ミネベアミツミ(6479)は本当に「やばい」のか 〜世界シェア60%のベアリング王、3カ月で2.1倍→3割安。最高益なのに今期−16%減益の正体を3層検証〜
こんにちは、ウマキです。今日は、いまこの瞬間もあなたの部屋で回っているであろう部品の話をします。ミネベアミツミ(6479)です。
パソコンを開くと、中で冷却ファンが回っています。エアコンの中でも、掃除機の中でも、車のパワーウィンドウでも、何かが回っています。回るものの軸には、かならずベアリング(軸受け)が入っています。
そのなかでも、外径22ミリ以下の小さなものを、ミニチュア・小径ボールベアリングと呼びます。この分野で、ミネベアミツミの世界シェアは60%を超えています。
60%という数字が、どれくらい異常かを考えてみてください。世界中で回っている小さな軸の、半分以上がこの会社の製品だということです。1951年に東京都板橋区で、日本初のミニチュアベアリング専業メーカーとして生まれた会社が、いまもそこに座り続けています。
ところが、この会社の名前を検索窓に打ち込むと、出てくるのは技術の話ではありません。やばい、という言葉が真っ先に並びます。激務、ブラック、トップダウン。そういう単語がぞろぞろと続きます。
そして株価を見にいくと、これはこれで、ただごとではない数字が並んでいました。
2026年3月23日、株価は2,518円まで沈んでいます。そこからわずか3カ月後の6月25日には、5,307円をつけました。3カ月で2.1倍です。
ところが、そこからまた落ちています。この記事を書いている2026年7月17日の終値は、3,821円でした。6月の高値から、28%が消えています。 しかもこの日は、1日で−6.28%の急落でした。
さらに決算を見ると、話がややこしくなります。この会社の2026年3月期は、売上高1兆6,644億円、営業利益1,040億円で、どちらも過去最高でした。純利益は990億円で、前の期から66.6%も増えています。3期ぶりの最高益です。
なのに、会社が出した今期(2027年3月期)の予想は、純利益830億円。16.2%の減益です。
ここで、ひとつ引っかかることがあります。同じ予想のなかで、営業利益は1,200億円へ、15.4%増える計画になっています。
本業の利益は増えるのに、最終利益は減る。この矛盾の正体をほどくと、この会社の「最高益」が何でできていたのかが見えてきます。そして、それがわかると、いまの3,821円という株価をどう考えればいいのかも、かなりはっきりしてきます。
この記事では、まずこの会社がどうやって稼いでいるのかを押さえます。次に「やばい」と言われる中身を3つに切り分けて、どれが本物でどれが的外れなのかを確かめます。それから本業がいまどうなっているのかを数字で見て、最後に「では、この株はいまの値段で買えるのか」というところまで、順番に降りていきます。
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ミネベアミツミという会社と、いまの株価
まずは、この会社の商売の形と、株価がいまどのあたりにいるのかを確認しておきます。
ミネベアミツミ(6479)はどんな

会社か
株価 3,821円(1年で+73.5%) / 時価総額 1兆6,319億円 / PER 18.5倍 / PBR 1.71倍 / 配当利回り 1.57%
創業は1951年です。当時の社名は、日本ミネチュアベアリング株式会社といいました。ミネベアという名前は、この「ミネチュア・ベアリング」を縮めたものです。
いまの社名になったのは2017年でした。この年の3月、ミネベアは株式交換でミツミ電機を完全子会社にして、ミネベアミツミへと生まれ変わっています。
ミネベアはベアリングや液晶バックライトのような精密加工が得意で、ミツミ電機は半導体デバイスなどの電子部品が主力でした。まったく違う筋肉を持った2社が、ひとつになった形です。
この会社を率いているのは、貝沼由久・代表取締役会長CEOです。少し変わった経歴の持ち主で、もともとは弁護士でした。
