くすぶる芸人を再生する東野幸治の新番組が、かなりコンサルだった
変わらなあかんことは分かってる。
でも、何から手をつければいいか分からない。
ぼくは、そういう経営者をコンサルティングの現場で何人も見てきた。
このあいだ、東野幸治の新番組を見ていて、はっとした。
これは、かなり似てる。
くすぶっている中堅芸人を再生する企画。
「東ノリ再生向上」。
東野が向き合っていたのは、芸歴28年の漫才コンビ「ヘッドライト」。
でも途中から、これは芸人の話というより、経営の話と同じやなと思いながら見ていた。

東野幸治を再生役に置いた時点で、もう半分勝っている
関西テレビで3月から始まったこの番組。
くすぶっている中堅芸人を再生させる企画。
東野幸治を再生役に置く。
この時点で、もう半分勝っている。
東野は、MCがうまいだけの芸人ではない。
関西では『マルコポロリ!』で、
くすぶっている芸人をいじり倒しながら、
その人のクセや弱さを笑いに変え、
結果的にキャラクターを立たせてきた。
永野。
ナダル。
クロちゃん。
最近では、
ネルソンズの青山フォール勝ち。
東野に“平場イップス”としていじられながら、
不器用さやプライドの高さまで含めて
キャラクターとして立ち始めている。
そういう実績を見ても、東野の“引き出す力”はかなり強い。
言うまでもなく、アメトーーク!でも東野の持ち込み企画「帰ろか…千鳥」がきっかけとなり、まだ完全に売れ切っていなかった千鳥をブレイクにつなげたのは有名な話。
要は、東野は現場で何度もそれをやってきた実績がある。
そう考えると、この「東野ノリ再生向上」も突然生まれた企画ではなくて、東野が現場でやってきた“再生”を番組として切り出したものだと思う。
第一回のゲストは、芸歴28年で月収1万円台
漫才コンビ「ヘッドライト」。
芸歴28年。
大学の同級生コンビ。
現実はかなり厳しい。
番組の中で出てきた給料明細は、月収1万9千円。
相方は1万3千円。
どちらも家庭持ち。
ひとりは3歳の子供もいる。
生活はアルバイトで支えている状態。
なかなかしんどい。
それでも番組の空気は重くなりすぎない。
番組タイトルも「再生工場」ではなく「東野ノリ再生向上」。
少しポップにアレンジされている。
深夜の和室トークという設定も含めて、入口の作り方がうまい。
東野も最初から威圧感なく入っていく。
軽く自虐しながら場をほぐす。
でも、そこから核心に入るのが早い。

