコンボで誤差が増幅される。

今は、修繕費は長期修繕計画(なければ自分で概算)をベースに年度ごとに振り分けるようにしている。空室率も「現状」ではなく、エリアの需給トレンドを見て年度ごとに微調整する。手間はかかるけど、DCF法を使う以上はここをサボったら意味がないと思っている。


振り返ると、3つの落とし穴に共通しているのは「前提を雑に置いた」という一点に尽きる。DCF法は前提の数だけ「ずらせるツマミ」がある手法で、そのツマミを適当に回すと答えが簡単に暴れる。

自分がたどり着いた対処法は地味だけど、感応度分析をセットで回すこと。割引率とターミナルキャップレートをそれぞれ上下に0.5%ずつ振って、収益価格がどの幅に収まるかをレンジで把握する。「答えは〇〇万円です」ではなく「〇〇万円~〇〇万円の幅に入る」と出す方が、意思決定には使える。

DCF法は道具としては優秀だけど、使い手の前提次第でいくらでも数字が動く。雑に使って「精緻な分析をやった気分」になるのが一番怖い。自戒を込めて。


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