その貝沼氏が社長に就いた2009年3月期、この会社の売上高は2,562億円でした。それが2026年3月期には1兆6,644億円になっています。17年で6.5倍です。
何をして6.5倍にしたのか。答えははっきりしていて、M&Aです。就任以来、実施した買収はおよそ30件にのぼります。元祖・買収王と呼ばれてきた会社の看板を、そのまま引き継いだ格好になりました。
世界一が売上の半分──8本槍という考え方
この会社の戦略を理解するうえで、外せない言葉が2つあります。8本槍と、相合です。
8本槍というのは、1つの製品だけで営業利益200億円以上を叩き出せる事業のことを指します。会社はこれを槍に見立てて、8本そろえる、と言い続けてきました。中身はこうなっています。
ベアリング ── ミニチュア・小径ボールベアリングで世界シェア60%超
モーター ── ファンモーター、ステッピングモーター、車載モーターなど
アナログ半導体 ── ミツミ電機から引き継いだ領域
アクセス製品 ── キーセット、ドアラッチ、ドアハンドルなどの自動車部品
センサー ── 計測機器、センシングデバイス
コネクタ・スイッチ
電源
無線・通信・ソフトウェア
もうひとつの相合(そうごう)は、会社の造語です。持っている技術や事業を掛け合わせて、他社には作れないものを生み出す、という意味で使われています。
貝沼氏は、多角化は究極のリスクマネジメントだと言い切ってきました。世の中の経営書がだいたい選択と集中を勧めるなかで、この会社は正面からそれを否定しています。理由も単純で、槍が8本あれば、どれか折れても他が支えるからです。
そして、この戦略はきちんと数字になっています。会社の開示によれば、世界No.1シェアを持つ製品が、売上の50%を占めています。 内訳を見ると、なかなかの顔ぶれです。
ミニチュアボールベアリング ── 世界シェア60%
HDD用ピボットアッセンブリー ── 世界シェア90%
リチウムイオン電池保護IC ── 世界シェア80%
売上の半分が世界一の製品というのは、日本の製造業でもそう多くありません。派手な社名ではありませんが、中身はかなり硬派な会社です。
規模も、イメージより大きいかもしれません。連結従業員数は81,383人(2026年3月末)で、これに臨時雇用の24,806人が加わります。ただし日本にいるのは全体の14.1%だけで、72.0%はアジアにいます。
生産拠点の分布も特徴的です。タイが23.4%でいちばん多く、中国20.0%、日本17.9%、フィリピン15.8%と続きます。タイに巨大な生産拠点を構えているのが、この会社の生命線になっています。
4つの事業と、「ベアリングが本体」という構造
決算上の事業は、4つに分かれています。2026年3月期の実績で並べると、こうなります。売上高は外部顧客への売上、利益率はセグメント間取引を含んだ売上に対する比率です。
プレシジョンテクノロジーズ ── 売上2,812億円 / 営業利益622億円(利益率21.5%)。ボールベアリング、ロッドエンドベアリング、HDD用ピボットアッセンブリー、航空機用ねじ
モーター・ライティング&センシング ── 売上4,565億円 / 営業利益269億円(利益率5.7%)。ファンモーター、車載モーター、HDD用スピンドルモーター、計測機器など
セミコンダクタ&エレクトロニクス ── 売上5,903億円 / 営業利益267億円(利益率4.5%)。半導体デバイス、光デバイス、機構部品、電源部品
アクセスソリューションズ ── 売上3,322億円 / 営業利益171億円(利益率5.1%)。キーセット、ドアラッチ、ドアハンドルなどの自動車部品、産業機器用部品
ここを、じっくり見てください。この4行に、この会社のすべてが詰まっています。
売上がいちばん大きいのは、セミコンダクタ&エレクトロニクスの5,903億円です。全体の35.5%を占めています。ところが利益率は4.5%しかありません。
いっぽうプレシジョンテクノロジーズ、つまりベアリングの事業は、売上2,812億円で全体の16.9%にすぎません。それなのに営業利益は622億円あって、利益率は21.5%です。他の3事業の4倍前後という水準になります。
