(ショートショート)三月は
三月は、別れの季節だ。
それと同時に、私にとっては新しい自分へと脱皮する季節でもある。
合格通知を胸に、医者という夢を追いかけて都会の大学へ進むため、私は間もなくこの街を離れ上京する。
振り返れば、中高一貫の女子校で過ごした六年間は、決して平坦な道のりではなかった。
入学当初は慣れない寮生活に打ちのめされ、毎晩のように泣きながら母に助けを求めるLINEを送っていた。
張り詰めた緊張感の中で過ごす毎日は、どこか自分の居場所がないような、落ち着かない心地がしていた。
そんな私を変えたのは、皮肉にも重い病による入院だった。
病室に届けられたのは、クラス全員が折ってくれた千羽鶴。
一度も言葉を交わしたことがないクラスメートまでもが、私のために祈りを込めてくれたのだ。
その温かさに触れた瞬間、頑なだった私の心の壁は、音を立てて崩れ去った。
「他人のものさしで自分を測っても、何も始まらない」
そう気づいてからは、随分と心が軽くなった。他人と比べてウジウジするのはもうおしまいだ。
一時期、ストレス発散のために「推し活」にすべてを捧げたこともあった。
けれど、ある時ふと気づいてしまったのだ。
私は特定の誰かを推しているのではなく、何かに夢中になっている「自分自身の状態」が好きだっただけなのだと。
それは言わば、「恋に恋している」ような、空虚な熱情だった。
「同じ熱量とお金をかけるなら、これからは自分自身に投資したい」
私は、自分自身を磨き、高めていく「自分推し」になることを決めた。
高校卒業とともに、誰かに依存する推し活からも卒業する。
新しいステージで、私はどんな大人の女性へと成長していくのだろう。
窓の外に広がる三月の空は、どこまでも高く、青い。
トランクに期待と少しの不安を詰め込んで、私はまだ見ぬ未来へと一歩を踏み出した。
Fin。
※この小説はフィクションです。
登場するモノや人物は存在しません。
推し活をしている人たちを批判していません。
卒業される方々「卒業おめでとうございます」
↑この企画に参加しました。
ありがとうございました。
