【明るいバイトさんが入ってきた話。】
これは、20代前半の頃。
飲食店で働いていたときの話。
ホールに、2〜3個年下の女性がアルバイトで入ってきた。
スラッとしていて、きれいな人だった。
店長がみんなに言う。
「小さいお子さんいるからあんまり入れないけど、明るくてやる気ありそうだから、面倒みてやって」
その女性、A子ちゃんは
とにかくコミュニケーション能力が高かった。
よく笑うし、気もきく、すごくいい子。
すぐにみんなと打ち解けた。
同僚が聞く。
「わたしと同い年だよね?もうお子さんいるの?いくつ〜?」
「今度2歳になります!」
スマホで子供の写真や、旦那さんの話。
休憩室は、ほっこりした空気になる。
美容にも詳しくて、女子トークも上手い。
会えるとちょっと嬉しくなる、
そんな存在だった。
週に2〜3回の出勤。
だからこそわたしは、
会える日が楽しみだった。
ある日、
出勤のはずなのにA子ちゃんがいない。
「お子さん、熱出しちゃったみたい」
「わあ、大変だね」
「旦那さん単身赴任らしいよ、小さい子いるのに大変だよなぁ」
店長が、ぽろっとこぼす。
お局は、すでにいろいろ知っている顔で話す。
「旦那、何の仕事してるか聞いた?」
「前は何してたのかしらね」
さすがお局。
新しい人の情報は、逃さない。
その次の出勤日も、
A子ちゃんはお休み。
「お子さん、インフルじゃなきゃいいけどねぇ~…」
さらにその次。
A子ちゃんは、やっと出勤してきた。
「すみません、ご迷惑おかけしました…ずっと子供が風邪っぽくて…」
「旦那さん単身赴任なんでしょ?大変じゃない!」
「そうなんです…ちょっと大変で…」
少し涙ぐむA子ちゃん。
お局は優しく頭を撫でて言う。
「今だけよ、すぐ大きくなるから。若いんだから、ちゃんとまわりに頼りなさい」
あとで聞いた話では、
保育園に入れなかったらしい。
本当は子供と過ごしたいけど、
少しでも生活の足しにと、アルバイトを始めた、と。
(ああ…まだ若いのに、子育てって大変なんだな)
そう思った。
ある日。
A子ちゃんが、お客様のテーブルで
ドリンクをひっくり返してしまった。
お客様は大激怒。
まわりがフォローに入り、なんとか収まる。
A子ちゃんは、泣いていた。
上司は注意しつつも、
優しくなだめていた。
しかしその日を境に、
A子ちゃんは来なくなった。
「子供がまた体調悪いって一応連絡は来てるらしいけど…」
「子供のことじゃないかもね」
「このまま来ないかもね…あの怒られ方、メンタルくるかもね」
「でも気にしないでほしいな」
数日後。
上司に言われた。
「A子このまま辞めるかもしれないな。」
「A子のロッカー、なんか入ってるかな?悪いけど見てきてくれる?」
わたしはロッカーを開けた。
そこにはCHANELとDiorのリップが転がっている。
(あ、かわいいリップ~)
そして棚には、
開けっ放しのCHANELのポーチ。
半分使ってあるCHANELの香水。
(CHANEL好きなんだ)
──パタン。
確認だけしてそっと閉めた。
「私物、いくつかありますね」
そう店長伝えた。
あとで同僚と話す。
「A子ちゃん、たまにいい香りしたよね。あれもCHANELかなぁ」
「いいな〜、生活の足しにバイトって言ってたのに(笑)」
「好きなことに使いたいから、その分のバイトってことかもね~」
そんな話で、終わった。
数日後。
A子ちゃんは、
みんなのいない時間に私物を取りに来て、
そのまま辞めていった。
「挨拶なしかぁ、いい子だっただけに…残念だね」
「気まずかったのかなぁ…」
休憩室、みんなが言う。
「メンタルやられたかなぁ…、フォローしたつもりだったんだけど…」
上司もぽつりとつぶやいた。
そして、ある日の休憩室。
同僚が言う。
「ねえねぇ!わたしA子ちゃんと同い年じゃん?なんと共通の友達がいたんだけど!」
「A子ちゃんのSNS教えてもらってさ…」
「見て、これ」
興奮気味の同僚。
そっとスマホをのぞく。
「今日はハイアットでパパと会うよ」
「これ全部パパに買ってもらった💓」
CHANELのリップ、バッグ、香水の写真
(…ん?パパ…?)
(…んん??)
投稿の日付。
ちょうど、
「子供が熱出した」
と言って数日欠勤していたころ。
「え、これって…ん?」
(え…待って…?パパって旦那じゃなく、パパ活?)
「ねえ、今思ったでしょ」
同僚が笑う。
(?)
「旦那留守中に子供置いてパパ活?やばい!って、今思ったでしょ?」
(うん…)
「でもね」
少し間をあけて、言った。
「その共通の友達、A子と家近いらしくてさ…、教えてくれたんだけどね…」
──「子供いないんだって。」
ちょっと、ゾッと。
─────────────────END.

UNIちゃんです。
ちょっと、ゾッと。
いかがでしたでしょうか?
この出来事は
実話ベースになっています。
あの笑顔もあの涙も…そして子供の写真。
わたしたちは
最初から“ほんと”が全くないあの子の
何を見て“いい子”と感じていたのでしょうか…。

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