「スペイン二つの貌」を振り返って
私の24年間にわたる劇場プロデューサー人生の中で、何度も思い知らされてきたことがあります。
それは、舞台は時に残酷なほど正直だということです。
準備の甘さも、関係者への配慮不足も、最後にはどこかに現れます。一方で誰かを想い、最後まで誠実に積み上げた仕事もまた、必ず舞台に現れます。

2026年5月2日(土)に本学ユリホールにて、アートマネジメントコースの学生が企画制作した公演「スペイン二つの貌 〜ガウディ没後100年・ファリャ生誕150年記念の年に〜」を開催しました。おかげさまで本公演は完売御礼となり、約360名もの多くのお客様にご来場いただきました。
この公演は、授業である「企画制作演習Ⅱ」の中で生まれたものです。学生たちは企画立案から出演者への交渉、広報、チケット販売、学内外の関係者との連絡、当日の運営まで多くの業務を担いました。
本番は2時間弱です。その短い時間を成立させるために、学生たちは約1年にわたって準備を重ねてきました。公演制作において本当に重要な仕事の多くは、お客様の目には直接見えません。
けれども、見えないところでどれだけ誠実に準備できたかは、最後には必ず舞台に現れます。だからこそ、授業であっても「学生だからこの程度でよい」とは教員も一切考えません。

お客様は、貴重な時間を使って会場に足を運んでくださいます。アーティストは、その日の舞台に向けて自らの表現を積み重ねてくださいます。その方々に対して誠実であるために、私はこの1年間、学生たちに厳しいことも授業で伝えてきました。
「お客様のために妥協はしてはいけない」
「アーティストへのリスペクトを忘れてはいけない」
「周りへの感謝と誠実な姿勢を忘れてはいけない」
学生たちにとっては、何度も何度も言われて耳の痛い言葉だったと思います。しかし企画制作とは、単に段取りを整える作業ではありません。関わってくださる方々の時間、信頼、期待を受け止めながら、一つの公演を制作していく仕事です。だからこそ、学生たちが安易に楽なほうへ逃げそうになったときや、単純な確認を怠る等でアーティストや周囲の方々にご迷惑をおかけしたときには、この言葉を言い続けました。
終演した翌日、企画の中心となって走り続けた4年生の3人に対し、当公演の指導担当でもあった私から労いのメッセージを送信したところ、すぐに全員から返信がありました。そこには、異口同音に公演制作を通して「人の優しさを改めて感じた」と書かれていました。

本学の先生方が出演者として、学生たちの企画に真摯に向き合ってくださったこと。声楽コース有志の合唱隊やアートマネジメントコースの後輩たちが、公演を支える一員として力を尽くしてくれたこと。学内外の関係者、広報・メディア関係の皆様、地域の方々が学生たちの挑戦を尊重し、それぞれの立場から真摯に応援し、支えてくださったこと…。
その一つひとつに対し、彼らは「優しさ」という表現を用いていました。
だからこそ、当公演を企画したIさんの次の言葉が、とても印象に残りました。
「優しさといっても、所謂安直な言葉の優しさではなく、敬意や尊敬を持った優しさです」
これは、今回の公演が多くの方々の善意によって支えられていただけでなく、学生たちを一人前の作り手として認め、その挑戦を応援してくださる皆様の敬意によって成り立っていたことを物語る言葉だと感じました。
さらにIさんからのメッセージには、こう続いていました。
「他者を幸せにすることで、自分も幸せになる。その想いを持つ人達の力が集まったからこそ、昨日の終演後のような幸福感に満ちた空間が造り上げられたなと感じています」
この言葉には、「アートマネジメント」という仕事の本質が、学生自身の実感としてよく表れているように感じました。

公演は、誰か一人の力では成立しません。お客様を想い、アーティストを想い、あるいは学生たちの成長を想い、それぞれの立場で力を尽くす。その想いが重なった時、舞台上の演奏だけでなく会場全体に温かな空気が生まれます。
終演後のお客様の笑顔、充実した表情のアーティスト、そして会場に流れていた幸福感は、妥協せず誠実に1年間積み重ねてきた学生たちの成果が、確かに届いたことを示していました。

もちろん、反省点や課題も多くあります。それでも学生たちは最後まで公演に向き合い、多くの方々への感謝を胸に本番を迎えることができました。ご来場くださったお客様、素晴らしい演奏を届けてくださった出演者の先生方と合唱隊の皆様、4年生を助けてくれた後輩たち、さらには本公演を支えてくださったすべての皆様に、心より御礼申し上げます。
このかけがえのない経験を胸に、4年生にはこれからの道も自信を持って進んでほしいと心から願っています。
教員である私にとっても「誰かのために本気で積み上げた先にしか見えない景色」を、学生たちと共に見ることができたことは大きな喜びでした。
あの日の景色は、学生からの何よりの恩返しでした。
学生たちには心から感謝します。ありがとう。
