肯定語に変えてみた修学旅行
小学校の参観日の後は、担任と保護者の懇談会がある。
本来、保護者が進める会なのだが、なかなか話題が出てこない。
教室がシーンとなると、担任から話題をふってみることもある。
ひとりのお母さんが
「うちの子は、いつも手伝ってくれるのはいいのですが、失敗ばっかりで」
と、話された。
この前も、水の入ったコップをテーブルに運ぼうとしていたので
「こぼさないでよ」
と、言ったそばからこぼしてしまって
「ほら、なにやってんの、お母さん、今、言ったよね」
と、つい叱ってしまったという内容だった。
私は、その話を聞いて、ちょうど「否定語と肯定語」の本を読んでいたので、その話を切り出した。

私は、お母さんたちに
「では、これからピンクの象を思い浮かべないでください」
と、否定語で言った。
お母さんたちは「ピンクの象」を思い浮かべたようだ。
その本によると、人間は「思い浮かべるな」と否定語で言われると、つい思い浮かべてしまうものらしい。
「こぼすな」という否定語を言われると、子どもの脳は、まず、こぼして叱られているイメージを作り出すらしい。
子どもの身体は、脳のイメージ通りに動こうとするので、結局、「こぼす」という失敗に向かって動いてしまうというのだ。
まさに、お母さんが言った通りになったわけだ。
脳は、否定語を理解できないらしい。
だから、「こぼすな」という否定語ではなく「ゆっくり、上手に運んでね」という肯定語に変えていれば、その子は成功したかもしれない。
このお母さんを責めることはできない。
私たち大人も、子どもの頃から親や先生から、ずっと否定語でしつけられてきたからだ。

私は何回も6年生の担任をしたことがある。
修学旅行も何回も引率した。
その年も、修学旅行のしおりの準備をしていた。
「生活のきまり」は、毎年同じような内容だ。
去年、私が作った「修学旅行のしおり」を見てみると、否定語が多いのに驚かされる。
たとえば
バスの中で騒がない。
風呂場で走らない。
旅館の廊下を走らない。
集合時間に遅れない。
そこで、私は全部、肯定語にしてみることにした。
安全運転のためにバスの中では静かにしよう。
風呂場や廊下はゆっくり歩こう。
時間にゆとりを持って楽しく班行動。
そして当日。
例年、小学生の修学旅行ではいろいろな事が起きたが、その年は、何も問題が起きなかった。
というより、いつもより落ち着いた気持ちの良い修学旅行ができた。
この方法は「夏休みのきまり」や「冬休みのすごし方」にも応用できそうだ。

今、私の家には3歳の孫がいる。
麦茶の入ったコップをお盆に乗せてのせて両手で運びたがる。
もちろん、声をかけるときは
「じょうずに、運んでね」
今のところ100%の成功率だ。
そのあと、クッキーを食べているとき、妻がつい
「こなば、こぼさんとよー(かけらを、こぼさないでねえ)」
と言ってしまった。
妻は四つん這いになって、テーブルの下を雑巾で拭いた。