4つの事業の営業利益を足すと1,329億円ですが、そのうちベアリング事業がひとりで46.8%を稼いでいます。
つまり、こういうことです。この会社は、売上の16.9%が、利益の半分を作っています。 残りの83%は、売上をたくさん立てているわりに、あまり儲かっていません。
ミネベアミツミという会社を見るとき、ここを外すと全部を読み違えます。8本槍と言いながら、実際に深く刺さっている槍は、いまのところ1本です。 ベアリングです。
そして、そのベアリングがいま何で伸びているかというと、AIデータセンターです。会社の説明でも、ボールベアリングの増収要因として、データセンター向けのサーバー需要と航空機向け需要が真っ先に挙げられています。
この話は、あとで詳しく見ます。
株価は3カ月で2.1倍、そこから3割安
チャートを、もう一度ながめてみます。1年で+73.5%ですから、数字だけ見れば「よく上がった株」です。ところが節目を並べると、景色がまったく変わります。
2024年7月18日 3,799円(当時の高値)
2025年4月9日 1,775円(安値)
2025年12月10日 3,392円
2026年3月23日 2,518円(年初来安値)
2026年6月25日 5,307円(高値)
2026年7月17日 3,821円(−6.28%)
2025年4月9日という日付に、心当たりのある方も多いと思います。トランプ関税のショックで、世界中の株が投げ売られた週です。この株も1,775円まで叩き売られました。
そこからの動きが、とにかく荒いのです。いったん3,392円まで戻したあと、2026年3月にまた2,518円へ沈みます。そして、そこから3カ月で5,307円です。2.1倍になりました。
5,307円という水準は、少なくとも過去10年で、この株がつけた最も高い値段です。2024年の高値3,799円も、2022年の3,340円も、軽く抜き去りました。
ところが、いまは3,821円です。6月25日の5,307円から、28.0%が剥がれ落ちました。3カ月かけて登った坂を、3週間で半分ほど滑り落ちた計算になります。
そして7月17日、つまりこの記事を書いている日ですが、株価は1日で−6.28%動きました。これはミネベアミツミだけの話ではありません。この日の日経平均は2,694円安で、取引時間中には4,000円を超える下げ幅を記録しています。
前日の米国市場で半導体株が売られた流れを受けて、東京市場でもAI・半導体関連が総崩れになりました。キオクシアHDはストップ安、東京エレクトロン、アドバンテスト、ソフトバンクグループを合わせた4銘柄だけで、日経平均を約1,764円押し下げています。
つまり、いまのミネベアミツミの株価は、AI相場と完全に連動して動いています。 3カ月で2.1倍になったのもAIなら、3週間で28%落ちたのもAIです。
💡この株でいちばん危ないのは、「1年で+73%の堅い会社」だと思って買うことです。実際は3カ月で2.1倍になり、3週間で3割落ちる株です。同じ会社の、同じ株価です。ベアリング世界シェア60%という安定した看板と、値動きの荒さは、まったく別の話だと思っておいたほうがいいです。
では、なぜこの会社に「やばい」という言葉がついて回るのか。そして、その「やばい」は、株を買うかどうかの判断に関係があるのか。ここからが本題です。
「やばい」の中身を、3つに切り分ける
ミネベアミツミにまつわる「やばい」は、実は3つの、まったく別の話が混ざっています。ごちゃ混ぜのままだと判断を誤るので、ひとつずつ分けます。
①評判の「やばい」は、株の話ではない
まず、いちばん量が多いものから片づけます。世の中で流通している「ミネベアミツミはやばい」の大半は、働く場所としての話です。
出どころも、はっきりしています。転職サイト、就活の口コミサイト、退職検討理由のデータベース、知恵袋。並んでいるのは、そういう顔ぶれです。株価の話をしているところは、ほとんどありません。
言われている中身は、だいたい3つに集約されます。
