仮想通貨JPYCは本当に「危ない」のか 〜発行済み88億円のうち世に出ているのは27億円、その67%はLINEの1つの運用先にある。今後と将来性を3層検証〜
こんにちは、ウマキです。
いま、日本円ステーブルコインのJPYCは、集計サイト上では時価総額およそ87億5,700万円と表示されています。2025年10月に発行が始まってから9か月ちょっとで、ここまで来ました。
ところが、4つのブロックチェーンにつないで発行済みのトークンを1枚ずつ数え直してみると、その88億円のうち60億6,778万円ぶんは、発行体が持っている2つのアドレスの中に置かれたままでした。実際に世の中へ出ているのは27億3,770万円です。そしてそのうちの67%にあたる18億3,608万円が、LINEのアプリから使えるある運用サービスの中に入っています。
さらに言えば、その運用サービスに入っている18億円の48.4%が、7月31日に「クールダウン」と名前の付いた別の金庫へ移りました。年率5%のキャンペーンが終わる、その日のことです。
この記事では、制度の層・オンチェーンの実測の層・事業の層という3つの層に分けて、JPYCが本当に危ないのか、それとも国が用意した枠組みの上で順調に立ち上がっているのかを検証します。数字はすべて自分でチェーンにつないで数え、金融庁に提出されている契約締結前交付書面まで読んだうえで書いています。
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1️⃣ 1円で発行され、1円で返ってくる通貨の設計
まず制度の層から入ります。ここを飛ばすと、JPYCが銀行預金と何が違うのかが分からないまま、危ないか危なくないかを語ることになってしまいます。
資金移動業者が発行するという意味
JPYCを発行しているのは、東京都千代田区大手町のJPYC株式会社です。2019年11月20日に設立された未上場の会社で、代表取締役は岡部典孝さんが務めています。
この会社は2025年8月18日付で、資金決済法にもとづく資金移動業者(登録番号 関東財務局長第00099号)として登録されました。そして同年10月27日から、いまのJPYCの発行が始まっています。
日本の法律では、法定通貨に価値が連動するステーブルコインは電子決済手段と定義され、発行できるのは銀行・信託会社・登録を受けた資金移動業者の3者に限られます。JPYCはこのうち資金移動業者のルートを通った、国内で最初の1本です。
法律上の位置づけが決まっているという点は、素直に評価してよいところだと考えています。無登録の海外事業者が勝手に円建てトークンを出しているのとは、話がまったく違います。
銀行預金と決定的に違う3点
一方で、契約締結前交付書面の1ページ目には、銀行との違いがはっきり書かれています。読み飛ばされがちなところですが、ここがいちばん大事です。
書かれているのは次の3点です。
資金移動業者として行う取引は、銀行が行う為替取引とは異なる業務になる
預金や貯金を受け入れるものではない
預金保険法53条に規定する保険金の支払の対象とはならない
つまり、銀行に100万円を預けていれば銀行がつぶれても1,000万円までは戻ってくる、というあの仕組みは、JPYCには効きません。ここは知らずに持っている人がかなりいるはずの部分です。
では何も守りがないのかというと、そうではありません。資金決済法にもとづく履行保証金制度が用意されていて、JPYC社は発行と引き換えに受け取ったお金について、要履行保証額の最高額以上を東京法務局に供託するか、履行保証金信託契約によって信託しています。
第二種資金移動業者は、利用者から受け入れた資金を未達債務として1週間の期間で算定し、そのうち最大金額を3営業日以内に供託または信託する義務を負っています。会社がつぶれた場合、保有者は資金決済法59条にもとづいて、この履行保証金から還付を受けることになります。
💡預金保険と履行保証金は、どちらも「守り」ではあるものの性格がまったく違います。預金保険は破綻したら比較的すみやかに戻ってきますが、履行保証金の還付は倒産手続きの中で行われる手続きです。1円で返ってくるかどうかと、いつ返ってくるかは、別の問題として考える必要があります。
1回100万円という天井と、3,000円という床
JPYCが第二種資金移動業者として登録されているという点は、そのまま使い勝手の制約になって表れます。
