(ショートショート)晴れた日に
晴れた日に、僕は旅立つ。
卒業式の余韻に浸る間もなく、僕はトランクにこれまでの自分と、これからの希望を詰め込んでいた。
行き先は、海を越えた先にある海外の大学だ。
これまで、僕は温室育ちの植物のように、両親の深い愛情というベールの下で大事に守られてきた。
けれど、進路を考え始めた時、胸の奥で小さな火が灯った。
「もっと広い世界を見てみたい。そこで苦しんでいる人たちのために、自分にできることを見つけたいんだ」
漠然とした、けれど確かな熱量を持った僕の夢を、両親が受け入れるまでには長い時間がかかった。
何度も衝突し、対話を重ね、ようやく勝ち取った「自立」への切符。
空港へと向かう父の車のなか、空気は重く沈んでいた。
窓の外を流れる見慣れた景色。
助手席の母も、ハンドルを握る父も、何も言わない。
別れの寂しさが、言葉を飲み込んでしまったかのようだった。
その時、カーステレオから微かに音楽が流れ始めた。
それは、僕がまだ小さかった頃に街中でよく耳にした、懐かしいヒット曲だった。
「あ、この曲」
誰からともなく、小さく口ずさみ始める。
やがてそれは家族三人の合唱になった。
音楽が魔法のように車内の空気を溶かし、張り詰めていた緊張がふわりと解けていく。
「これから先、何度も高い壁にぶつかると思う。でも、お前なら大丈夫だよ」
空港の出発ロビーが見えてきた頃、父が真っ直ぐな声でそう言った。
母も深く頷いている。
過保護だった両親が、初めて僕を「一人の大人」として送り出してくれる瞬間だった。
車を降りて見上げた空は、どこまでも澄み渡っている。
眩しい日差しを背に受けて、僕はもう振り返らない。
この晴れた空が、僕の選んだ道の先をずっと照らしてくれているような気がしたから。
Fin。
※この小説はフィクションです。
登場するモノや人物は存在しません。
↑この企画に参加しました。
ありがとうございました。
