(ショートショート)無茶ぶりはやめて
急に寒くなってきて、外のロケが心底嫌になる時期になった。
私は、テレビ局の新人アナウンサー。
今日も、番宣と名のついたロケ番組で、一人の俳優を「おもてなし」する役目を負っていた。
番宣ゲストとしてやってきた俳優の高圧的な態度に、ムカッとしたが、そこは新人とはいえプロだ。
徹底して大人の対応に徹する。
冷静に見えても、腹の中は煮えたぎるようなあらぬ感情で騒がしい。
俳優様を気持ちよくもてなすのが私たちの仕事だから、我慢するしかないと自分に言い聞かせる。
だが、だからといってしたい放題やられるのは、やはりムカつく。
ふと、フロアディレクターが掲げるカンペが目に入った。そこには、次の企画の内容が記されている。
(「無茶ぶりはやめて」とあれほど言っているのに)
心の中でむくれながらも、カンペに従い、私は笑顔で体を張る。
冷たい風が吹く中、池に飛び込むような無茶な企画に、ためらいなく飛び込む。
(いつまでこんなことすればいいのか?)
自問自答しながら、私は心の中で、今日のロケで一番美しい「プロの意地」を宿した笑顔を、カメラに向かって作り上げた。
どんな屈辱にも負けず、この仕事を続けるために。
今日も、この笑顔で乗り切る。
おしまい。
↑この企画に参加しました。
ありがとうございました。
