(ショートショート)華のないふたり
急に寒くなってきて、体を丸めるように動く、今をときめく男性アイドル五人組グループ『ECLIPSE』。
五人は、女性マネージャーの白川 椿が運転するワゴン車で次の現場に向かっていた。
暖房が効いているにも関わらず、車内の空気は張り詰めている。
センターでリーダーの愛斗が、深い溜息を一つこぼした。
「俺は、この後も映画の撮影もあるんですよね?」
その瞬間、それまで暖房で温められていた車内の空気が、凍りついたようにひび割れた。
不人気メンバーで「華のないふたり」と陰口を叩かれている湊と大和が、その空気の中で低く毒づく。
「いいよな。人気の奴は」
「現場、多すぎて羨ましい限りだ」
他のメンバーの颯真と朝陽は、「また始まった」とばかりにうつむき、イヤフォンを耳に押し込んで寝たふりを装った。
椿は、元アイドルだ。
結婚と妊娠を機に引退し、離婚でシングルマザーとなった後、知り合いのつてでマネージャーをやっている。
アイドルグループは、人気メンバーと不人気メンバーに分かれると、最悪の場合、解散の危機を迎える。
『ECLIPSE』は、まさにその瀬戸際にある。
いつしか芸能人は神格化され始めた。
ファンが求める「完璧な芸能人」を演じなければいけない。
マスコミも、過剰に褒めまくる。
だが、その裏では、わずかなミスでも叩かれる。
(褒めることが悪いわけじゃない。でも…)
椿は、いつも思う。
褒めすぎることで、その後のバッシング(叩き)を引き起こすことを予測して、記事やつぶやきをしてほしいと。
過剰な称賛が、次の非難の嵐を呼ぶ。
それを、世間は褒めハラスメントと呼ぶらしい。
褒めハラスメントとは、よかれと思ってした褒め言葉が相手を不快にさせたり、意図せず傷つけたりするハラスメント行為です。特に、相手の容姿を過度に褒めたり、上から目線で褒めたり、プライベートに踏み込むような言動などが含まれます。
芸能人も人間だ。
誰もが愛斗のように華がある人ばかりではない。
運転席のミラー越しに、後部座席の湊と大和の沈んだ顔が映る。
(華がなくだって、いいんだよ)
椿は、彼らが誰よりも必死に汗を流しているのを知っている。その努力こそが、彼らの持つ光なのだ。
暗くなってきた夜空をふと見上げ、椿は窓を少し開けた。
冷たい外の空気が車内に入り込み、張り詰めた空気を揺らす。
その刺激に、椿は深く深呼吸した。
椿は、アクセルに力を込める。
その足先に込めたのは、この「華のないふたり」にも、そしてグループ全体にも、必ず光を当てるという強い決意だった。
おしまい。
↑この企画に参加しました。
ありがとうございました。