トップダウンが強い ── CEOの強力なリーダーシップでM&Aを繰り返して大きくなった会社なので、経営の方針が絶対という文化が根づいている、という指摘です。会社にイエスと言えるかどうかが出世の分かれ目、という声もあります
部署によっては激務 ── 精密部品メーカーですから、生産ラインや開発部門では納期前に仕事が集中します。上からの圧が強く、パワハラに近いと感じる人もいる、と書かれています
事業所ごとに社風がバラバラ ── およそ30件のM&Aで大きくなった会社です。買ってきた会社がそのまま事業所になっているので、隣の建物と文化が違う、という現象が起きます
これらは、たぶん事実を含んでいます。特に3つ目は、M&Aで6.5倍になった会社の必然です。
ただし、ここで冷静に見ておきたい数字があります。この会社の単体の平均勤続年数は、15.9年です。 平均年齢は45歳でした。
離職率が高くて人がどんどん辞めていく会社の勤続年数は、こうはなりません。15.9年というのは、日本の上場企業のなかでも長いほうです。ついでに言えば、単体の平均年収は762万円あります。口コミに「勝ち組」という言葉が混じるのも、このあたりが理由でしょう。
つまり評判の「やばい」は、やばいというより「体育会系で、合う人と合わない人がはっきり分かれる会社」というのが実態に近いはずです。
そして何より大事なのは、これは株を買うかどうかとは、ほとんど関係がないということです。
働きやすい会社の株が上がるわけでも、体育会系の会社の株が下がるわけでもありません。むしろトップダウンで30件のM&Aを即断してきたからこそ、売上が17年で6.5倍になったとも言えます。投資家として見るなら、ここは論点ではありません。
💡「銘柄名+やばい」で出てくる情報の大半は、転職希望者に向けて書かれたものです。株主に向けて書かれたものではありません。この2つを混ぜたまま投資判断をすると、会社の評判が悪いから株もダメ、という筋の通らない結論にたどり着きます。読む前に、それが誰に向けた文章なのかを確かめる癖をつけたほうがいいです。
②2026年7月10日、子会社が全国初の勧告を受けた
2つ目は、もう少し株主に近い話です。この記事を書くちょうど1週間前に、実際に起きています。
2026年7月10日、公正取引委員会はミネベアアクセスソリューションズ株式会社に対して勧告を出しました。ミネベアミツミの子会社で、自動車のキーセットやドアラッチを作っている、あのアクセスソリューションズ事業の中核会社です。
何をしたのか。中身はこうです。
2026年1月から4月にかけて、中小の受託事業者に、546時間26分の荷役作業や付帯業務を、費用を払わずにやらせていました
製造委託先36社に対して、金型など846個を、保管費用を負担せずに保管させていました
認定されたのは、中小受託取引適正化法(取適法)違反です。不当な経済上の利益の提供要請、という類型にあたります。
そして、ここが重い部分です。この取適法にもとづく勧告は、全国で初めてでした。
会社が支払うことになった金額は、金型の保管費用と合わせて710万2,796円です。時価総額1兆6,319億円の会社にとって、710万円は誤差でしかありません。業績への影響は、実質ゼロです。
では軽い話かというと、そうとも言えません。理由は2つあります。
ひとつは、第1号という不名誉です。新しい法律の最初の摘発事例として、この会社の名前が公取委のサイトに残ります。ニュースの見出しにも「ミネベア系」と書かれました。7月17日にYahoo!ファイナンスがこの株の下落に触れたとき、材料としてこの勧告が挙げられています。
もうひとつは、中身が示しているものです。546時間のタダ働きと、36社への金型846個の無償保管。これは、うっかりミスで起きるものではありません。下請けに負担を寄せるのが常態化していたということです。
ここで思い出してほしいのが、①で見た「トップダウンで、上からの圧が強い」という評判です。社内で強い圧がかかる会社は、社外にも同じ圧をかけがちです。評判の話と、この勧告は、地下でつながっている可能性があります。