契約締結前交付書面には、1回あたりの発行・償還の上限額はそれぞれ100万円と明記されています。下限はチェーンごとに3,000円です。ウォレットに持てる量そのものに上限はなく、個人間送金や決済の金額にも制限はかかりませんが、円との出入り口だけは1回100万円で区切られています。
法人が数千万円単位の支払いに使おうとすると、この天井が効いてきます。あとで触れる信託型のステーブルコインに上限がないのは、まさにここが違うからです。
手数料については、JPYCアカウントの開設・維持・閉鎖はいずれも無料で、発行と償還も無料です。ただし書面には将来的に償還に係る手数料を徴収する可能性があると、はっきり書き添えられています。銀行への振込手数料とブロックチェーンのガス代は利用者の負担になります。
4つのチェーンに、同じ住所で置かれている
JPYCが記録されているのは、イーサリアム・アバランチCチェーン・ポリゴン・カイアの4つです。当初の3チェーンに、2026年5月15日にカイアが追加されました。
面白いのは、4つのチェーンすべてで、コントラクトアドレスが同じ0xE7C3D8C9a439feDe00D2600032D5dB0Be71C3c29になっているところです。決定論的なデプロイを使うことで、利用者が住所を覚え間違える余地を減らしています。設計としては丁寧です。
ただし、チェーンをまたいだ送金はできません。ポリゴンのJPYCをイーサリアムのアドレス宛に送れば、そのまま取り戻せなくなります。同じ名前で同じ住所なのにネットワークだけが違う、という状況は、慣れていない人にとってはむしろ危ない部分でもあります。
償還のときにJPYC社が待つブロック承認回数も、チェーンごとに決まっています。イーサリアムが32回、アバランチとカイアが12回、ポリゴンは256回です。ポリゴンで償還を申し込むと、承認を待つ時間だけで他のチェーンより長くかかる計算になります。
2️⃣ オンチェーンで数えたJPYCの現在地
ここからが実測の層です。発表されている数字ではなく、チェーンに直接つないで数えた数字を並べていきます。
発行済み88億円のうち、世に出ているのは27億円

まず値段と規模から確認します。
価格 ¥0.9945(1JPYC=1円に対して−0.55%) / 時価総額 約87億5,700万円 / 時価総額ランク 388位 / 1年の値幅 ¥0.9703〜¥1.0939
集計サイトが表示している時価総額87億5,700万円は、発行済みの総量(totalSupply)に価格を掛けた数字です。4つのチェーンのコントラクトを直接叩いて合計すると、確かに8,805,482,437 JPYCありました。
ところが、この総量の内訳を見ると景色が変わります。どのチェーンでも、2つのアドレスが突出して大きな残高を持っていました。
イーサリアム:発行済み11億1,304万円のうち、2アドレスが9億4,704万円(85.1%)
ポリゴン:発行済み37億6,070万円のうち、2アドレスが31億5,937万円(84.0%)
アバランチ:発行済み4億3,175万円のうち、2アドレスが3億4,303万円(79.4%)
カイア:発行済み35億円のうち、2アドレスが16億1,834万円(46.2%)
合計すると、発行済み88億548万円のうち60億6,778万円、率にして68.9%が、この2つのアドレスの中にあります。差し引きで、実際に世の中へ出ているのは27億3,770万円という計算になります。
この2アドレスが発行体の手元財布であることは、数字のほうから裏が取れます。JPYC社は2026年4月時点の流通額を5億円と公表していて、同じ方法でその時点を計算すると5億0,165万円でした。7月に流通額20億円突破と発表した7月13日で計算すると21億4,643万円です。会社が言っている流通額と、この引き算がぴったり合います。
つまり、集計サイトに出ている87億円という時価総額は、発行体が刷って手元に置いてあるぶんまで含んだ数字です。実際に誰かが持っている量は、その3.2分の1しかありません。
💡これはJPYCが隠している話ではありません。会社はきちんと流通額のほうを発表しています。問題は、外から見える一番目立つ数字が発行済み総量のほうだという点です。ステーブルコインの規模を語るときは、どちらの数字を見ているのかを毎回確かめる必要があります。
