(ショートショート)ミイラ取りはミイラになれ
僕は、怪獣の子供だ。
ざらついた皮膚を隠すように、全身に真っ白な包帯をぐるぐると巻き付けて遊ぶのが、僕の日課であり、僕なりのドレスコード。
高い場所から人間たちの営みを眺めるのは、どんな退屈しのぎよりも面白い。
僕の瞳に映る人間模様は、いつだって支離滅裂で、滑稽な喜劇のようだ。
「ふうん……また始まったよ」
今日も、受話器の向こうや会議室の隅で、「ミイラ取りがミイラになっている」光景を見つけた。
相手を説得し、自分たちの色に染めようと勇ましく出かけていったはずの人間が、気づけば逆に言いくるめられ、相手の陣営で楽しそうに笑っている。
信念なんて、その程度のものなのだろうか。
「いっそのこと、世界中のミイラ取りはミイラになればいいんだ」
暗い影の中で、僕は小さく毒づく。
だって、彼ら「人間様」には、最初から「自分」なんてものが存在しないように見える。
テレビを付ければマスコミの言いなりになり、右を向けと言われれば一斉に右を向く。
流行の服、流行の食べ物、流行の人などなど。
最初は「あんなの興味ない」と冷めた顔をしていたはずなのに、数日も経てば、蜘蛛の巣に絡め取られた蝶のように、その熱狂の中にどっぷりと浸かっている。
周りに合わせて、個性を殺して、誰かの作ったレールの上を歩く。
その姿は、僕が体に巻いている包帯よりもずっと不自由で、空っぽに見えるんだ。
連日、テレビの画面からは同じ顔ぶれの芸能人が、ぼんやりとした記号のような笑顔を振り撒いている。
最初は見向きもしなかった人々が、あちこちでその名前を口にし始める頃には、もう手遅れだ。
無自覚に、侵食されていく。
「自分」という殻を持たない彼らが、得体の知れない大きな波に飲み込まれていく様は、怪獣の僕から見ても、少しだけ、いや、相当に、怖い。
僕はまた、自分の包帯をきつく締め直した。
せめて僕は、この包帯の下にある「僕」だけは、誰にも渡さないように。
Fin。
※この小説はフィクションです。
登場するモノや人物は存在しません。
ブームを批判する内容の作品ではございません。
↑この企画に参加しました。
ありがとうございました。
