(ショートショート)旅立ち(虹色創作部)
体育館にピアノの旋律が流れ出した瞬間、胸の奥が熱くなった。
今日、私は旅立ちの日を迎えた。
檀上で歌うのは、卒業式の定番曲『旅立ちの日に』。
その歌詞の一言一言が、これまでにないほど深く、今の私の心に染み渡っていく。
溢れ出しそうな涙をこらえ、私はあえて前を向き、最高の笑顔で声を重ねた。
振り返れば、六年前。
中学受験を経てこの女子校の門をくぐった時の私は、まだ小さくて、不安でいっぱいだった。
初めての寮生活、厳しい校則、慣れない学生生活。
親元を離れた寂しさに、夜の毛布の中で何度溜息をついたか分からない。
けれど、そんな私の隣にはいつも「仲間」がいた。
試験の結果が悪くて落ち込んだ夜も、部活の練習が辛くて投げ出しそうになった時も、彼女らがいたから踏みとどまれた。
嬉しいことがあれば自分のことのように飛び跳ねて喜び、バカげたことで腹を抱えて笑い合う。
そんな泥臭くて騒がしい毎日が、いつの間にか私の「居場所」になっていた。
「いま、別れのとき」
歌詞に合わせて、視界が少しだけ滲む。
この六年間で、私の背丈は伸び、声は低くなった。
けれど一番変わったのは、誰かを支え、誰かに支えられる強さを知った心だと思う。
「旅立ち」
その言葉の重みを、今、肌で感じている。
この校門を出れば、私たちはそれぞれの道へと散らばっていく。
けれど、ここで培った絆は消えない。
いつかまた再会したとき、「かっこよくなったな」と思ってもらえるような、成長した自分を、私は未来の自分に誓った。
最後のフレーズを歌い終えたとき、窓から差し込む春の光が、誇らしげな私たちの顔を優しく照らし出していた。
Fin。
※この小説はフィクションです。
登場するモノや人物は存在しません。
↑この企画に参加しました。
ありがとうございました。
