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インド旅日記

アルモラでの3時間

朝6時。空はまだ青くも白くもない。
湯を沸かし、豆を挽き、珈琲を淹れる。
旅に出るときのルーティンというより、儀式に近い。

熱い珈琲を水筒に移し、バックパックの脇に押し込む。
ジャインティのバス停に着いたのは7時前。
今日の行き先はチョークティア。
ウトラカンド州アルモラ地区で三番目に大きな街らしい。標高は1400メートル。
アルモラからシェアジープを乗り継ぎ、山を三つ越えて3時間半ほど。

バスは7時発のはずだったが、もちろん出ない。
切符を売る青年は新聞を読み、運転手はチャイを飲み、客たちは座席で寝ている。
やっとエンジンがかかったのは、時計が7時半を指した頃だった。

2時間揺られて、9時半を少し前にアルモラへ到着。
坂の上の街は、いつ来ても埃っぽく、人と猿が多い。
バスステーションの屋根の上では、猿が三匹、乗客の荷物を物色していた。
あの素早さで奪われたら、何を盗られても文句は言えない。

チョークティア行きのバスは12時半発。3時間ばかりの空き時間がある。
カサールデヴィに向かう途中にあるサラスワティカフェへ向かうことにした。
5年ぶりの再訪だ。

2020年の初め、コロナが世界的に広まり始めた。
インドでも初の感染者が出た頃、自分はこのアルモラ地区カサールデヴィに滞在していた。

カサールデヴィという小さな村は、アルモラから9キロほど。
シェアジープで30分もかからない山道の先、その頂上にある。
シヴァ神を祀る小さな寺があり、景色が抜群に良く、何もない村。
しかしその「何もない村」に、30〜40年前からイスラエル人の旅人たちが集まり、
宿が増え、食堂ができ、いつの間にか豆から挽いた珈琲やチョコブラウニーを出すカフェまであるようなちょっとした観光地になった。

そんな村で、自分は2021年の春先までロックダウンの1年を過ごした。
町に下りることも限られ、時折アルモラへ出るのが小さな楽しみだった。
そのたびに立ち寄っていたのが、サラスワティカフェだった。
そこで食べるチキンチーズバーガー(70ルピー/約120円)は、欧米の食物にインドの風味が加わり、
鶏肉とチーズが見事に混ざり合う。自炊では挑戦しようとも思わない逸品だ。

久しぶりに訪ねた店は、倍の広さになり、壁が白く塗られていた。
テーブルの並びも変わり、厨房の奥に新しいオーブンが見える。
けれど、チキンチーズバーガーの味は変わっていない気がした。
5年前と同じように、窓の外の山を見た。
ロックダウン中も、山の形だけは変わらなかった。
あの頃の自分と、同じ景色を見ている気がした。


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