とはいえ、投資判断としての結論は、はっきりしています。710万円は業績を1円も動かしません。 ガバナンスの減点材料として頭の隅に置いておく、というのが正しい重みづけです。これを理由に売る、あるいは買わない、というのは過剰反応になります。
本当の「やばい」は、もっと別のところにありました。決算書のなかです。
③決算書の「やばい」──最高益の8割は、本業ではなかった
ここからが、この記事のいちばん大事な部分です。
もう一度、2026年3月期の数字を並べます。
売上高 1兆6,644億円(+9.3%)
営業利益 1,040億円(+10.1%)
税引前利益 1,338億円(+61.9%)
親会社帰属の当期利益 990億円(+66.6%)
ニュースの見出しになったのは、いちばん下の「純利益+66.6%、3期ぶり最高益」です。景気のいい数字です。
でも、上から順に増収率を追いかけてみてください。売上+9.3%、営業利益+10.1%、そこまでは普通です。ところが税引前利益だけ、いきなり+61.9%に跳ねています。
営業利益と税引前利益のあいだで、何かが起きています。そこにあるのが、金融収益です。
2026年3月期の金融収益 ── 409億円(前期は69億円)
2026年3月期の金融費用 ── 111億円(前期は188億円)
金融収益が、69億円から409億円へ、340億円も増えています。同時に金融費用は77億円減りました。
営業利益から税引前利益までの動きを、2期並べるとこうなります。
2025年3月期 ── 営業利益945億円 → 税引前826億円(営業外で119億円のマイナス)
2026年3月期 ── 営業利益1,040億円 → 税引前1,338億円(営業外で298億円のプラス)
営業外だけで、417億円ぶんの振れ幅があります。
そして税引前利益の増加額512億円を分解すると、こうなります。
本業(営業利益)の増加 ── 95億円
営業外の改善 ── 417億円
つまり、この会社の「3期ぶり最高益」は、8割以上が本業以外で作られていました。
では、その409億円の金融収益は何だったのか。決算短信には、こう書いてあります。税引前利益には、当社が保有する金融資産の公正価値評価による評価益が含まれている、と。
もう少し具体的な中身も報じられています。東芝株を保有するファンドへの出資について、評価を引き上げたことによる増益効果が、およそ250億円あった、というものです。
整理します。この会社は、東芝株の値上がりで、250億円を稼ぎました。ベアリングを売って稼いだお金ではありません。売ってもいない、持っているファンドの評価を上げただけの、帳簿上の利益です。
ここまでわかると、今期の予想が急に腑に落ちます。
2027年3月期の営業利益 ── 1,200億円(+15.4%)
2027年3月期の純利益 ── 830億円(−16.2%)
本業は15.4%増える計画なのに、最終利益は16.2%減る。理由は単純で、去年あった250億円の評価益を、今年は見込んでいないからです。
日経も、この点をはっきり書いています。本業は好調だが、前期にあった評価引き上げの増益効果がなくなることが減益の大きな要因だ、と。
つまり、今期の「−16%減益」は、悪化ではありません。 去年が特殊に良すぎただけです。本業は、むしろ加速する計画になっています。
💡決算のニュースで「最高益」「大幅減益」という見出しを見たら、まず営業利益と純利益の増減率を並べてください。ここがねじれている会社は、たいてい本業以外の何かが動いています。ミネベアミツミの場合、+66.6%の8割は東芝株でした。そして今期の−16.2%は、その東芝株が消えるだけの話です。見出しだけを読んで喜んだ人と、慌てた人が、両方とも同じ間違いをしています。
ただし、公平を期すために、逆側も書いておきます。
評価益が実力でないなら、それが消えることも織り込むべきです。この会社は今後も金融資産の評価で、利益が上下します。株主にとって、これは読めない要素が1つ増えるということです。ROEも同じで、2026年3月期の12.1%という数字は、東芝株のおかげで膨らんでいます。素の実力は、その1段下です。ここは後半で、あらためて計算します。
