(ショートショート)泡立つ迷い、あるいは孤独な春の断片
流れる景色が、僕の心の迷いを置き去りにして加速していく。
学生時代から隣にいたはずの彼女との距離が、今は何万光年も離れているように感じられて、私は逃げるように新幹線のホームへと向かった。
窓の外、輪郭のぼやけた山々を眺めながら、脳裏には彼女とのあまりに素っ気ないやり取りが再生されていた。
「あそこ、行ってみた? 前に教えた行き方で」
「いいえ、行ってませんね」
その一言だった。
丁寧すぎる敬語と、事務的な響き。
自分から動くことを好まない彼女のために、調べ、整え、差し出した私の熱意は、行き場を失って足元に転がった。
動揺した私は、その後の会話を何一つ覚えていない。
ただ、気づいたときには行き先も決めず、この新幹線の指定席に身を沈めていた。
ふと、視線を落とした座席の隅。
そこには、前の乗客が落としていったのか、一枚の花びらが小さく震えていた。
指先で拾い上げると、それは春の終わりを告げる桜の残骸だった。
なぜだろう。
そのあまりの儚さに、堪えていた感情が熱い涙となって頬を伝った。
一生懸命だった自分と、それを受け流された虚しさが、この薄紅色の欠片に重なって見えたのかもしれない。
私は慌てて涙を拭い、売店で買ったレモンスカッシュのプルタブを開けた。
はじける刺激。
鋭い酸味が喉を通り抜けると、霧が晴れるように少しだけ思考が軽くなった。
このまま、慣れ親しんだ過去にしがみついていていいのだろうか。
それとも、この列車のスピードに合わせて、私も新しい軌道を描くべきなのか。
行き先は、まだ決まっていない。
けれど、炭酸の泡が消える頃には、私は私自身の心と、もっと正直に向き合える気がしていた。
Fin。
※この小説はフィクションです。
登場するモノや人物は存在しません。
↑この企画に参加しました。
ありがとうございました
