見出し画像

(ショートショート)絶望の淵に見た景色

 夕暮れの薄暗い時間に走る「たそがれ列車」があるらしい。
乗ると夢をかなえられるという、そんな甘い噂がある。

 僕は、この世に心底ガッカリしていた。
頑張っても頑張っても報われない。

 お金で解決する世の中に辟易し、トボトボとうつむきながら歩いていた。

 地面に伸びる自分の影が消えかかる黄昏時、僕のすぐ横で、古い汽笛の音も立てずに何かが止まった。

 それが噂の「たそがれ列車」だ。

 勝手に扉が開く。

 自然と僕の足が動き、暗い車内へと吸い込まれるように乗り込んだ。

 乗客は僕だけだ。空いた席に腰掛ける。

 窓から空を見上げると、夜の帳が降りたばかりの空に、傷ついたような「ひび割れた月」が見えた。

 ひび割れた感じが、今の疲弊しきった僕の心みたいだと感じた。

 たそがれ列車は、僕を乗せて静かに走る。

 どれほど時間が経っただろうか。

 車窓には、水底の星が輝くように透き通った、綺麗な川が見えてきた。

 その水面に、一艘いっそうガラスの舟が浮かんでいる。

 綺麗な川につくと、たそがれ列車は止まり、扉があく。

 目の前のガラスの舟に乗れ、ということらしい。

 戻ってこれなくてもいいや。そう思い、意を決してガラスの舟に乗り込むと、舟は勝手に動き出した。

 船上から空を見上げると、そこにはやはり「ひび割れた月」が静かに輝いていた。

 (ひび割れてたって、欠けてたって、こんなに強く輝けるんだ)

 完璧なモノなどないんだと、その光が教えてくれた気がした。

 絶望に沈んでいた胸の奥が、温かく軽くなるのを感じた。


Fin。


↑この企画に参加しました。
ありがとうございました。