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ぼくとコーヒー~日本代表の座を賭けたSCAJ 2025~




ぼくとコーヒー10~日本代表の座を賭けたSCAJ 2025~






ぼくが文章を書き始めて約8か月になる。





元々はあがた森魚さんのライブを見て、自分も発散できればという勢いから始めた。





コーヒーにまつわるエッセイや、音楽や本について話をしてきた。





案外よく続いたものだ。






今後もそのスタンスは変わらないと思う。







そして他の方のnoteを色々見ていると小説を書いている方が多いのも印象的だった。





それに影響されてか、ぼくはぼーっとしている時に、なんとなく物語の構想を練っている時間が増えてきた。




かといって小説を書きたいわけではなく、なんとなくストーリーを組み立てて、こうすればおもしろいかなと漠然と考えるだけで、それは泡のように消えていくものだった。




あるとき、PCの画面を開いたら、小説を書き始めていた。




もちろんコーヒーがテーマになっている。




初めて書いたこともあってか、さらさらと書けたような気もする。




でもいつものエッセイより短い、短編の短編という感じだ。




短編小説というより短文小説かもしれない。




2作目の構想もなんとなく考えている。




と思ったら2作目も書き上げてしまった。




書いただけで、今のところ出す予定はないけど、これもタイミングが合えば出すのかもしれない。




読みたい人がいるのかわからないし。





そんなわけで、脱線から話がスタートしてしまったけど、タイトルと関係ない話をしているわけではなく、一応関係がある。





ちなみにタイトルの日本代表の座を賭けたというのは、ぼくのことではない。





先日、東京でおこなわれたコーヒーのイベント、SCAJ2025に行ってきた。




交通手段はもちろん車だ。




いつもならイベントが終わったあと、どこかで一泊して遊びながら帰るという予定だったけど、今回、コーヒーの注文が入っていたこともあり、そのまま帰ることにした。




片道500km以上の道程を一人で運転する。




時間は十分にあったので、小説の構想を考えていた。



といっても具体的なことを考えていたわけではなく、登場人物の年齢や、時代背景、どんな話にするか、コーヒーをどう織り交ぜるか、断片でしか考えていないし、音楽も聴きながらだったので、思考は途切れ途切れだった。




今回、往路は下道メインで、帰りは高速と決めていた。





往路は西名阪と首都高に乗っただけだった。





9月25日の20時に出発し、4時半ほぼちょうどにビッグサイトに到着した。




仮眠はせず、トイレに1度行ったぐらいでほぼノンストップで走り続けた。




駐車場がオープンするまで3時間近くも仮眠できたのでありがたかった。





もちろん出発前にコーヒーを淹れていった。




エチオピアのチェルベサ、ナチュラルの浅煎りだ。




モンスターでドーピングをして、しっかりカフェインを体内に溜め込んでいたので、楽なドライブだった。




ただ、藤枝バイパスが通行止めになっていて、藤枝の市街地を初めて走ったので少し緊張感があった。




愛知から静岡にかけてのバイパスがどんどんつながっていくのはすごくありがたい。




そんなわけで無事駐車場に入ることができた。





SCAJは業界内ではカンファレンスと呼ばれていて、コーヒーに関係する業者向けの展示会がメインのイベントだ。




生産者や、商社、焙煎機やエスプレッソマシンなどの業務用の器具があり、その器具や、新しいコーヒーの試飲ができ、導入を考えている人は商談ブースで打ち合わせをするという感じだった。



