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「タイガーマスク」と「さすらいの太陽」

同日に最終回を迎えたアニメ2作
そして見逃した故に35年間
幻のヒロインを追い続けた

公開殺人「タイガーマスク最終回」


1971年9月30日木曜日、19時から、私はテレビにくぎ付けになった。

アニメ「タイガーマスク」の最終回である。

コミックの最終回と、全く異なるアニメの最終回。通常、地上波で放映される子供向け番組と、コミックの内容が異なる場合、アニメの方が「安心安全な万人向け」になると思われがちだが、このタイガーマスクにおいては全くの逆であった。

コミックでは、主人公は車道に飛び出した少年を助けるため、トラックに跳ねられて死亡する。それも「死ぬ」という意味では残酷ではあるが、あくまでも「事故」である。その場面も、ほんの2ページほど。

他方、アニメの最終回は、主人公を悪役レスラーとして育てた「虎の穴」の総帥との最終決着であり、主人公の反則による総帥の公開殺人である。圧倒的劣勢に立たされた主人公が、凶器攻撃から逃れるため、ついに自らのマスクを脱いでしまう。そして正体が明かされてしまう。ここから、主人公の大反撃である。5分間以上、この大反則による殺人シーンが放映されていた。鉄柱、割れた机、電話線、鉄製ゴングなどの凶器攻撃。最後は天井のライトに逆さ吊りにして、天井のライトの下敷きにしてしまう。無論、総帥の苦しみ悶える声も放映される。視覚・聴覚にあれほど恐ろしい場面をぶつけた放送が子供向けアニメだとは、今では考えられない。

主人公は生きるが、タイガーマスクは日本を去る。

これを当時の小学生は見ていたのだ。私も小学校4年生だった。

タイガーマスクは、その後も何度か再放送された。2012年にはMXテレビで全話放映されたが、それ以降、少なくとも関東では放映されていない。

と、ここまでは、タイガーマスクを当時観ていた者や、再放送を観た者であれば、衝撃的すぎることもあって、記憶に残っているだろう。

裏番組「さすらいの太陽」との出会い


ここからが本題である。

タイガーマスクは木曜日の19時からの放映であったが、それが終わると(エンディングの歌は、ちょっと暗めで好きでなかったので、翌週の予告が終わると)、私はチャンネルを変えていた。そう、最終回のひと月ほど前からである。何を19時半から観ようとしていたのかは覚えていないが、チャンネルを回した。

すると、あるチャンネルから、とても素敵なメロディーが流れていた。そして、画面にはギターを抱えた「きれいなお姉さん」の絵姿。裏番組でのアニメのエンディングだった。


これが私と「さすらいの太陽」との出会いであった。

幻の主人公


「さすらいの太陽」という名前を聞いただけで、何となく大人っていう感じがしたし、そこにきてエンディングで主人公の女性の大人びた雰囲気(藤圭子がモデルだともいわれる)に、このアニメを観てみたい!という強い願望を抱いたのだ。また、エンディングの曲がいい。堀江美都子が歌う「心の歌うた」。何と透き通った声なのだろう!

とはいえ、あと数回で最終回を迎えるタイガーマスクは見逃せない。最終回からさかのぼること数回は、必ず次回予告が終わるとすぐにチャンネルを切り替えた。いったいどんなストーリーなのだろう?それまでに観ていた女の子が主人公のアニメと言えば、サリーちゃんとか、アッコちゃん、そして、アタックナンバーワンのこずえと、どれも元気だが心を揺さぶられるような「雰囲気」に欠けた。9歳の少年の心は、急速に主人公に傾いたのだった。

まぁ、モデルが藤圭子と聞けば納得だが、とにかく主人公が大人(実際は高校生から高卒くらい)で、しかも「流し」もやるお姉さんなのだ。あの「圭子の夢は夜ひらく」の。それまでの女の子アニメの主人公がまるで子供に見えた。

ところが、とにかくタイガーマスクの裏番組なので、アニメ本編は観ていない。彼女(の声優)が、どんな声をしているのか分らない。だから、堀江美都子の歌で想像をめぐらせた。藤圭子ばりの大人びた雰囲気に、澄み切った声。最強だと思った。

そして、タイガーマスク最終回が無事終わった。興奮冷めやらぬまま、チャンネルを回す。そして思った。来週からは「さすらいの太陽」を観られる!と。

しかし残酷にも、タイガーマスク最終回の1971年9月30日は、さすらいの太陽も最終回でもあった。

コミックを買う


どうしても「さすらいの太陽」がどんなストーリーなのか知りたい。
小学校4年生男子が、女の子向けコミック誌を買うのは勇気が必要だった。それでも、どうしても読んでみたかった。全4巻なのだが、最初に2冊、次に1冊買った。