7月に倍増した発行量の正体

発行済み総量の推移をたどると、増え方に特徴があるのが分かります。
2025年11月1日:12億円(3チェーン各4億円ずつ)
2026年1月1日:14億8,650万円
2026年4月1日:18億6,223万円
2026年5月1日:32億6,308万円
2026年7月1日:43億6,438万円
2026年8月1日:87億0,245万円
なめらかに増えているのではなく、階段状に跳ねています。ポリゴンは4億円から始まって6億8,500万円、10億3,000万円、22億7,070万円、30億7,070万円、37億6,070万円と、まとまった単位で刷られてきました。カイアに至っては5月15日に4億円で始まり、7月22日に一気に35億円まで積み上がっています。
これは需要に応じて1枚ずつ発行しているのではなく、あらかじめ在庫として刷ってから配っているということです。契約締結前交付書面にも、発行可能数量は制限なしで需要に応じて発行される、と書かれています。
実際に減らしたこともあります。ポリゴンは2026年2月の10億3,000万円から3月に9億7,070万円へ、アバランチは4億円から3億5,175万円へと、それぞれ焼却されています。刷るだけでなく減らす運用もされているという点は、確認できました。
一方で流通額のほうは、2026年4月15日の5億0,165万円から8月6日の27億3,770万円へ、4か月足らずで5.5倍になりました。ここは素直に伸びています。伸びた中身がどこにあるのかは、次の章で見ていきます。
1日に動くのは2億1,600万円と5,118件
規模の次は、どれだけ使われているかです。4つのチェーンで直近24時間の送金イベントをすべて拾って数えました。
カイア:4,270件、関与アドレス1,279個、8,709万円
ポリゴン:554件、関与アドレス262個、7,302万円
イーサリアム:280件、関与アドレス116個、5,478万円
アバランチ:14件、関与アドレス13個、118万円
合計で1日5,118件、金額にして約2億1,600万円が動いていました。流通額27億3,770万円に対する回転率で見れば、1日で7.9%が動いている計算になります。ステーブルコインとしては、止まっているという水準ではありません。
ただし中身を見ると、動かしているものの正体が分かります。イーサリアムで最も多くJPYCを受け取ったアドレスは、ユニスワップv4のプールマネージャーで、280件のうち56件を占めていました。ポリゴンでも最多の受け手はユニスワップv4のプールマネージャーで、その次がユニスワップv3のプール、その次がLI.FIというブリッジ集約サービスです。
つまり動いている2億円の相当部分は、決済ではなく分散型取引所での交換と、チェーン間の移動です。買い物に使われた金額ではありません。
保有者の数も数えました。ポリゴンが48,365アドレス、イーサリアムが1,921アドレスです。カイアはチェーン全体の送金ログを再生して数え直したところ、残高がプラスのアドレスが5,279個ありました。
💡保有者が5万人近くいるという数字だけを見ると、かなり広がっているように見えます。ところがカイアで分布を取ると、5,279アドレスのうち4,501アドレスは残高100円未満でした。この差をどう読むかが、この記事の分かれ目になります。
3️⃣ 流通額の67%がある場所
ここが、この記事でいちばん書きたかった部分です。JPYCの流通額27億3,770万円が、どこに置かれているのかを追いかけました。
67%を載せているカイアというチェーン

チェーン別に流通額を分けると、こうなります。
カイア:18億8,166万円(68.7%)
ポリゴン:6億0,132万円(22.0%)
イーサリアム:1億6,600万円(6.1%)
アバランチ:8,872万円(3.2%)
対応が始まったのが2026年5月15日で、いちばん新しいはずのカイアが、3か月足らずで流通額の7割近くを持っていきました。イーサリアムとポリゴンで9か月かけて積み上げた量を、あっさり抜いています。
そのカイアというチェーンのネイティブ通貨がどう評価されているかも、いちおう見ておきます。
価格 ¥4.18 / 時価総額 約267億8,000万円 / 時価総額ランク 181位 / 1Y変動 −80.9%
