(ショートショート)満月の夜、運命に抗う
あの山には、狼の守り人がいるという噂がある。
誰もその姿を見た者はいない。
けれど、何かに導かれるように、僕は勇気を振り絞ってその深い森へと足を踏み入れた。
探索を続けるうちに、いつしか道を見失い、あたりは深い闇に包まれた。
見上げれば、夜空には神々しいほどの満月が浮かんでいる。
その光を浴びた瞬間、僕の脳裏に満月の記憶が鮮やかによみがえってきた。
十五夜の夜、家族揃って月見団子を食べた、あの温かな時間。
いつからだろう、僕たちの家族がバラバラになったのは。
父が愛人を作って家を出てから、家の中は小さな物音すら立てづらいほどの、冷たい静寂に支配されるようになった。
「もし、運命を書き換えるペンがあるのなら」
そんな妄想を何度しただろう。
過去へ戻り、壊れゆく家族を繋ぎ止めたかった。
けれど、現実に魔法のペンなど存在しない。
僕はただ、母を楽にしたい一心で死に物狂いで勉強し、図書館に通い詰め、ようやく医者という切符を掴み取った。
ドラマやアニメのように、前世に戻ってやり直すことはできない。
「運命とは決まっているものだ」と、どこかで諦め、開き直っている自分もいた。
けれど、この孤独な月夜の下で僕は誓う。
これからの人生は、決められた運命に逆らって生きていこう。
真面目に、誠実に生きてきた人だけが最後には報われ、幸せを掴み取れる世の中を目指して。
Fin。
※この小説はフィクションです。
登場人物は、存在しません。
↑この企画に参加しました。
ありがとうございました。
