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6万6000歩を歩いて、つながる魅力のかけらたち。2026年、皆さんと巡りたい釜山のこと|Vol.5 釜山最大の繊維問屋街を訪ねて、見えてきたチョガッポの現在地

こんにちは。
韓国プレミアムギフトセレクション「梅と木もれ日」です。

2026年、当店では韓国・釜山にて、憧れのハン・ジヒ先生に学ぶチョガッポのワークショップを企画しています。その舞台を自らの目で確かめ、最高のプログラムをお届けするために、3泊4日の下見旅行へ行ってきました。

自分の足で歩き、街の空気を感じる中で刻んだ歩数は、6万6000歩。

Vol.1、2では海雲台(ヘウンデ)の景色と食を、Vol.3、4ではHANJIHEE CLASSICの直営ショップと職人さんが立ち寄る地元のお店をご紹介しました。続くVol.5では、釜山最大の繊維問屋街を訪ねて得た、ある「気づき」について紐解いてみたいと思います。

「韓国のどこでチョガッポの生地を買えるのか知りたい」

愛好家の皆さまからいただくその声に応えたくて、今回の行程に組み込んだ「釜山鎮(プサンジン)市場」。案内を快く引き受けてくださったハン・ジヒ先生が、ふと漏らした言葉がありました。

「でも、少しがっかりするかもしれません」

市場を実際に訪れるまで、私はその真意を、実のところよくわかっていませんでした。

これまでの記事もあわせてお楽しみください。


100年の歴史を誇る、繊維市場「釜山鎮市場」

釜山駅から地下鉄で10分ほど。婚礼用品と繊維に特化した「釜山鎮(プサンジン)市場」があります。地元市民は単に「鎮市場(ジンシジャン)」と呼んだりもします。100年の歳月を刻んできた韓国三大市場のひとつで、昔から「結婚が決まったら鎮市場へ」と言われるほど、結婚の準備に必要なものが全て揃う市場です。

地下鉄1号線 「凡一(ボミル)駅」から徒歩5分ほど。
1970年代にオープンした現在の建物の外観は、市場の歴史を物語る風格を感じさせる

正面口から一歩足を踏み入れた瞬間、目に飛び込んできたのは、色とりどりの韓服(ハンボク:チマチョゴリに代表される韓国の伝統衣装)、そして反物の数々。所狭しとひしめく店の間を縫うように進みながら、私は直感しました。

「一度来ただけでは、迷子になってしまう」
初めて訪れた私にとっては、まさに布の迷宮のようでした。


「気の利いたセット」など、どこにもないという現実

圧倒的な生地の量を目の前にして、チョガッポ愛好家の皆さまが求める「理想の素材」がきっと見つかるはずだと期待しながら、先生の後をついてフロアを巡りました。

「チョガッポ用の生地を探しているのですが、どんなものがありますか?」
「これらは全部化繊ですよね?」
「これは1マから購入できますか?」

私に代わってハン・ジヒ先生が店主に尋ねてくださる様子から、私は次第に悟り始めました。

・趣のある作品作りには天然繊維の生地が適しているが、チマチョゴリを仕立てる生地にはシルクに似せた化繊も多い。見分けるには、確かな「目」と、店主と渡り合うコミュニケーション力が必要であること。

・小ロット対応の店であっても、基本は「1マ(約90cm)」以上。趣味で嗜むには大きすぎる販売単位であること。

・そして何より、膨大な生地の中から、自分の求める質感と色を探し当てること自体が、想像以上に困難な作業であること。

フロアを一巡して、自分自身の誤解にようやく気付きました。

「使い手に寄り添った、気の利いた生地セット」は、ここには存在しない。

本場・韓国なら、チョガッポ専門店があり、「初心者にも使いやすい端切れセットなどが当たり前のように並んでいるに違いない・・・。本場に行けばなんでも揃う。」私はどこかでそう信じ込んでいました。ところが、釜山最大の繊維市場にも、そんなものはどこにもなかったのです。

先生の「がっかりするかもしれません」という言葉は、
本当にその通りでした。

先生の馴染みの生地店「一光商会」。売り場面積は決して大きくないものの、天然染色のモシから、国産のミョンジュ(平織りのシルク)まで、高品質な生地が揃っている。



「標準化されていない」という、チョガッポの現在地

チョガッポを生業とする作家や、大型作品に挑む上級者であれば、きっと鎮市場で満足のいく素材を買い求められるでしょう。しかし、趣味のひとつとして時折楽しむ方々が求めているのは「量」ではありません。