カイアは、LINEが作ったフィンシアと、韓国カカオが作ったクレイトンが2024年8月に合流して生まれたチェーンです。日本と韓国それぞれの国民的メッセージアプリが出自にあるため、LINEのアプリからそのまま触れるという他にない導線を持っています。トークンの値段そのものは1年で8割下げていますが、いま見たいのはそこではありません。なぜ日本円ステーブルコインの7割が、このチェーンに集まったのかです。
LINEのアプリに集まった18億3,608万円
答えは、チェーンの上にありました。カイア上でJPYCを持っているアドレスを残高順に並べると、上位4つで発行済み35億円の98.70%を占めています。
内訳は次の通りです。
発行体のアドレス2つ:合計16億1,834万円
ある1つのスマートコントラクト:9億4,686万円
もう1つのスマートコントラクト:8億8,926万円
後ろの2つが何なのかを調べるために、コントラクトに直接問い合わせてみました。返ってきた名前がSuperEarn Cooldown Vault(JPYC)、シンボルはseCDV-JPYCです。ERC-4626という、預けた資産を運用する金庫の規格で作られていました。
もう一方のコントラクトにtotalAssets、つまり預かり資産の総額を尋ねると、18億3,608万円という答えが返ってきました。これは自分の残高9億4,686万円と、クールダウン金庫の8億8,926万円を足した数字と一致します。2つで1つの運用商品だということです。
このSuperEarnは、LINE NEXTが提供しているWeb3ウォレットのUnifiから使える利息サービスです。LINEのアプリの中から、JPYCを預けて年率で増やせる、という商品になっています。
18億3,608万円という預かり額は、JPYCの流通額27億3,770万円の67.1%にあたります。日本円ステーブルコインとして世の中に出ている金額の3分の2が、LINEの1つの運用商品の中に入っている、というのが2026年8月6日時点の実態です。
💡ここは評価の分かれるところです。LINEという圧倒的な入口を取れたことは、他のどの円ステーブルコインも持っていない強みです。ただし裏を返せば、流通額の3分の2が1つのサービスの1つの判断で動いてしまうということでもあります。強みと脆さが同じ一点に集まっています。
年率5%が2%に戻る前夜に動いた8億8,926万円
このSuperEarnには、期間限定のキャンペーンがありました。
基本年率:2%
イベント期間限定の追加年率:3%
合計:年率5%
期間:2026年6月30日〜7月31日 23時59分59秒(UTC)
予算枠を使い切れば期日前に終了する、という条件付きでした。そして予定どおり、7月31日をもって追加の3%は終わっています。8月に入ってからは基本の2%だけです。
このキャンペーンの効果は、チェーンの数字にそのまま出ていました。カイア上のJPYC流通額は、6月1日に2億3,765万円だったものが、7月13日に14億4,644万円、7月28日に18億6,645万円まで膨らんでいます。SuperEarnの預かり資産で見ると、7月13日の14億0,459万円から7月28日の18億1,917万円へ、2週間で4億円増えました。
問題はその先です。クールダウン金庫の残高を日ごとに追うと、こうなっていました。
7月22日:3,020円
7月28日:3,020円
7月31日 0時(UTC):3,020円
7月31日 12時(UTC):8億8,926万4,810円
8月6日:8億8,926万4,810円
キャンペーンが切れる当日、それも締切の12時間前に、預かり資産のちょうど半分にあたる8億8,926万円が、クールダウンと名の付いた金庫へ一度に移りました。そしてその金額は、6日たったいまも1円も動いていません。
ここは慎重に書きます。この移動が、利用者の解約申請が一斉に積み上がった結果なのか、それとも運用先を巻き戻すための事業者側の内部処理なのかは、チェーンの外側からは断定できません。1円単位まで同じ金額が6日間まったく動かず、しかも1回の取引で移っている点を見ると、多数の利用者が個別に解約ボタンを押した形ではなく、まとめて処理された動きに見えます。
いっぽうで、SuperEarn全体の預かり資産は8月3日の17億5,605万円から8月6日の18億3,434万円へ、むしろ増えています。年率が2%に戻ったあとも、新しく預ける人は入り続けているということです。
