(ショートショート)倫理ピープル
「倫理」――それは、人間社会において何が正しく、どう行動すべきかを判断するための基準。法のような強制力こそないけれど、誠実さや公正さを重んじ、自律的に「こうあるべきだ」と律する、いわば人として守るべき道のことだ。
私たちは、ずっとその道を忠実に歩んできたつもりだった。
けれど、ふと顔を上げた今の世の中は、教科書に書かれた理想とはあまりに真逆で、吐き気がするほどに生きづらい。
悪いことをしても、声の大きい者が許される現実。
何でもかんでも「お金」で解決すればいいと嘯く人々。
そんな歪んだ景色を前にして、私たちはいつも立ち尽くしている。
大学の片隅にある古びたサークル室。その扉には、「論理ピープル」という、どこか理屈っぽくて変わった名前のプレートが掲げられている。
名前こそ「論理」だが、私たちが日々ここでこねくり回しているのは、答えのない「倫理」の問いばかりだ。
今、私たちに課せられている課題は、あまりに難解だった。
「倫理を守りながら、いかに自分らしく生きていられるか?」
きっとこの問いは、四年の大学生活どころか、一生かかっても「合格」のハンコはもらえない代物だろう。
自分を殺して社会に擬態するか、倫理を捨てて自分を貫くか。
その二択ではない、第三の道を探して、私たちは今日も議論を戦わせる。
「真面目に生きている人が、ちゃんと報われればいいのにね」
誰かの呟きが、狭い室内に溶けていった。
世の中に溢れる不条理に抗う術を、私たちはまだ持っていない。
けれど、せめてこのサークル室にいる間だけは、正しさを信じていたい。
私は、「論理ピープル」のサークル室の窓から、どこまでも続く青い空を見上げた。
あの空の青さのように、真っ直ぐに、けれど自分を失わずに生きていく。
その答えを見つける旅は、まだ始まったばかりだ。
Fin。
※この小説はフィクションです。
登場するモノや人物は存在しません。
↑この企画に参加しました。
ありがとうございました。
