インド旅日記
火曜日の肉屋と猿の神様
鶏肉の酢煮込みが、時たま食べたくなる。
市場に鶏肉を買い出しに行く。
すると、村に二軒ある肉屋が、どちらも閉まっている。
時計に目をやると、火曜の4時20分。
そう、火曜日はヒンドゥー教で猿の神様ハヌマーンを奉る日。そのため、ここ北インドでは火曜休業にする肉屋がほとんどである。その事をすっかり忘れていた。
なぜ火曜日なのかは諸説ある。
サンスクリット語で火曜日は「マンガル・ヴァール(Mangal Vār)」と呼ばれ、「マンガル(火星)」の曜日を意味する。
伝説によると、ハヌマーン神は火星(マンガル)の守護神であるとも考えられている。
そのため、敬虔なヒンドゥー教信者は火曜日に精進潔斎するのである。
しかし、なぜ菜食主義に徹するのかも、これまた諸説、諸々ある。
ハヌマーンが猿の神様だから火曜日は肉食を避ける、という一択ではないらしい。
猿を食す文化はないけれど、肉食をするとハヌ様がチラつく、という訳でもないらしい。
近年、特にヒンドゥー教徒の感情を尊重するという理由で、一部の都市の自治体(市議会など)が、火曜日の肉屋の営業を禁止する命令や規則を可決している事例まである。
地域の政治家や住民からの「宗教的感情が害される」という要望や苦情に応じる形で行われている。
政教分離の原則は、そもそもこの国にはない。
右寄りに傾く世界情勢も相まって、宗教を利用した政治活動が近年、特に目に余る。
そんな訳で、肉の買い出しに失敗したので、
食材棚の隅に転がっていた豆とトマトでしのぐことにした。
鍋の中でぐつぐつと煮える赤いソースを見つめながら、ふと思う。
信仰の力で火曜日に肉屋を閉じる国と、
値引きシールのために閉店間際へ駆け込む国。
どっこいどっこいではないだろうか。
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