「いい人」じゃなくて「本物」でいること——学術研究が描く、道徳的なリーダーシップの3つの顔|【自分アジェンダ®と「道徳的アプローチを持つリーダーシップ」】学術研究に照らした「内包的な自分」によるリーダーシップの可能性
道徳的リーダーシップ研究が示した新たな方向性
「あの人はいいリーダーだ」と感じるとき、何が「いい」のでしょうか。
ルールを守らせるのがうまい人? 部下のことを第一に考える人? それとも、どんなときでも自分らしく、ぶれない人?
実はこの「なんとなく良さそう」の感覚には、研究者たちが長年かけて整理してきた構造があります。Academy of Management Annalsに掲載されたLemoine, Hartnell, & Leroy(2019)の論文は、「道徳的な側面を持つリーダーシップ」として注目されてきた3つの理論——倫理的リーダーシップ、オーセンティック・リーダーシップ、サーバント・リーダーシップ——を、道徳哲学の観点から読み解いた統合的なレビューです。
倫理的リーダーシップ(Ethical Leadership)
オーセンティック・リーダーシップ(Authentic Leadership)
サーバント・リーダーシップ(Servant Leadership)
この記事では、その3つの理論が「何を正しさの根拠にしているか」を整理したうえで、著者が提唱する自分アジェンダ®との概念的な重なりを、仮説として探ってみます。
「道徳的リーダーシップ」という言葉のわかりにくさ
「道徳的リーダーシップ」は、ひとつの確立した理論の名称ではありません。Lemoine et al.(2019)が行ったのは、「道徳的な色彩を持つ」という共通点で括られる3つの独立した理論を並べ、その共通点と違いを丁寧に整理するという作業です。
「道徳的リーダーシップとはこういうものだ」と一言で言えるものではなく、「道徳的なリーダーシップには、こんな3つの顔がある」と理解するのが正確です。
3つの顔——「正しさ」の根拠はどこにあるか
3つの理論を分けるのは、「何を根拠に正しいとするか」という哲学的な立ち位置の違いです。
① 倫理的リーダーシップ——「ルールに従うこと」が正しさの根拠
組織の規範、社会のルール、公正な手続き。このアプローチのリーダーは、それを率先して守り、周囲にも示す人です。コンプライアンス違反に毅然と向き合い、「決まりはみんなに平等に適用される」という姿勢を貫きます。
哲学的には「義務論」に対応します。結果がどうあれ、正しい手続きを踏むことが重要、という考え方です。
② オーセンティック・リーダーシップ——「自分に正直であること」が正しさの根拠
自分の価値観や信念を深く理解し、それに一致した行動を取ること。外部の評価や圧力に流されず、内なる「軸」に従って判断する。その透明性と一貫性が、周囲からの信頼を生む——これがオーセンティック・リーダーシップの核心です。
哲学的には「徳倫理学」に対応します。行為の結果やルールではなく、「その人がどんな人間であるか」が正しさの根拠になります。
③ サーバント・リーダーシップ——「相手にとって良い結果」が正しさの根拠
リーダー自身の権限や地位よりも、メンバーや組織、社会全体への貢献を優先する。行動の正しさは、それがもたらす結果によって測られる——これがサーバント・リーダーシップの立場です。
哲学的には「帰結主義」に対応します。良い結果を生む行動が正しい、という考え方です。
論文が興味深いのは、この3つが「正直さ」「誠実さ」という日常的な道徳的行動において重なって見えながら、「なぜそれが正しいのか」という根拠では鮮やかに分かれる、という点を明示したことです。
自分アジェンダ®との重なり——著者の仮説として
自分アジェンダ®は著者が提唱する実践的なフレームワークであり、以下に述べるのは著者自身が感じる概念的な重なりの仮説です。
「内包的な自分」とオーセンティック・リーダーシップ
自分アジェンダ®が問いかける「内包的な自分」——他者や環境、見えないものの利益を、自分の利益として内包して捉える——という発想は、オーセンティック・リーダーシップの「内なる価値観に一致した行動」と方向性が重なります。
ただ、ひとつ違うとすれば、オーセンティック・リーダーシップが「今ある自分の軸」への忠実さを強調するのに対し、自分アジェンダ®は「自分という境界線そのものを広げていく」という動的なプロセスを重視しています。
「自分ゴトのリーダーシップ」とサーバント・リーダーシップ
「疑問や不安を感じたとき、わたしならどうする、と考えて動く」——これが自分アジェンダ®の出発点のひとつです。だれかに言われたからではなく、自分が動くことで、まわりにも良いことが起きる、という信念がその根っこにあります。
この「自分が動く、だから結果が変わる」という構造は、サーバント・リーダーシップの帰結主義的な立ち位置と概念的に重なります。違いがあるとすれば、サーバント・リーダーシップが「組織内のリーダー役割」を前提とするのに対し、自分アジェンダ®は「だれもがリーダー」という立場を取ることです。
3つに共通する「深い動機」という問い
論文が3つの理論を通じて示唆することのひとつは、「義務感や恐れではなく、より深い動機に根ざした行動が持続する」ということです。
自分アジェンダ®が「感情層・存在層」からの動機を重視するのも、同じ問いへの向き合い方です。「なぜ自分はこれをしたいのか」を深く掘り下げることで、借り物ではない、自分本来の動機が見えてくる。
「本物」とはどういうことか
3つの理論はそれぞれ、「ルールへの誠実さ」「自分への誠実さ」「結果への誠実さ」という、少しずつ異なる「本物であること」を描いています。
あなたが「いいリーダーだ」と感じる人は、どの意味での「本物」に近いでしょうか。そして、あなた自身はどの「本物」でありたいと思いますか。
自分アジェンダ®の問いかけは、そこから始まります。
参照論文
Lemoine, G. J., Hartnell, C. A., & Leroy, H. (2019). Taking stock of moral approaches to leadership: An integrative review of ethical, authentic, and servant leadership. Academy of Management Annals, 13(1), 148–187.
