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(ショートショート)ロマンスが足りない アマノ文筆クラブ

 付き合って六年。

 僕たちの関係は、もはや「空気」のように穏やかで、それゆえにどこか停滞していた。

 「結婚」の二文字が浮かんでは消える日々の中、僕はマンネリという名の壁を打ち破ろうと、彼女を旅行に誘った。

 滑るように走る新幹線の車内。

 隣り合って座っているのに、会話は途絶え、ただ時間が過ぎていく。

 窓の外を流れる緑を眺めながら、僕は精一杯の言葉を絞り出した。

 「景色、きれいだね」

 その一言に、彼女はおもむろに神妙な顔つきで僕を振り返った。そして、消え入りそうな声でこう呟いたのだ。

 「ロマンスが足りない

 「えっ」と思わず聞き返した僕に、彼女は溜まっていた感情をぶつけるように続けた。

 「その通りよ。私たち、あまりにマンネリ化して、ロマンスが足りないのよ!」

 僕は焦った。

 観光スポットを巡る提案をいくつも並べ、彼女の笑顔を取り戻そうと必死になった。

 けれど、彼女は力なく溜息をつくだけ。

 そのときだった。

 僕たちの横を、幸せを絵に描いたような新婚カップルが笑いながら通り過ぎていった。

 彼女の視線が、吸い寄せられるように彼らを追う。

 「そういうことか」

 目的地に降り立った僕は、彼女に「少し待っていて」と告げると、近くのアクセサリーショップへと駆け込んだ。

 しばらくして、街角で所在なさげに待っていた彼女の元へ駆け寄り、僕は迷わずその場にひざまずいた。

 「結婚してください」

 差し出した指輪の箱を開けると、彼女の目から大粒の涙が溢れ出した。
 
 「はい」という短い返事の中に、六年の歳月が凝縮されている気がした。

 他人同士が一生を共にするということは、これからも多くの壁にぶつかるということだろう。

 けれど、マンネリを恐れるのではなく、互いを思いやり、歩み寄る努力さえ忘れなければ、どんな壁も乗り越えていける。

 「ロマンス」とは、与えられるものではなく、二人で育んでいくものなのだと、僕は彼女の涙を見て痛感した。


Fin。

※この小説はフィクションです。
登場するモノや人物は存在しません。


↑この企画に参加しました。
ありがとうございました。