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【2.5】超えられても、残る味「カフェBranch tip」

第2.5話
帰り道の味


放課後。

チャイムが鳴って、教室の空気が一気にゆるむ。

椅子の音。
笑い声。
スマホを開く音。

いつもの流れ。

「今日どーする?」

友達の一人が言う。

「帰る?」

「えー、なんか食べたくね?」

「それな」

自然とまとまる。

特に決めていたわけでもないのに、
なんとなく同じ方向に歩き出す。

コズエも、その流れに乗る。

「どこ行く?」

「ファミレスでよくない?」

「あー、あり」

そんな感じで決まる。

深く考えない。

その軽さが、ちょうどいい。


店に入ると、少しだけ空気が変わる。

外のざわざわした感じが、少し遠くなる。

席に案内されて、メニューを開く。

「え、これうまそう」

「それ昨日見たやつじゃん」

「いや今日はこれな気分」

どうでもいい会話がいつも通り続いている。

コズエは、ページをめくりながら止まる。

オムライス。

写真は、きれいだった。

ふわっとした卵。
つやのあるケチャップ。

整っている。

「これにしよ」

ぽつりと決める。

「またオムライス?」

「なんとなく」

理由は特にない。

でも、少しだけ気になった。


料理が来るまでの時間。

スマホを見たり、話したり。

笑ったり、ちょっと静かになったり。

その繰り返し。

特別なことは何もない。

でも、こういう時間は嫌いじゃない。

むしろ、好きなほうだと思う。


「きたきた」

店員が料理を置いていく。

オムライス。

写真とほぼ同じ。

きれいにまとまっている。

ちゃんとしている。

スプーンを持つ。

少しだけ見てから、
そのまま入れる。

ひと口。

——うまい。

普通にうまい。

味も、ちょうどいい。

バランスもいい。

誰が食べても「うまい」って言うやつ。

「どう?」

友達が聞く。

「普通にうまい」

「でしょ」

「それ人気らしいよ」

そんな会話。

コズエは、もう一口食べる。

うまい。

ちゃんとしている。

ちゃんとしてる味。

(……なんか)

少しだけ、手が止まる。



少しだけ手が止まっているコズエ



もう一口。

同じ味。

整っている。

でも——

(なんだろ)

違和感、とまではいかない。

でも、何かが引っかからない。

「どうしたの?」

「いや、なんでもない」

コズエは笑っている。

また食べる。

普通にうまい。

最後まで、ちゃんとおいしい。

でも...。

食べ終わったあと、少しだけ考える。

皿はきれいになっている。

満足しているはず。

なのに、ほんの少しだけ、空白がある。

「ね、次どこ行く?」

友達の声で、思考が切れる。

「んー、どうする?」

すぐに会話に戻る。

またいつもの流れ。

笑って、話して、歩く。

その中で、さっきの感覚は、少しずつ薄れていく。

でも、完全には消えない。

その帰り道。

夕方の光が、少しだけやわらかくなる。

影が長く伸びる。

「じゃあねー」

「ばいばい」

それぞれ別れる。

一人になる。

さっきまでの声が、少し遠くなる。

コズエは、ゆっくり歩く。

特に急ぐ理由もない。

スマホを見るでもなく、
なんとなく前を見る。

(さっきのやつ)

ふと思い出す。

オムライス。

うまかった。

ちゃんとしてた。

でも、

(なんか違ったな)

理由は分からない。

味が違うわけでもない。

むしろ、完成されていた。

それなのに。

少しだけ、引っかからない。

(なんだろ)

考える。

でも、答えは出ない。

そのまま、また歩く。

家に近づく。

見慣れた景色。

いつもの道。

ふと、頭に浮かぶ。

「……あれ」

小さくつぶやく。

言葉にするほどでもない声。

でも、はっきりしている。

「なんか、あれ食べたいな」

それが何かは、分かっている。

でも、わざわざ言わない。

そのまま、玄関を開ける。

「ただいまー」

いつもの声。

いつもの家。

キッチンのほうから、少しだけ匂いがする。

それが何かは、まだ分からない。

でも、

さっきより、少しだけ安心する。

理由は、やっぱり分からないまま。

靴を脱いで、家に上がる。

そのまま、何もなかったみたいに時間が進む。

でも、どこかに少しだけ残っている。


あの感じが、

あの、言葉にならない違いが、

それが、あとでどうなるのかは、まだ分からない。


ただ、

なんとなく、残っているだけだった。


うまいだけじゃ、残らないこともある。


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