ある学校の倒産救済劇
今朝、マンチェスターとバーミンガムの間にある私立のボーディングスクール(私立の中高一貫校)が、財政難で6月末の閉鎖を宣言していたところ、救い主が現れて急遽継続が決定したというニュースが目に止まりました。
そのアボッツホルム・スクール(Abbotsholme School)、4月から教職員への給与未払が続いていて、今月に入ってから「2週間後に完全閉鎖します」という衝撃のアナウンスが騒ぎになっていたのですが、地元の投資家グループが迅速に動き、敷地や施設を丸ごと救済するかたちで学校事業継続決定という逆転劇になったようです。先生と生徒たち、放り出されなくてホントによかった!
どんな学校かと思って野次馬根性で調べると、アカデミック・パフォーマンスはいまいち(失礼)だけど、独自の農場と乗馬センターを持ち、ハイキングやカヤックなどの野外活動を通じてサバイバルスキルやリーダーシップを身につけるという個性的な学校でした。
「うちの子はお金の心配なんかしなくていいから、のびのび全人教育したい」というご家庭にはうってつけです。先生1に対して生徒8の少人数制。ターム学費はフルボーディングなら年間3万ポンド。つまり600万円以上が基本で、海外留学生なら900万円以上を払う感じです。
私は「お金をかけても勉強筋鍛えないって、その先はどうなるの?」が気になったわけですが、アボッツホルムの卒業生の何割かは、例年イギリス最高峰の農業・土地管理・アグリビジネスの専門大学(Harper Adams University)に進学するみたいです。
ははあ〜、これは英国内に広大なカントリー・エステート(領地)を持つ地主の跡取りや、乗馬ビジネスや動物病院の経営に関わりたい、最先端の農業を学びたい子にとっては、専門性や情熱を育み現実的なスキルを養える学校っぽいですね。お金はかかるけど、楽しそうです。
それに、英国にはトップオブトップを狙わなくても、そこを卒業すれば「よい大学ですね」と言われるラッセルグループの大学が24校もあります。大学受験がそもそもアカデミックスコア一本勝負じゃないから、「緑豊かな環境で、羊の出産を助けたり作物を育てたりして環境保全に対する興味を培いました」という物語は良い響き。ついでに「英国ボーティング」って、それだけでなんとなく世界ブランドだったりするので、海外大学のAO入試や自国の帰国子女枠入試などに臨む場合も強いのかもしれません。
英国の地元を愛する素封家は、そのようにして育つのかもしれませんね。今回、学校救済に乗り出した人たちからして、この短時間にそれだけの意思決定をして学校を救ったのって、英国が理想とするカントリー・ジェントルマン。中世から続くジェントリの末裔かもしれません。(「ジェントルマン」の語源は上品な都会の貴族ではなく、泥に塗れて我が土地に生きる人たちを愛する領主のことなのです。)
と、私立校の危機一髪ニュースから思いがけず優雅な話に至りましたが、最初にヘッドラインをみて私が想起したのは、逆に景気の悪い話でした。
数年前に、息子の友達が通っていたロンドン市内のプレップスクールが倒産した時のこと。それも突然、夏休みに入ってから学校の管財人から「倒産したので秋以降の再開はありません」というメールがピロンと来て、学校にビザをスポンサーをしてもらっていた友達親子は不本意にも帰国することになってしまったのです。
次のタームの学費もすでに振り込んでいたけど、生徒の抵当権順位は低いので払い戻しも期待できないとのことでした。(最終的にどうなったかは聞いてないけど、悪質だなあと思いました。)
英国では2025年1月から私立校が20%のVAT(消費税)の対象になり、さらに優遇税制廃止や年金負担増大も重なりました。多くの学校の経営が厳しくなるとささやかれてはいましたが、実際に蓋を開けると、2025年の間に70校近くが閉鎖や合併、あるいはそれに近い危機に追い込まれたようです。
イートン校、ハロー校のような超名門は別として、今回話題になったアボッツホルムのような地方中堅校がバタバタ、閉じたみたい。
おおっぴらには言えないけれど、アボッツホルムの場合、財政を悪化させた前の経営者が2017年にこの学校を買収した中国資本だったことも「外資から、地元が学校を取り戻した!」と、英国人の愛国心をくすぐる嬉しい流れだったはずで、数ある学校の倒産騒動(多くは報道されない)の中でもニュースになっていたのだろうと推測します。
一方で日本。
特別にお高いボーディングスクールもないかわりに、「ここは私が」とさらりと小切手を切る、余裕と愛のあるカントリー・ジェントルマンもいません。戦後、GHQが財閥解体・農地改革で、一億総中流にしてしまったからね…。
教育システムにおいて、何でもかんでも英国が良いと言いたいわけではありません。そもそも前提が違いすぎる。英国は英国で、日本とはまた別の深刻な問題を抱えてにっちもさっちもいかなくなってるところかあるしね。
だけど、もしも…マッカーサーがもう少し手加減していたら。
日本のどこかに、「苛烈な受験競争に成長盛りの子供を晒すのはよろしくありません。我が校では、広大な敷地で田植えと牛の世話をして四季折々の大地との絆を学びます。放課後は流鏑馬クラブやマタギ研究会で集中力とリーダーシップを養います。学費は年間1000万ですよ。留学生は1500万でお願いしますね。」っていうボーディングスクールとか、「この大学は、日本の伝統的な茶畑や漁業の保全、あるいは林業と木造建築に関わる教育に唯一無二の強みがあります。卒業生は専門家として地方自治体に引っ張りだこ。独自の日本版アグリ・テックは近年の気候変動の解決にもつながるヒントを秘めたものとして、近年世界からの注目を集めています。」ていう大学とかも、あったかも?
おっと、とりとめもない妄想が走り始めたのでこのへんにしときます。
【6月10日追記】以上、「地元の富豪が漢気張って学校を救ったのすごいな」と思った勢いで書いたのですが、根本の経営問題が解決したわけではないので、実際は、今在籍する生徒たちが路頭に迷わないよう卒業なりの道筋をつけるまでの一次的な延命措置の話みたいです。訂正するか?と迷ったけど、まあ妄想小噺として置いておきます。まことはあいなきにや。
