インド旅日記
帰ってきた雑踏のデリー
デリーのインディラ・ガンディー国際空港から外に出ると、むっとした熱気に包まれた。空気には土埃や排気ガスが漂い、人混みで汗をかいた人の体臭やスパイスの薫りもわずかに混ざっている。久しぶりにそういう場所に戻ってきた、という妙な安心感があった。日本の都市部よりもずっと雑多で、人とモノと音が渦を巻いて押し寄せてくる。歓迎ムードが濃すぎて、体感はもはや小競り合いに近い。
空港の外に出たすぐの所、メトロの駅入口横にある喫煙所に足を運ぶと、前回の旅行での出来事を思い出す。大阪から帰国していたインド人に、ここで声をかけられたのだ。妙に距離が近く、日本語混じりの英語で立ち入ったことまで聞いてきたあの場面。タバコの煙の向こうに、あのときの光景がふっとよみがえる。旅の再スタートは、いつもなぜかこの煙の中から始まるらしい。身体に悪いと分かっていても。
いつもなら、そのまま安宿街のパハールガンジに直行するのが自分の定番だ。旅行者が集まりやすい場所で、便利は便利。ただ、そこで働いているインド人たちのがめつさはどうにも目立つ。交渉するたびに「拝金主義」という言葉が頭をよぎるくらい、押しが強くて疲れてしまう。最初の頃はそれも「インドだなあ」と笑っていたが、繰り返すうちに笑えなくなった。自分も歳を取ったのかもしれない。
むしろいっそ、宿を取らずにそのまま麻炭製作の現場へ向かってしまおうか、そんな考えさえ浮かぶ。今回の旅の目的は大半がその麻炭製作にある。都会に寄るとしたら、それはほんの少し羽を伸ばして、やんちゃに遊んでみたいだけ。つまり「仕事が本筋、遊びはおまけ」という構図なのだが、毎回遊びの方が体力を奪っていくのを自分は知っている。
空港から街へ移動する車窓に映るのは、クラクションの絶えない響き、人をかき分けながら進むリキシャの列、荷物を担いで歩く人の群れ。その喧騒に体ごと巻き込まれるような感覚の中で、ああ、またインドに帰ってきたのだと強く思う。そして次の瞬間、「帰ってきた」と思ったことをちょっと後悔するのも、毎度のお約束だ。
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