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戦士と囚われの女の物語


 ボルヘスは、クローチェ「詩学」において歴史家のパウルス助祭によるラテン文が要約され、ドロクトゥルフトの運命が語られていること、その墓碑銘が引用されていることにふれる。ロンゴバルド族の戦士であった、自軍の陣営を捨てラヴェンナ市の防禦にまわった彼の運命について、ボルヘスは6世紀中葉のものとして物語を想像してゆく。
 小説はボルヘスの祖母が語ってくれた、「パンパ」あるいは「奥地」、この世界の最果ての地に追放されたイギリス婦人の運命について綴られてゆく。そしてふたつの物語は貨幣の裏と表であって同一なものであると結んでいる。


土岐恒二 訳による 「戦士と囚われの女の物語」 一部抜き写しタイピング

 彼死の眠りを侮れり、されど彼われらを愛す、遠つ祖よ
 ここラヴェンナを彼の祖国と観じつつ

 

 ~~ひとりの兵士がその少女に、別のイギリス婦人が彼女と話をしたがっている、と教えてやった。少女は承諾して、恐れげもなく、しかし多少の危惧を感じながら、司令部にはいった。野蛮な顔料をごてごて塗りたくった彼女の顔のなかで、二つの目だけが、イギリス人なら灰色と呼ぶような、うんざりするほどの青さだった。からだは雌鹿のように軽く、手は丈夫で骨ばっていた。彼女は無人の境の《奥地》からやってきたが、彼女にとってはドアも壁も家具もすべて小さすぎるように思われた。
 おそらく二人の女は、一瞬、姉妹のような気持ちになったことだろう。二人ともあのなつかしい島国からこの思いもよらなかった国へやってきた同士なのだから。わたしの祖母は二、三の質問を発した。相手の女は、言葉をさがしたり、言い直したりしながら、まるでその古い味わいにびっくりしたように、たどたどしい口調で返事をした。彼女にすればもう十五年ものあいだ母国語を使っていなかったので、そう簡単にはすらすらとは出てこないのだった。それでも彼女はヨークシャー出身であること、彼女の両親がブエノスアイレスに移住してきたこと、インディオの襲撃で両親をなくしたこと、そのインディオに連れ去られて、いまでは酋長の妻になり、すでに二人の息子がいること、夫は勇敢だということなどを祖母に語った。こうしたことを彼女はすべて粗野な英語のところどころにアラウコ語、あるいはパンパの言葉を混じえて語ったのだが、その物語の背後には野蛮な生活がかいまみられた。それは、馬の皮を張った小屋、乾かした馬糞の焚き火、焦げた肉か、なまの内臓もつの食事、夜明けがたの密かな出発、牧場への襲撃、ときの声と略奪、戦闘、いくらでもいる家畜の群れに襲いかかる半裸の騎手たち、一夫多妻制、悪臭、呪術などの生活であった。イギリス婦人がこのような野蛮な状態に身をおとしていたのだ。あわれみと衝撃に度を失って、わたしの祖母は、彼女を保護し、子供たちを取り戻してやるから、絶対にそんなところへ戻って行かないように説得した。女は、自分は幸福なのだと言い残して、その夜ふたたび大草原に帰っていった。~~