そして、もっと現実的な問題があります。本業の営業利益率が6.2%しかないことです。売上1兆6,644億円を立てて、営業利益は1,040億円。ベアリング事業を除けば、利益率5%前後の会社が並んでいます。
売上は大きい。でも薄い。これが、この会社の素の姿です。
それでも、本業は伸びている
ここまでは、どちらかというと弱気側の話でした。今度は、強気側を数字で見ます。
AIデータセンターが、ベアリングを回している
いま、この会社の株価を動かしている材料は、はっきりしています。AIデータセンターです。
もう一度、稼ぎ頭のプレシジョンテクノロジーズ事業の数字を出します。
売上 2,812億円(前期比+10.0%)
営業利益 622億円(前期比+11.8%)
利益率 21.5%
会社は、この増収の理由をこう説明しています。主力のボールベアリングは、データセンター向けのサーバー需要と、航空機向け需要が堅調に推移したことにより、売上が増加したと。
なぜAIデータセンターでベアリングが売れるのか。理屈は、拍子抜けするほど単純です。
GPUが熱くなるからです。
AIサーバーは、とんでもない熱を出します。冷やさないと止まります。冷やすには、ファンを回すしかありません。ファンを回すには、軸が要ります。軸には、ベアリングが要ります。
しかもデータセンターのファンは、24時間365日、何年も回り続けます。止まると業務が止まりますから、品質への要求は容赦がありません。ここで効いてくるのが、世界シェア60%という実績です。
そして、もうひとつの需要先がHDDです。この会社はHDD用ピボットアッセンブリーで世界シェア90%を持っていて、HDD用スピンドルモーターも作っています。
AI時代にHDDが伸びるのは、少し意外に思えるかもしれません。生成AIが吐き出す膨大なデータを、全部SSDに入れると高すぎるからです。冷たいデータはHDDに置くという使い分けが起きていて、いまHDDは深刻な品不足になっています。
さらに航空機です。ロッドエンドベアリングと航空機用ねじを作っていて、こちらも旺盛です。
結果として、この会社の稼ぎ頭は、AIと航空機という2つの追い風を同時に受けています。
580億円を投じて、月産5億個へ
追い風が本物かどうかは、口ではなく、金の使い方でわかります。
2026年7月、この会社は動きました。AIデータセンターの冷却機器や記憶装置に使う精密ベアリングを増産するため、東南アジアの生産拠点に合計580億円を投じると発表しています。
規模はこうです。ベアリング全体の生産能力を、月産5億個超へ、3割程度引き上げます。
月に5億個です。年間で60億個を超えます。
日経はこの投資を、AI特需が半導体から電源設備へ広がり、ついに電子部品にまで波及してきた事例として報じました。株探も6月16日に、AIデータセンター向け軸受けで需要が旺盛だとして、この銘柄を取り上げています。
ここは、素直に評価していい部分だと思います。利益率21.5%の事業に、3割の増産です。この投資が計画どおりに埋まれば、いちばん儲かる事業がいちばん伸びることになります。
会社が今期の営業利益を+15.4%と置いているのも、ここが根拠です。航空機やデータセンター向けの高性能ベアリングの需要が堅調に推移する、というのが会社の見立てになっています。
💡この会社の株を見るとき、追いかけるべき数字はひとつだけです。プレシジョンテクノロジーズ事業の売上と利益率です。ここが伸びている限り、他の3事業が多少もたついても、話は壊れません。逆にここが鈍ったら、残りの83%の売上では支えきれません。決算のたびに、まずこのセグメントを開いてください。
稼げていない3事業を、どう見るか
では、残りの3事業はどうなっているのか。ここも正直に見ておきます。
セミコンダクタ&エレクトロニクスは、売上5,903億円で最大です。前期から16.1%も伸びて、営業利益は267億円へ36.0%増えました。伸び率だけ見れば、4事業でいちばん元気です。
ただし利益率は4.5%しかありません。増収の中身は、主に機構部品の販売増でした。機構部品というのは、スマートフォンやゲーム機に入る部品です。