でもそれはコロナ禍の前の話で、今はSCAJと言われ、業者向けというよりは一般客向けたコーヒー好きのためのイベントというようなものになっている。


コロナ禍でコーヒー人口が一気に増えたので、参加者の間口を広げる方向にシフトしたのだろう。



ぼくとしては以前のような形のほうが好きだったけど、時代の流れには逆らえない。



でもコーヒーのお祭りという感じで、今のSCAJもすごく楽しいけど。



今回の目的はコーヒー豆の仕入れ先の確保だった。



今も仕入先はあるのだけど、大手の商社ではなく、中小企業が輸入している豆を仕入れてみたかった。



ここで難しい話はあまりしたくないので簡単にしか書かないけど、企業と生産者の関係が密接なため、情報の密度やストーリーを感じられる。



二人三脚でやっているようなところもぼくとしては一緒に参画できるような感覚だし、他にはないコーヒーを手に入れることができる。



そういったところを回りたいと思っていた。




だけど、今回はそのことを後回しにしてでも優先したいことがあった。




実はSCAJは、会場の一部にステージを作り、コーヒーの大会がおこなわれている。



開催期間中に色々な大会があるけど、今回はカップテイスターズという大会の話をしたい。





カップテイスターズとは、コーヒーの味覚、嗅覚の能力を競う競技だ。



3つのカップが置かれており、そのうち2つは同じコーヒー、1つだけが異なるコーヒーという問題が8セットある。

 

その異なるコーヒーを当てるという競技で、正解数を競い、正解数が同じ場合はタイムを競うことになる。

 

 

制限時間は8分だ。

 

 

正確に正解を当てにくるため時間を使う人もいれば、正解数はそこそこでもタイム先行でいく人もいる。

 

 

ここは駆け引きになってくるので、戦略も重要になる。

 

 

 

出場の順番はくじで決められるけど、そこにも勝負の分かれ道が細かく分岐していく。

 