※ 本記事は上記論文の知見と自分アジェンダ®の考え方との概念的な親和性を著者が考察したものです。論文が自分アジェンダ®を支持・検証したものではありません。
論文の要訳
道徳的リーダーシップの統合的研究:倫理的、オーセンティック、サーバント・リーダーシップの比較分析
現代のビジネス環境において、リーダーシップの道徳的側面への関心が急速に高まっている。特に倫理的リーダーシップ、オーセンティック・リーダーシップ、サーバント・リーダーシップという三つのアプローチが注目されているが、これらの関係性や違いについて理論的な混乱が生じている。本研究は、これらの道徳的リーダーシップアプローチを道徳哲学の観点から整理し、その特徴と相違点を明確にすることを目的としている。
三つのリーダーシップアプローチの特徴
研究の結果、各リーダーシップアプローチは異なる道徳的基盤を持つことが明らかになった。倫理的リーダーシップは「規範や規則への準拠」を重視し、オーセンティック・リーダーシップは「自己認識と一貫性」を、サーバント・リーダーシップは「ステークホルダーへの配慮」をそれぞれ中核に据えている。
これらの違いは、道徳哲学の三大理論である義務論、徳倫理学、帰結主義と対応している。義務論は「ルールに従うことが正しい」と考え、徳倫理学は「人格の徳を重視する」、帰結主義は「結果を重視する」という立場を取る。
倫理的リーダーシップ:ルールと規範の重視
倫理的リーダーシップは義務論的アプローチに基づいている。このタイプのリーダーは、組織の規範や社会のルールを重視し、それらを遵守することで組織の秩序を維持する。例えば、コンプライアンス違反に対して厳格に対処したり、業界の倫理規定を率先して守ったりする行動が特徴的である。結果よりもプロセスや手続きの正当性を重視する傾向がある。
オーセンティック・リーダーシップ:自己認識と一貫性
オーセンティック・リーダーシップは徳倫理学に根ざしている。このリーダーは自分自身の価値観や信念を深く理解し、それに基づいて一貫した行動を取ることを重視する。外部の期待や圧力に左右されることなく、自分の道徳的コンパスに従って意思決定を行う。透明性が高く、自分の考えや感情を正直に表現することで、フォロワーからの信頼を獲得する。
サーバント・リーダーシップ:結果と他者への奉仕
サーバント・リーダーシップは帰結主義的な考え方に基づいている。このアプローチでは、リーダーの行動が多様なステークホルダー(従業員、顧客、地域社会など)にもたらす結果を最重要視する。リーダー自身の利益よりも、他者の成長や組織全体の長期的な利益を優先する。具体的には、部下の能力開発に時間を投資したり、社会貢献活動に積極的に取り組んだりする。
実務への示唆と課題
これら三つのアプローチは理論的には区別されるものの、実際の測定や評価においては重複が見られることが多い。多くの研究で使用されている尺度が、一般的な道徳的行動(正直さや誠実さなど)を含んでいるため、各アプローチの独自性が曖昧になってしまう問題がある。
この重複は、組織における実践においても重要な意味を持つ。例えば、同じリーダーの行動であっても、どの観点から評価するかによって異なる解釈が可能になる。部下への厳格な指導は、倫理的リーダーシップの観点では「規範の徹底」として、サーバント・リーダーシップの観点では「部下の成長支援」として解釈できる。
今後の展望
本研究は、道徳的リーダーシップの複雑性を整理し、各アプローチの独自性を明確にする重要な貢献をしている。実務家にとっては、自身のリーダーシップスタイルを理解し、状況に応じて適切なアプローチを選択するための指針を提供している。
今後は、各アプローチの独自性をより明確に測定できる尺度の開発と、実際の組織パフォーマンスへの影響を検証する研究が求められる。また、文化的背景や業界特性がこれらのリーダーシップアプローチの効果性にどのように影響するかについても、さらなる検討が必要である。
道徳的リーダーシップは単なる理想論ではなく、組織の持続的成功に不可欠な要素であることが確認された。現代のビジネスリーダーには、これらの異なるアプローチを理解し、自身の価値観と組織の状況に最も適した道徳的リーダーシップを実践することが求められている。
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リーダーシップを難しく考えずに、いつもの行動がリーダーシップ、「だれもがリーダー」学習を提唱しています。わたしたちが長年かけて培ってきた知恵と知識を拡めたいと思っています。