確かなのは、クールダウンという名前の金庫に、預かり資産の48.4%が入ったまま止まっているという事実です。 これが解約待ちの行列なのだとすれば、8月のどこかでJPYCの流通額は9億円近く減る可能性があります。
預けた円はどこへ行くのか
もう一つ、預ける前に知っておくべきことがあります。年率2%の原資がどこから来ているのかです。
JPYC社自身は、JPYCに利息を付けていません。資金移動業者である以上、預金を受け入れているわけではないので、利息を付けることはできません。1JPYCはあくまで1円で、持っているだけでは増えない設計です。
ではSuperEarnの2%は誰が出しているのかというと、LINE NEXTの販促費ではなく、預かった資産を外部のDeFiレンディング市場で運用して得たリターンが原資だと説明されています。具体的には、預かったJPYCをカイアからイーサリアムへブリッジし、Morpho系のMetaMorphoといった貸出市場で運用する、という組み立てです。
ここまで分解すると、リスクの所在がはっきりします。
預金保険の対象外(JPYC自体もSuperEarnも)
運用先のスマートコントラクトに問題が起きれば、元本が毀損する可能性がある
チェーン間のブリッジにも同じリスクがある
年率は保証されておらず、キャンペーンは予算枠で早期終了しうる
日本円で持っているつもりのお金が、LINEのアプリを1回タップした先で、海外の分散型レンディング市場に貸し出されている、という構造になっています。年2%という数字だけを見て預ける類のものではありません。
銀行の普通預金と比べれば2%は魅力的に見えます。ただし銀行預金は預金保険で1,000万円まで守られていて、その守りを外した対価が2%です。この交換が割に合うかどうかは、預ける金額の大きさで変わってきます。
カイアで1万円以上持っているのは77アドレス
最後に、カイア上のJPYC保有者の分布を出しておきます。チェーンの送金ログを全期間再生して、5,279アドレスの残高を復元しました。
100円未満:4,501アドレス
100円〜1,000円未満:493アドレス
1,000円〜1万円未満:208アドレス
1万円〜10万円未満:51アドレス
10万円〜100万円未満:11アドレス
100万円以上:15アドレス(合計で全体の99.9%)
1万円ぶん以上のJPYCを持っているアドレスは、77個しかありません。 全体の85%にあたる4,501アドレスは、残高が100円に届いていません。キャンペーンで配られた少額のトークンや、動作確認のために触っただけのアドレスが、この層を作っていると考えられます。
日本円ステーブルコインの流通額の7割を載せているチェーンの上で、実際にまとまった金額を持っている人は、100人に届いていないということです。この数字は、JPYCが決済インフラとして立ち上がったのかどうかを判断するときに、いちばん効いてくると考えています。
4️⃣ 「危ない」と言われる材料を1つずつ検証
ここからは、JPYCについて不安として挙げられる話を、1つずつ潰していきます。結論を先に言うと、危ないと言われる中身は、思われているものとは違うところにありました。
破綻したら1円で返ってくるのか
いちばん多い不安がこれです。答えは、制度としては返ってくる仕組みになっている、です。
JPYC社は、発行と引き換えに受け取った資金の要履行保証額の最高額以上を、東京法務局に供託するか信託しています。未達債務は1週間の期間で算定され、その最大金額が3営業日以内に保全されます。会社が破綻しても、この履行保証金から資金決済法59条にもとづく還付を受けられます。
ここで気になるのは、実際に保全されている額と、いま世の中に出ている量が見合っているかどうかです。私が数えた流通額は27億3,770万円で、これは会社が公表してきた流通額とぴったり一致しました。保全すべき未達債務の規模としても、この水準で説明がつきます。
もっとも、還付には手続きがかかります。倒産手続きの中で還付公告が行われ、債権の申出をして、配当を受けるという流れです。明日1円で返ってくる仕組みではありません。銀行が破綻したときのペイオフとは、体感がだいぶ違うと思っておいたほうがよいです。
口座を持っていない人は償還できない
これは、あまり指摘されていないのに、いちばん実害が出やすい点だと考えています。
