「給与はいくら?」も聞かずに決めた。人生の転機は、求人票にあった「分析」という二文字だった。
37年前。世の中は、空前のバブル景気に沸いていた。
街にはDCブランドをまとった若者があふれ、就職口はいくらでもあった。超・売り手市場。友達は「お祝い金」やら「ハワイ旅行付き内定」やらで盛り上がっている。
そんな中、20歳の私は、焦っていた。
私は、事務職で働いているイメージがわかなかった。
座って書類を繰るより、何か、動きのある仕事がしたかったのだ。
みんな同じリクルートスーツを着て面接を待っているこの状況の先の事務職というものに違和感がでてきた。
こころのどこかで、未知のワクワクする世界に、自分の可能性を賭けてみたかった。
けれど、短大卒の女子に、そんな専門的な口はなかなかない。
条件なんて、どうでもよかった。いくらもらえるのか確認した記憶すらない。ただ、「分析業務」という文字に惹かれて受けた、ある小さな会社。
「合格です」
その電話が来た時、私は短大の友達たちと違う道を行くんだなと実感した。
当時は20歳で働きだし、数年働いて25歳までに結婚して退職するのがあたりまえだった。
男女雇用機会均等法は1985年に制定され、1986年に施行されたけど
1989年当時、世の中の意識は全然変わっていなかったから。
そして迎えた、4月1日。入社式。
指定された本社ビルへ向かうと、支社採用だという地味な髪を後ろに束ねメガネをかけた女性が一人いるだけだった。
「えっと……今年の入社は、お二人です」
バブルの喧騒なんて、ここには一欠片もなかった。
私の社会人生活は、静かすぎる、あまりに寂しい幕開けだった。
(つづく)