そして予選を突破した人がSCAJでおこなわれる準決勝に進むことができる。



220人以上の参加者がいて、本選である準決勝に進めるのは16名のみ。



予選突破の条件は開催年によるものの、基本的に全問正解しないと突破できないぐらいのレベルになる。




ただ、カッピングスプーンという、スプーン1本で世界チャンピオンになれるかもしれないという、夢のある大会だ。




SCAJで優勝した競技者が日本代表となり、世界選手権に出場する権利を手にすることができるのだ。






ぼくはコーヒー屋を始める前から師匠の店にずっと通っていた。




そこで働いていた小野くんという若者がいた。



当時はまだ学生だった。




卒業してからも師匠の店で働いていた。




ぼくは彼とコーヒー談議をするのが楽しみだった。




そのころから彼はハンドドリップの大会やカップテイスターズに出ていた。




すごく努力家で、コーヒーに真摯に向き合っていた。



トレンドもしっかり把握していて、でもトレンドに左右されるようなスタイルではなかった。



なんでも吸収できるタイプなのだろう。




そんな小野くんは、師匠の店を離れ、関西から離れた地元に戻り、別のコーヒー屋で働くことになる。




本当はこの中にも色々あるけど今回は割愛する。




元々師匠の店が大阪にあるので、たまに大阪にも来ていた。



ぼくはタイミングが合わず滅多に会えなかったけど、師匠の系列の店に行くと彼の話が必ず出るので、元気にしていることは知っていた。




彼のインスタグラムもフォローをしていた。



ほとんど更新はなかったけど。




ある日、ぼくは寝起きにインスタグラムを開いた。



小野くんのストーリーズが出ていた。




カップテイスターズ予選突破



一気に目が覚めて、すぐにおめでとうとDMを送った。




予選突破ということはSCAJの晴れ舞台に立つということだ。




選ばれし人間しか立てない場所に彼は立つ。




すごく嬉しかった。




しかも、その本選の日程が、ぼくが行く日だった。




小野くんには応援しに行くからと伝えておいた。




今までもカップテイスターズの大会は見たこともあるし、ぼくが直接知らない競技者ばかり出ているけど、あの緊張感はとてつもない。




日本代表の、たった1つの座をかけて勝負をしているわけで、イベントの華やかな空気とは裏腹に空気が張り詰めていて、16名の参加者が自分の味覚と嗅覚を頼りに勝負する。




審査員が判定するわけでもなく、結果もその場ですぐに出る。




もちろん競技者が一番緊張するのだけど、自分の近しい人が出場するので、応援しにいったぼく自身がひどく緊張していた。




客席の最前列付近は競技者を応援する人たちでいっぱいだった。




小野くんはすぐにぼくに気付いてくれて笑顔を見せてくれていた。




1グループ4人の競技者が同時にカッピングをしていく。



司会者の解説とコーヒーをすする音がすべての音だ。




会場内は展示会があるので雑音はある。




けど、それが耳に入ってこないぐらい集中している。




観客のぼくですら周りの音が入ってこなかった。




何度も味を確かめ、答えを確実なものにしていく。





そして競技が終わる。




そして4人同時に答え合わせをする。




正解だと観客に向けて親指を立て、「イエス!!」と声を出す。




これで誰が正解で、誰が不正解かわかる。




正解して親指を立てる小野くん


小野くんは順調に正解を重ねるものの、8問中7問正解だった。




4人中2人は正解が7問以下だった。




でも、残りの一人の競技者が全問正解だった。





この時点で小野くんの決勝進出は相当厳しいものになってしまった。





ただ可能性は残っていて、他のグループの残り12名の競技者が全問正解しなければいいのだ。



あと、同じ7問正解でもタイムが早くないと勝ち上がれないので小野くんが他の競技者より早いタイムだったら可能性は上がる。




もちろん他のグループの競技者も予選を全問正解で勝ち抜いた猛者ばかり。





正直なところ、絶望的という言葉が浮かんだ。




それは小野くん自身がよくわかっている。




競技を終えた小野くんは、ぼくのところに報告しにきてくれた。




「だめでした! めっちゃ悔しいです!」




と言いながら、感極まって涙を流す小野くん。




今までの努力とこの悔しさ、痛いほど伝わり、固い握手を交わしながらぼくも泣いていた。




コーヒーの競技で泣いたのはもちろん初めてだ。




「よく頑張ったよ」




ぼくはそれぐらいの言葉しかかけることができなかった。




言葉が見つからない。




慰めたところでなにも変わらない。




それはわかっているけど、言葉が出なくてもどかしい気持ちだった。




でも決勝に進める可能性はまだゼロではない。




実はぼくは小野くんが対戦したメンバーの正解率が、意外と高くなかったことが気になっていた。



もちろん、大舞台での競技なので緊張はとんでもないはずだ。




小野くんも言っていたが、かなり難しい問題だったそうだ。




もしかしたら他のグループでも同様のことが起こりうるかもしれない。




そうするとタイムの結果で勝ち残れる可能性もあるということだ。





でもその中でも全問正解を出している人もいる。



客観的に見れば相当厳しい状況には変わりない。




でも今はそれに縋りたい気分だった。



しばらくして小野くんも落ち着きを取り戻し。ようやく笑顔が見られた。




少し小野くんと世間話をして、そのあと別れた。




もし万がいち勝ち残ったら連絡を欲しいと伝えて。




その奇跡が起こったのはしばらくしてからだった。




ぼくは会場内を見て回っていた。



新しい器具や、商社のブースを見て回りたかったし、本来はそれが目的だ。




実は午後からハンドドリップの大会があり、そこでも知り合いのコーヒー屋が出場するのだ。




時間を気にしつつ、携帯を見た。





小野くんからメッセージが届いていた。






決勝残りました!!!!!!