契約締結前交付書面には、こう書かれています。JPYCアカウントを開設していない者は、JPYCアカウントを開設しない限り、JPYCを保有していたとしても当社に対して償還を求めることはできません。
つまり、友人から送ってもらったJPYCも、分散型取引所で買ったJPYCも、そのままでは1円に戻せません。円に戻すには、JPYC EXで口座を開き、本人確認を済ませ、そのうえで償還を申し込む必要があります。
JPYC EXの累計口座開設数は、2026年6月2日時点で19,000件でした。いっぽうチェーン上でJPYCを持っているアドレスは、ポリゴンだけで48,365個あります。単純比較はできませんが、償還のできない持ち主が相当数いることは想像がつきます。
その人たちが円に戻したければ、分散型取引所で売るしかありません。そしてそこには、次に見るペグの話が効いてきます。
ペグは本当に1円で止まっているのか
1JPYC=1円で発行され、1円で償還されるという約束は、JPYC社との間では守られています。ただし市場でついている値段は、1円ちょうどではありません。
集計サイトの記録で、発行開始からの285サンプルを調べたところ、こうなっていました。
現在値:¥0.9945(1円に対して−0.55%)
最安:¥0.9703(2026年7月5日)
最高:¥1.0939(2026年7月27日)
1円から1%以上ずれたサンプル:285のうち26回(9.1%)
いちばん目を引くのは、7月27日の¥1.0939です。1円で償還できるものに、市場が1円9銭を払った日があったということになります。時期を見れば分かるとおり、SuperEarnの年率5%キャンペーンの真っ最中です。利回りを取りにいく需要が、分散型取引所の薄い板を押し上げた形だと考えられます。
逆に7月5日には¥0.9703まで下げています。3%の割引で買えたということでもあり、売る側から見れば3%を取られたということでもあります。
24時間の売買代金は約2,070万円で、直近30サンプルの平均では860万円ほどです。発行済み88億円に対して、市場で1日に売買されているのは1,000万円前後という薄さです。この板の薄さが、そのまま±3%の振れを作っています。
まとめると、JPYC EXの口座を持っている人にとっては1円は1円です。持っていない人にとっては、その日の板次第で0.97円にも1.09円にもなる、というのが正確なところです。
同じ名前のトークンが3種類ある
最後に、いちばん実務的に危ない話をします。
JPYCという名前のトークンは、公式のものだけで3種類存在します。
いまのJPYC(0xE7C3D8C9...):資金移動業型。1円で償還できる
JPYC Prepaid(0x431D5dfF...):前払式支払手段。2025年6月1日に新規発行を停止
JPYC v1(0x2370f9d5...):さらに古い世代
そして厄介なことに、古い2つはいまも分散型取引所で取引が続いています。集計サイトの表示では、JPYC Prepaidが1枚あたり¥1.30、JPYC v1が¥1.22です。流通量はそれぞれ26億枚と24億6,762万枚あります。
板が薄いことが作った値段ではありますが、1円で償還できないトークンに、1円より高い値段が付いているという状況が現に起きています。名前もロゴもJPYCですから、間違って掴む人が出ても不思議ではありません。
さらにJPYC社は、発行開始の翌日にあたる2025年10月28日に、偽のトークン(偽JPYC)取引および偽のSNSアカウントに関する注意喚起を出しています。ブロックチェーンでは誰でも同じ名前とロゴのトークンを安く発行できるため、見た目ではなくコントラクトアドレスで判断してほしい、という内容でした。
対策は1つだけです。公式サイトに書かれているコントラクトアドレスをコピーして使い、1文字でも違えば別物として扱ってください。 手で入力しないことも大事です。ここを面倒がると、資産をまるごと失う入口になります。
💡ここまで見てきて、JPYCの危なさは「発行体が信用できない」という種類のものではないと感じています。制度も保全も設計もまともです。危ないのは、利用者側が仕組みを理解しないまま触ったときに損をする経路が多いという点のほうです。
5️⃣ 会社の体力と、10兆円という目標
制度と実測を見たので、次は発行体そのものを見ます。ステーブルコインは発行体が続くことが前提の商品なので、ここは飛ばせません。