ストーリーは、本当に恐ろしいものだった。

貧しい家に生まれ、青春を謳歌できなかったナースの「道子」が、大金持ちと、貧乏な家に当日に生まれた女の子をすり替えてしまう。そして貧しい家の娘(美紀)は財閥令嬢として育ち、財閥令嬢の娘(のぞみ)は貧しい家に育つという。それだけではなく、社長の家には、その貧しい家から養子をもらっていたのだ。つまり、すり替えられた2人の女性に対して、その養子は「兄」であり「偽の兄」である。そしてさらに、この養子は本当の子供(娘)が生まれたことで、居場所がなくなり家を出てしまう。そして、数年後、ボクサーとして2人の前に戻ってくる。

一方、運命の2人はともに歌手を目指す。財閥令嬢として育てられた「美紀」は金を使って。貧しい家で育った「のぞみ」は自らの力で。

ある時偶然、養子である「尚(ひさし)」が、のぞみと遭遇し、紆余曲折のうちに恋をする。さて、のぞみは、本当は財閥令嬢であり、尚は貧しい家に生まれた息子であるが、すり替えられた事実はナースの道子しか知らない。つまり、二人は見かけ上、「兄弟」である。それをある日、尚だけが知ってしまう。失意の尚はボクシングで惨敗し、日本を去る。のぞみは彼が去ってしまったことで、非常に悲しむ。

だが、やがて真実(ではないが、偽の真実)を知ることになり、二人は(偽の)兄弟であるという事実に打ちのめされる。

まぁ、このような暗いストーリーなのだが、主人公ののぞみは常に明るいのだ。太陽のように。

最終巻を買いそびれ、アニメとコミックに差があることに違和感


私は3巻まで購入したが、4巻はいずれ買おうと思っているうちに「絶版」になってしまった。

さて、テレビでも再放送全盛期だったので、いずれ再放送があると思っていたのだが、全然再放送されない。これには、アニメの中で使われた歌謡曲の数々の権利の問題などが絡んでいたようだが、結局、高校3年?のとき、つまり8年後に1度だけ再放送された。

しかし、この再放送と、私が3巻まで読んできた内容は、タイガーマスク同様、アニメとコミックに違いがあった。但し、タイガーマスクではアニメが非常に残酷であったのに対して、さすらいの太陽では、コミックが圧倒的に怖かった。特に、ナースの道子が所々ですり替えた2人の運命の邪魔をする。貧しい家に生まれ財閥令嬢として育った娘に、すり替えた事実を教えて脅すとか、とにかく怖いのだ。

35年後に知る結末


私が第4巻を入手したのは2006年、復刻本が出た時である。35年待った。色々調べ、ある程度、結末は知っていた。しかし、それはあらすじを知っただけである。手元に復刻本が届いたときは感動した。やっと、やっと読める。興奮で手が震えた。

コミックの結末は恐ろしい。

最終的に、兄弟ではないことが判明した尚とのぞみは、尚がボクシングでチャンピオンになったタイミングで婚約した。そして、庭に記念樹を植えた時に古釘が尚の指に刺さり、それがもとで破傷風になる。血清があれば助かるのだが、血清を運ぶ車両に、道子が車ごと体当たりする。血清は届かず、尚はのぞみに抱かれながら息を引き取る。

のぞみ、美紀、尚の運命を狂わせた道子だが、のぞみは、一度、道子に助けられたことがあった。そして、その時の姿が本来の道子であると言い、道子を許すのである。

アニメ版では、すり替えられたという点から始まるのは同じだが、展開は全く違う、ハッピーエンドである。尚も、全く違う家の生まれであり、偽の兄弟のような複雑な関係は一切なかった。もちろん、尚は死なない。

さて、同じ日に、最終回を迎えた2つのアニメ。コミックとアニメで全く異なる最終回。その残酷さが、どちらに出ているかが2つの作品においては真逆である。

確かに、さすらいの太陽はコミックの方がはるかに深く、怖いが、面白い。

しかし、コミックにはない「歌」がアニメにはあった。そして、エンディングに映るのぞみの姿が、コミックよりも少し大人びていた。あの、堀江美都子が歌った「心のうた」がなければ、そして、あの大人びた絵柄がなければ、この35年にもわたる待ち時間も、その末に結末を読み感動することもなかったのだ。

タイガーマスクのアニメ最終話と、さすらいの太陽のコミック最終話、どちらが怖いだろう。私は後者である。しかし、のぞみは道子を許し、太陽のように明るく歌い続けるのだった。それが救いである。

「同日に」最終回というのは、のぞみと美紀が同日に生まれたという設定を想起させる。私にとっては運命的な偶然だったのかも知れない。

堀江美都子に藤圭子の曲は似合わない。だが、私が35年間追い続けた幻の主人公「のぞみ」は、藤圭子の雰囲気を持ち、堀江美都子の澄み切った歌声を持つ奇跡の歌手である。暗い過去を背負いながらも、道子さえも許し、太陽のように明るく歌い続けるヒロインなのである。

わずか30秒の映像に魅了され続けた35年である。

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