例えばそれは、

 ・30cm程度の大きさで、使いやすい色が揃った生地セット
 ・あるいは、一枚ずつ好きな色を選べる端切れのバイキング形式
 ・初心者でも気軽に始められる、道具と素材のスターターキット
 ・生地の種類や特徴がわかりやすく説明された売り場

プロでも業者でもない愛好家たちが求めるのは、このような使い手のニーズを満たす商品や売り場ではないでしょうか。

キルトやフランス刺繍が世界中で親しまれている理由のひとつに、材料が求めやすく、標準化されているという点があると思う

ハン・ジヒ先生のインスタ投稿より(筆者訳)

この先生の言葉が、今のチョガッポ産業の現状を鋭く突いている気がしました。

「愛好家たちのさまざまなニーズに、きめ細やかに対応する供給基盤が確立されていない」

私が鎮市場で気づかされたのと同じことを感じている人たちは多いだろうと、先生は言います。需要の多いソウルでは多少なりとも供給体制が整っているのかもしれません。しかし、釜山のような地方都市では、海外から求めてくる人たちはもとより、地元市民でさえも、同じ思いを抱いているのだという事実に気づかされました。

チョガッポ文化は、生地が貴重だった時代を経て、大量消費の現代において一時期は次第に廃れていきましたが、2000年代以降、「K-Culture」というコンテンツ輸出が積極的に推進される時流の中で、再び関心が高まり評価されつつあります。

しかしながら、それを気軽に楽しむための基盤は、本場の韓国ですら確立途上にあります。日本では、チョガッポの素材というと、お教室などの限られたコミュニティや、作家や個人が運営するショップなどが主要な流通経路となっています。韓国でも、「一個人の小さなニーズに寄り添うような販売店」は、実のところそこまで多くないというのが現実なのです。


HANJIHEE CLASSICが手間とコストをかけて生地を販売する理由

HANJIHEE CLASSICは、チョガッポのファブリックインテリアを扱う一方で、その生地素材も30cmほどの単位から販売しています。色も豊富で、例えば、最高級シルクの「ホンドゥッケミョンジュ」は実に50色を超える品揃えです。

HANJIHEE CLASSIC 工房にて。
HANJIHEE CLASSICのDNAとも言える洗練された色彩を纏った布たち。モシ、菊花ミョンジュ、ホンドゥッケミョンジュ、センチョミョンジュ、ヌビなど。(2023年撮影)

それらは、問屋から仕入れた既製品ではありません。ブランドが求める理想の色を作り出すために、さまざまな染料や果実、植物などを用いてカラーサンプルを作り、それを染色専門の職人のもとへ持ち込んで染めを施してもらう。HANJIHEE CLASSICが販売する全てのミョンジュ(平織りのシルク)は、こだわり抜いた色合いで、手間を惜しまず丁寧に生み出されているのです。

コットンや化繊と違い、染色されたミョンジュは仕上がりに「あら」も多く、廃棄する部分も少なくないと言います。30cmずつ全色の注文が入れば、その裁断作業だけで半日を費やすこともあるとか。

ともすれば、ブランドの生命線でもある「独自の色」を、消費者が求めやすく切り売りするのは果たして正解なのか。そんな事業者としての根本的な問いに、先生が悩まれることもあるそうです。

にもかかわらず、ここまで手間とコストをかけて生み出した「作品のための生地」を、「なぜ、小さなニーズにも見合う小ロットの、求めやすい価格で提供するのか」。  

そこには、前述の「標準化されていない」という現状を鑑みて、より多くの人にチョガッポに親しんでほしいという、ブランドの切なる思いがありました。

HANJIHEE CLASSICでは数年前に、「JOGAKBO & STYLE(チョガッポ エン スタイル)」というセカンドブランドを立ち上げ、自社オリジナルの生地を販売しています。

そして私もまた、HANJIHEE CLASSICの商品を扱う事業者の一人として、日本全国のチョガッポ愛好家の皆さまの「小さなニーズ」に、一つひとつ丁寧に応えられる繋ぎ手でありたい。鎮市場から次の目的地までの道のりで、その想いを一層強く、深く刻みました。


「Vol. 6 おすすめの宿泊地「センタムシティ」」へと続きます。


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