という内容だった。





もう数分後に競技が始まる。




すぐに向かうことにした。




移動がもどかしい。




時間が迫っているのに、目的地にいつまでもたどり着かない夢を見ているあの感覚だった。





ようやく着いたら最前列は埋まっていた。



できるだけ前に座り、スタンバイしたのもつかの間、競技がまさに始まろうとしていた。




表情見ると準決勝よりリラックスしている様子だった。




ただ、決勝メンバーを見ているとファイナリスト経験者もいる。



さすが、ファイナルとなると有名店の競技者もいた。




競技は、タイムを優先させると正解率は下がってしまう。



時間をかけると正解率は上がるけど、同じ正解数の場合は時間が勝負の決め手になる。



そうなると不利だ。



ハイペースでカッピングしていく小野くん




決勝戦は非常にハイレベルだった。




小野くんを含め3人が4分弱というタイムで競技を終えていた。



残った1名の競技者は、この時点でタイムは競えないのでゆっくり時間をかけてカッピングをしていた。




もし他の競技者がタイム優先で間違っていて、残った1名が全問正解するとその時点で勝敗が決まる。





この駆け引きは見ていてハラハラする。



心臓に悪い。



動悸が激しい。





はい、救心。





と、隣に座っている見知らぬ人が、救心を差し出してくれるわけでもなく見守るしかない。

これで心臓が止まったら小野くんやイベントに迷惑がかかるなと思っていると、残りの一人も競技を終え、終了。





答え合わせの時間。








決勝なだけあって正解が続く。





結果は…







4位だった。






優勝者はタイムが一番早く、しかも全問正解だった。





これが世界で戦うレベルだ。





小野くんは力及ばずだった。




でも準決勝の時より、心なしか晴れやかな表情をしていた。






小野くんが競技していたのはステージ中央付近だった。




表彰式はステージ前方でおこなわれた。




競技者はステージの奥に移動し、表彰式も見守る。




プレゼンターと優勝者のちょうど間に小野くんの姿があった。



さっき晴れやかと言ったが、この時の彼の表情は違っていた。



すごく悔しそうに、でも、闘志のような、次は自分があそこに立つという強い信念が見て取れた。




後ろからの景色を忘れてはいけない。



普段にこやかで優しい小野くんだけど、この時は鬼気迫るものがあった。




よかった。



彼ならいつかやってくれるだろう。




安心した。




ぼくは、次はこの場所でうれし涙を流す予定だ。





ちなみにカップテイスターズは他の競技と違い、まだ日本人チャンピオンがいない。




最高位は2位だ。





今回優勝したのはR & D Cafeの田上瑞樹さんという方。

 

 

 

彼は2022年と2023年のファイナリストだ。

 

 

 

相当な努力を重ねたのだろう。

 

 

 

ぼくの座った席の数席隣に、田上さんの会社の社長がいたようで、感慨深い表情だった。

 

 

 

もしかしたら彼なら世界を獲れるかもしれない。




それぐらい秘めたものを持っている。




でも、できることなら日本人初の、世界の頂点に立つ人物は、小野くんだったらいいなと思っている。


完全に身内びいきだけど。



もし小野くんが有名になったら、ぼくみたいな零細コーヒー屋なんぞ無視されるだろう。




「無視しませんよ!」



と言われたけど。





そして表彰式が終わり、撮影など終え、小野くんが出でくるまでしばらく時間がかかった。




ハンドドリップの大会は、知り合いのコーヒー屋の出番はもうすでに終わっている時間だった。


あとでその人のところに行くと、抽出はよかったけど、プレゼンが抜けて頭が真っ白になったとのことだった。



このハンドドリップの大会も日本代表を決める大会で、この会場で優勝すれば世界大会の切符を手にすることができる。


後日、YouTubeで大会の様子を見ていると確かに頭が真っ白になり、プレゼンが止まってしまっていた。


それでも手はしっかり動いて、なんとかリカバーしていた。


このハンドドリップの大会もすごいドラマがあった。



長くなるので省くけど。


もし興味がある方はYouTubeに大会の様子がアップされているので見てほしい。





話は小野くんに戻って、撮影が終わってようやく出てきた。



今回は悔しさとほっとした表情で、今はやり切ったという感じだ。




日本で4位だ。




本人はもちろん満足していないけど、これはすごいことだ。




そしてかっこよかった。



本当にかっこよかった。




とてもいいものを見せてもらった。



一緒に写真を撮らせてもらったり、今後の話を聞いた。



今後は彼と顔を合わせる機会が増えそうだったので、ぼくは心の中で大喜びした。





それからしばらく話をして、小野くんがぼくにこんなことを言ってきた。






「来年は一緒にあそこに立ちましょう」







もう一度言うけど、来年、ぼくは観客席で小野くんが日本代表となる瞬間を見て涙する予定だ。




※ここまで読んでいる人は相当少ないと思うけど、もしスキが10月中に500を越えたらエントリーするかもしれない。

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