「どうなりたいんですか?」が、まずコーチングそのものだった
東野が最初に聞いたのは、
「どうなりたいんですか?」
返ってきた答えは、
「人並みに稼ぎたい。。。」
ここで終わらないのがいい。
TVに出たいのか。
コントをしたいのか。
大喜利なのか。
ひな壇なのか。
何で食べていきたいのか。
質問を重ねながら、ゴールを具体化していく。
そこで出てきたのが、
漫才で営業に回りたい
という答え。
さらに、必要な金額は
月20万円。
ここがかなり大事。
夢を煽らない。
なんとなくの憧れで終わらせない。
何をしたいのか。
どこで稼ぎたいのか。
いくら必要なのか。
そこを言語化して、目標を具体的な形にしていく。
これはかなりコーチングっぽい。
いきなり答えを押し付けるのではなくて、
質問を通じて本人たちの頭の中を整理していく。
そのうえで東野はさらに質問を続ける。
「自分ら、面白いん?」
そして、
10組いたら何番目か。
1軍、2軍、3軍で言うとどこかな?
かなり突っ込んだ質問。
それでも、聞き方に角が立たない。
いじりながら、でも逃がさない。
定量で現実を固め、定性で本質を掘る
ここで見ていて思ったのは、東野がやっていることが、
かなりコンサルの構造に近いということ。
定量面では、曖昧さを排除。
給料明細。
業界での順位感。
そして「月20万円」という目標。
数字をベースにしながら、
逃げられない形で突っ込んでいく。
だから現実が共有される。
印象的だったのは、
自分たちは何軍だと思っているのか、
というくだり。
自分らは何軍までのライブやったら声がかかるのか。
ここを東野は逃がさなかった。
プライドの高い方が
「2軍ですね」
と答える。
すると東野がすぐ返す。
「2軍はもっとギャラをもらってるわ!」
この一言が鋭かった。
曖昧な自己評価を、その場で修正する。
しかも、感情的に潰すのではなく、
笑いを混ぜながら市場の現実に戻す。
結局、そのあと本人も
「そうですね」
と認める。
ここが大きい。
本人の感覚ではなく、市場の中で自分たちがどこにいるのか。
そこを直視させる。
経営者も同じだと思う。
現実を直視せず、根拠のない楽観論を語り、
結局変わろうとしない。
そういう場面は、コンサルの現場でも珍しくない。
だからこそ、再生に必要なのは励ましよりも、
まず現在地を直視することなのだと思う。
定性面では、多角的に質問を投げていた。
何がしたいのか。
何が売りなのか。
どこにズレていると考えているのか。
質問を重ねながら、本人たちも言語化できていなかった問題の本質や長所を、少しずつ可視化していく。
定量で現実を固め、定性で本質を掘る。
東野はそれを、ごく自然にやっていた。
経営でも同じ。
売上、利益、資金繰り。
実態の貸借対照表。
まず現実を見る。
そこからしか、次の一手は出てこない。
自分たちだけで考えていても、変わらない
話を聞いていると、ヘッドライトの状況はかなりはっきりしていた。
ネタは5本くらい。
20年前のネタもある。
ずっと自分たちで作ってきた。
スタイルも大きく変えていない。
つまり、ずっと同じことを磨いてきた。
それ自体は大事だ。
強みを磨くことは必要。
でも、それだけでは環境が変わったときに行き詰まることがある。
東野の提案はシンプルだった。
「誰かにネタ書いてもらったら?」
自分たちだけで考えても変わらない。
だから外の知を入れる。
ここで面白かったのは、二人の反応の違いだ。
一人は素直に賛成。
もう一人は戸惑う。
ごまかす。
軽く抵抗する。
ここに、再生のボトルネックが見えた気がした。
変わらなあかんことは本人たちも分かっている。
でも変えるということは、それまでのやり方を一度手放すことでもある。
正しい打ち手が見えていても、最後にそれを邪魔するのは、案外プライドだったりする。
コンサルの現場でも、これはよく見る。
外部の意見を入れた方がいいと分かっていても、
なかなか変わらない経営者は少なくない。
今ある強みを磨くことは大事。
でも、それだけでは環境が変わったときに詰まることもある。
外の知を取り入れること。
違う視点を混ぜること。
再生というのは、
自分たちの強みを磨きながら、同時に外にも目を向けられるかどうか
なのかもしれない。
東野は漫才師ではない。でも本質は同じ
ここでもうひとつ面白い点がある。
東野幸治はピン芸人。
漫才師ではない。
もちろん、ネタを書く人でもない。
それは番組の中でも突っ込まれていた。
たしかにその通りやと思う。
そこが逆に面白い。
東野は漫才を教えているわけではない。
ネタの細部を直しているわけでもない。
やっているのは、
現状を整理すること。
ゴールを言語化すること。
ズレを指摘すること。
外部知をつなぐこと。
次の一手を作ること。
つまり、構造を整えている。
コンサルも同じ。
指導先の本業そのものの専門家ではない。
でも、外から見て、ボトルネックや強み、次の一手を整理する。
立場はかなり近い。
本業そのものをやるわけではない。
でも、本業が回る構造を整える。
ただ分析しているだけではない。引き出す力がある
東野が芸人を光らせられるのは、本人の資質によるところも大きいと思う。
でも、それ以上に、芸人に対する愛情があるからこそできることなんやと思う。
ただ冷たく分析しているだけでは、ああはならない。
いじりながらも、どこかで「なんとか光らせたい」という気持ちがある。
そこが、見ていて伝わってくる。
正論と思われる客観的事実を伝えるだけでは、行動変容までは繋がらない。
心のトゲを取り、内発的動機のスイッチを入れないと、人は動かない。
必要なのは、本人の中で腹落ちできる作業だと思う。
何を言うかも大事。
でも、それと同じくらい、誰が言うかが大きい。
人格。
実績。
言葉の選択。
距離感。
東野は、そこまで含めて機能していた。
だから、説得ではなく、本人たちの行動につながったのだと思う。
そう考えると、プロレスラーの藤波辰爾を思い出した。
名勝負製造機。
自分が前に出て全部を奪うのではなく、相手の良さを引き出し、結果として試合全体を光らせる。
東野にも、それに通じるものがある気がする。

実装まで伴走して、動ける状態にしていた
さらに東野のすごさは、アドバイスで終わらないところにある。
「誰かにネタを書いてもらえ」
ここまでは助言。
でも、その先がある。
実際に電話させる。
ネタを書いてもらう流れを作る。
次のアクションプランの宿題まで出す。
つまり、評論で終わらない。
実装に落とす。
しかも、仕分けが早い。
何が問題か。
どこがズレか。
何を変えればいいか。
誰につなげればいいか。
この見立てが早い。
もっと言えば、ヘッドライトの二人は、番組の短い時間の中でかなり変わっていた。
現実を把握する。
課題を認識する。
打ち手が明確になる。
思考が整理される。
そして、動ける状態で帰っていく。
ここがすごい。
ただ励ましただけではない。
気分を上げただけでもない。
短時間で、再生に必要な思考の整理と行動の設計まで終わらせていた。
ほとんどコンサルそのものやった。
再生は、励ましではない
この番組を見ていて思った。
再生は、励ましではない。
現実を見ること。
今の立ち位置を認めること。
何を目指すかを言語化すること。
そして、自分たちだけでは行き詰まるなら、外の知を入れること。
会社も同じ。
芸人も同じ。
くすぶる理由は、努力不足だけではない。
構造が詰まっていることも多い。
だから再生に必要なのは、
気合いより、見立て。
根性より、問い。
内側の延長より、外との接続。
東野幸治の新番組を見ていて、そんな当たり前のことを改めて思い出した。
情報はある。
でも、整理しきれない。
余白がない。
腹が決まらない。
経営では、そういう時間が必要になることがある。
東野が芸人の構造を整えるように、経営の構造を一緒に見る。外の知をつなぎ、深化を促す問いを投げ、情報や感性を整理する壁打ち相手になる。
それも、UKパートナーズの仕事のひとつだと思っている。
そういう時間が必要やと感じる経営者の方がいれば、よかったら声をかけてほしい。
