(ショートショート)ソフトクリーム
日差しがカンカンと照り付ける真昼。
夏目 凛音、25歳は、うだるような暑さの中、アスファルトの上に立っていた。
お盆が過ぎたとはいえ、八月の太陽は容赦がない。
気温が40度近くにもなる猛暑日に、凜音は取引先への謝罪に出向いた後だった。
自分の、聞き間違いとは言え納品数を間違うという、社会人として初歩的すぎるミス。
エアコンの効いた会議室で頭を下げ続けた一時間が、ずっしりと肩にのしかかっている。
取引先のビルを出た瞬間、外の熱波に凛音はくらりと一瞬たじろいだ。
「このままでは倒れてしまう」
朦朧とする意識でそう思った時、ふと、色褪せたレンガ造りの喫茶店が目に留まった。
まるで昭和の時代からそこだけ時間が止まっているような、懐かしい佇まいだ。
吸い寄せられるようにドアを開けると、カラン、と涼やかなベルの音が鳴った。
むっとする外気とは別世界の、ひんやりと落ち着いた空気が肌を撫でる。
店内に流れる懐メロの優しいメロディが、張り詰めていた心をそっと解きほぐしていくようだった。
「いらっしゃいませ」
物静かなマスターに促されカウンター席に腰を下ろすと、凛音はメニューも見ずに言った。
「ソフトクリームを、ください」
すっと目の前に差し出された、ガラスの器に盛られた真っ白なソフトクリーム。
一口運ぶと、ひんやりとした純粋な甘さが、ささくれ立った心を優しく包み込むようだった。
先方の厳しい顔、頭を下げ続けた自分の姿。
そんな苦い記憶が、この甘さの前で少しずつ溶けていく。
失敗はしたけれど、世界の終わりというわけじゃない。
口いっぱいに広がる爽やかさに、強張っていた表情が自然と緩む。
「よし、これからも頑張るか」
凛音は空になったグラスをそっと置くと、静かに席を立った。
ほんの十分ほどの休息だったが、心は不思議なほど軽くなっていた。
おしまい。
参加させていただきました。