そして今期、ここが減速します。会社はゲーム向け機構部品の影響を挙げていて、需要の季節性や製品ライフサイクルを考えて、生産台数を抑えめに見積もったと説明しています。
この事業の宿命は、顧客が巨大で、こちらが選べないことです。相手の新製品サイクル次第で、売上が上下します。利益率4.5%では、値下げ圧力を受けたときの逃げ場もありません。
いっぽうで、この事業には希望もあります。半導体事業です。会社は、滋賀工場の単月黒字化に目途が立ったと説明しています。長く赤字を垂れ流してきたアナログ半導体が、ようやく損益分岐点に届きつつあります。
モーター・ライティング&センシングは、売上4,565億円で+6.9%、営業利益269億円で+6.1%でした。増収の主因は、ファンモーターの需要増です。
つまりこの事業も、実はAIデータセンターの恩恵を受けています。ベアリングとファンモーターは、同じサーバーの同じ場所に入っていきます。
アクセスソリューションズは、売上3,322億円で+1.3%、営業利益171億円で+7.3%でした。自動車のキーセットやドアラッチが主力で、成長は緩やかです。通信アンテナと産業機器部品が伸びました。
なお、7月10日に公取委の勧告を受けた子会社は、この事業のところにいます。
3事業をまとめると、こうなります。セミコンダクタ&エレクトロニクスは伸びているが薄く、しかも今期は減速する。モーターはAIの恩恵を受けている。アクセスは横ばいで安定している。
8本槍というスローガンの実態は、1本の太い槍と、7本の細い槍です。ただし細い槍が7本あることには、ちゃんと意味があります。どれかが折れても、会社が倒れないからです。
これは精神論ではなく、実績で確認できます。この会社は、少なくとも2008年以降、営業赤字も最終赤字も一度も出していません。
2009年3月期(リーマン直後) ── 売上2,561億円、営業利益134億円、純利益24億円
2013年3月期(いちばん苦しかった年) ── 純利益18億円
2020年3月期(コロナ初年度) ── 売上9,784億円、営業利益586億円、純利益459億円
2021年3月期 ── 売上9,884億円、営業利益511億円、純利益387億円
世界中の製造業が吹き飛んだ2009年でも、24億円を守っています。利益は10分の1近くまで削られましたが、マイナスにはなりませんでした。2013年の18億円も、ぎりぎりですが黒字です。
貝沼氏が言う「多角化は究極のリスクマネジメント」は、儲けるための戦略ではなく、死なないための戦略です。 そう理解すると、この会社の形は一貫しています。利益率が薄いのは、裏を返せば、薄く広く倒れにくいということでもあります。
財務は、日本の製造業でも上位に入る
倒産や経営危機を心配する必要があるのか。ここは、はっきりさせておきます。まったく必要ありません。
自己資本比率 49.5% ── 前の期から2.6ポイント改善しました。会社は中長期的に50%以上を維持すると明言しています
格付け ── 格付投資情報センター(R&I)からA+、日本格付研究所(JCR)からAA−を取得しています
手元現金 2,275億円
財務規律 ── D/Eレシオ0.2倍の範囲を守る、と会社が掲げています
R&IのA+とJCRのAA−は、日本の事業会社としてかなり上位の評価です。市場で経営危機がささやかれる会社は、たいてい格付けがBB台まで落ちて、社債の調達コストが跳ね上がります。この会社は、そことは住む世界が違います。
株主還元も、渋くはありません。配当は45円(2025年3月期)から50円(2026年3月期)へ、そして今期は60円を予想しています。2期連続の増配です。会社は連結配当性向30%程度を目処にすると書いています。
ただし、キャッシュフローには、ひとつ気になるところがあります。
営業キャッシュフロー ── 949億円(前期は1,337億円)
投資キャッシュフロー ── −828億円
差し引きのフリーキャッシュフロー ── +121億円
純利益が66.6%増えたのに、営業キャッシュフローは29%減っています。