収益は国債の利息だけ
JPYCは、口座開設も維持も無料で、発行も償還も無料です。ではどこで稼いでいるのかというと、答えは1つしかありません。利用者から預かった円を裏付け資産として運用し、その利息を取るというモデルです。
裏付けは円の預貯金と日本国債だと説明されています。岡部社長は運用利回りを1%程度と想定していて、無料の手数料は国債の運用収益でカバーする、1兆円の発行でも黒字になる、と語っています。
この構造に、いま数えた数字を当てはめてみます。
流通額27億3,770万円に対して年1%なら、年間の収益はおよそ2,738万円です。社員を何人も抱えて、金融庁の登録業者としてAML体制を維持し、4つのチェーンを運用している会社の売上としては、まだ相当に小さい数字だと言わざるを得ません。
もっとも、これは伸びしろの話でもあります。流通額が10倍になれば収益も10倍になり、固定費はそこまで増えません。ステーブルコインは典型的な規模の商売で、途中までは赤字が続くのが当たり前です。
ただし1つ、構造的な弱点があります。この収益は金利に完全に依存しています。岡部社長自身、国債の金利が0%近くまで下がるような極端な低下があれば事業継続が難しいと述べています。
日本の金利がいまの水準にあるから成り立っているモデルで、金利が下がれば手数料の有料化が現実味を帯びます。契約締結前交付書面に将来的な償還手数料の可能性が明記されているのは、この裏返しです。
60億円を集めた会社の現在地
資金調達は順調です。時系列で並べると、こうなります。
2026年2月27日:シリーズB 1stクローズで17.8億円
2026年4月20日:2ndクローズで28億円を追加
2026年5月22日:シリーズB累計で約50億円
2026年8月5日:シリーズBエクステンションで累計約60億円
いちばん新しい60億円のリリースは、この記事を書いている前日に出たものです。エクステンションでの新規参画先として、物流大手のAZ-COM丸和ホールディングスが入っています。7月22日に資本業務提携を結んだ相手で、約2,300の委託先への支払いにJPYCを導入する計画が伝えられています。
会社の登記上の資本金は20億1,467万円です。株主にはUSDCの発行体であるCircleのベンチャー部門も名を連ねていて、2025年11月にはCircleのパートナーステーブルコインのプログラムにも参画しました。
利用者側の数字も見ておきます。発行・償還プラットフォームであるJPYC EXの累計口座開設数と累計発行額は、次のように推移しています。
2025年11月10日:口座6,000件
2025年12月16日:口座10,000件、累計発行額5億円
2026年2月3日:口座13,000件、累計発行額10億円
2026年6月2日:口座19,000件、累計発行額30億円
7か月で口座が3.2倍、累計発行額が6倍です。伸び方としては悪くありません。ただし口座19,000件という規模は、ネット証券や決済アプリと比べると、まだ実証実験に近い水準です。
目標まで3,653倍
JPYC社は、3年で発行残高10兆円という目標を掲げています。1%の利回りなら1,000億円の収益になる、という計算です。
いまの流通額27億3,770万円と並べてみます。
10兆円 ÷ 27億3,770万円 = 3,653倍
3年で3,653倍です。仮に発行済み総量88億548万円のほうを分母にしても1,136倍になります。
この目標を無謀だと切り捨てるつもりはありません。ステーブルコインは企業間決済に入り込めば桁が一気に変わる商品で、テザーは29兆円規模まで来ています。日本円建てで10兆円という絵そのものは、描けない絵ではないです。
ただし、そこへ至る道筋を数字で見ると、いまはまだ入口の入口です。流通額の67%がLINEの1つの運用商品の中にあり、1万円以上を持つアドレスがカイア上で77個しかない状態から、企業間決済で10兆円へ行くまでの距離は、率直に言って遠いと感じています。
💡目標の大きさそのものは責める材料になりません。問題は、いまの流通額の伸びが実需で作られたものなのか、利回りキャンペーンで作られたものなのかという点です。7月31日に動いた8億8,926万円が、その答えを出しにきています。
6️⃣ 円ステーブルコインの勢力図