ここ、大事なところです。利益が増えたのにキャッシュが減るというのは、普通ではありません。そして理由は、もうおわかりだと思います。東芝株の評価益は、現金を1円も生んでいないからです。
帳簿の上では250億円の利益ですが、銀行口座には入ってきません。だから営業キャッシュフローには乗りません。キャッシュフロー計算書は、正直です。
その結果、フリーキャッシュフローは121億円しか残りませんでした。いっぽう配当の支払いは201億円あります。今期のように、稼いだ現金だけでは配当を賄えていない年です。
とはいえ、手元に2,275億円あって、自己資本比率が49.5%の会社ですから、これで困ることはありません。設備投資を965億円も打っている最中ですから、むしろ攻めている証拠でもあります。ただし、ここに580億円の増産投資が乗ってくる今期は、フリーキャッシュフローがさらに細るはずです。そこは頭に入れておいてください。
芝浦電子で「負けた」ことの意味
財務の話をしたので、もうひとつ、この会社の性格がよく出た事件に触れておきます。2025年の、芝浦電子をめぐる争奪戦です。
温度センサー大手の芝浦電子に、台湾の電子部品大手ヤゲオが敵対的なTOBを仕掛けました。そこへ、ミネベアミツミがホワイトナイトとして名乗りを上げます。値段の応酬は、こう進みました。
2025年2月5日 ── ヤゲオが4,300円でTOBを公表
2025年4月10日 ── ミネベアミツミが4,500円で友好的買収を発表
2025年4月17日 ── ヤゲオが5,400円へ引き上げ
2025年5月2日 ── ミネベアミツミが5,500円でTOB開始
2025年5月9日 ── ヤゲオが6,200円へ引き上げ
2025年8月14日 ── ミネベアミツミが6,200円へ引き上げ
ヤゲオが7,130円を提示
2025年9月11日 ── ミネベアミツミがTOBを終了し、撤退
最終的に、ヤゲオが競り勝ちました。4,300円から始まった値段は、7,130円まで1.66倍にふくらんでいます。
この結末を、失点と見るか、規律と見るか。ここで評価が割れます。
貝沼氏は以前から、M&Aについて同じことを言い続けてきました。高ければきっぱり諦める、と。そして、実際に諦めました。7,130円という値段に、追いませんでした。
日経ビジネスは、この撤退を「買収巧者の軸を守った」と評しています。妥当な評価だと思います。
約30件のM&Aを成功させてきた会社の本当の強みは、買った30件ではなく、買わなかった案件のほうにあります。 高値づかみをしなかったから、いまの自己資本比率49.5%とA+の格付けがあります。もし7,130円まで追いかけていたら、この会社のバランスシートは今と違う形になっていたはずです。
株主にとって、欲しいものを欲しい値段でしか買わない経営者は、資産です。芝浦電子は手に入りませんでしたが、この一件で、貝沼氏の言葉が飾りではないことは証明されました。
💡経営者が規律を語るのは簡単です。値段が吊り上がった土壇場で、実際に降りられるかどうかが本番です。ミネベアミツミは降りました。銘柄を選ぶとき、私はこういう「やらなかった実績」をわりと重く見ています。買収で伸びてきた会社ほど、最後は買収で壊れるからです。
では、いまの3,821円で買えるのか
ここまでで、材料はそろいました。
評判の「やばい」は転職の話で、株には関係がありませんでした。公取委の勧告は全国初という不名誉ですが、金額は710万円で業績を動かしません。決算書の「やばい」は本物でしたが、中身は「最高益が東芝株で膨らんでいた」という話で、今期の−16%減益はその反動にすぎず、本業の営業利益はむしろ+15.4%増える計画です。
そして本業には、AIデータセンターという追い風が吹いています。利益率21.5%のベアリング事業に、580億円を投じて3割の増産をかけています。財務は自己資本比率49.5%、格付けA+とAA−で、日本の製造業でも上位です。
問題は、それを3,821円で買うかどうかです。ここからは、いまの株価をどう評価するかを、正面から書きます。
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