JPYCだけを見ていると分からない部分があります。日本の円ステーブルコインは、いま3つのルートで同時に立ち上がっています。
信託型が上から来る
JPYCは資金移動業型です。これに対して、信託銀行が信託の仕組みで発行するのが信託型で、こちらには1回100万円という上限がありません。
代表格が、SBIホールディングスとシンガポールのStartale Groupが組んで、SBI新生信託銀行が発行するJPYSCです。2026年6月24日にローンチし、SBI VCトレードが主な販売の窓口になっています。狙っているのは法人の大口決済で、JPYCが個人向けなのに対して、こちらは最初からB2Bを見ています。
三菱UFJ信託銀行とProgmatが進めるProgmat Coinも同じ信託型で、3メガバンクが背後にいます。商用の開始時期はまだ明示されていませんが、基盤としては最大になる可能性があります。
ここで面白いのは、JPYC社が競合として身構えているわけではないという点です。三菱UFJ信託銀行・Progmat・JPYCの3社は、信託型のJPYCの発行と、国内外のステーブルコイン間の交換について、共同検討を始めています。資金移動業型で個人を取り、信託型で法人を取る、という二本立てを自分でやろうとしている形です。
預金型という別ルート
3つ目のルートが、銀行が預金そのものをデジタル化する預金型です。こちらはステーブルコインの規制ではなく銀行法の枠組みで動きます。
ディーカレットDCPが手がけるDCJPYが企業間決済向けの代表で、KDDIなどが出資しています。地方銀行では、北國銀行がデジタルプラットフォーマー社と組んで2024年4月にトチカを出しました。トチカとJPYCを交換できるようにする構想も進んでいます。
整理すると、こうなります。
資金移動業型(JPYC):個人向け、1回100万円まで、すでに稼働中
信託型(JPYSC・Progmat Coin):法人大口向け、上限なし、立ち上がり中
預金型(DCJPY・トチカ):銀行法ベース、企業間決済と地域通貨
JPYCの立ち位置は、いちばん早く走り出した個人向けの1本です。先行者としてブランドと導線を押さえた一方で、金額の大きい領域は制度上そもそも取りにいけません。
実需はどこまで来たのか
ここまで数字の話ばかりしてきたので、実際の使い道も並べておきます。2026年に入ってから動いた案件です。
ローソン:2026年8月から高輪ゲートウェイシティ店で、POSレジでのJPYC決済の実証を開始。KDDI・ローソン・ハッシュポートの3社で、POS連携としては国内初。ただし対象は当面3社の関係者に限られています
ダイナースクラブ:2026年6月1日から、カード利用で貯まったポイントをJPYCに交換できるサービスを開始。日本のクレジットカードでは初めての取り組みです
日本免税:2026年11月に予定されている免税制度のリファンド方式移行に向けて、JPYCを還付手段に使うモデルを構築中
駒ヶ根市の子ども食堂:2026年6月から、寄付の決済手段としてJPYCを採用
ソニー銀行:2026年3月にサービス連携へ向けた基本合意書を締結
AZ-COM丸和ホールディングス:約2,300の委託先への支払いへ導入を計画
顔ぶれとしては、じゅうぶんに本気度の伝わる並びです。特に免税リファンドは、2026年11月という期限が決まっている点で、他とは重みが違います。
いっぽうで、いま実際に決済として動いている量を見ると、ローソンの実証は1店舗の関係者限定です。看板の大きさと、現時点で流れている金額の差は、はっきり意識しておく必要があります。
7️⃣ いま円をJPYCに替えるべきか
ここまでで材料は出そろいました。制度は整っていて保全もあり、発行済み88億円のうち世に出ているのは27億円で、その67%はLINEの1つの運用商品の中にあります。その半分は7月31日にクールダウン金庫へ移ったまま止まっています。会社は60億円を調達して3年で10兆円を掲げていますが、いまはその3,653分の1の地点にいます。
ここからは、この材料を全部足したうえで、いま自分の円をJPYCに替えるべきなのかに答えを出します。持ってよい金額の目安、どのチェーンでどう持つか、撤退の線、そして値上がりを取りにいきたい人が見るべき場所まで、数字で置いていきます。
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