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【短編小説】宛名のないラブレター #片思い文芸部

片思い文芸部【落とし物】に参加させて頂きます。少し長めの3000文字です。読んで頂けたら嬉しいです。


「落とし物はこのラブレター、だよね?」

 彼女の赤らんだ頬にうるんだ瞳。これが、青春か。


 青春という題名の本がもしもこの世にあるのなら、ぼくの青春は1ページたりとも、いや、1文字たりとも、いやいや、本になる前の作者の頭の中にすら1文字も浮かんでいない、そんな状態だ。

 生まれたときは未熟児で、拳ひとつ分ほどの赤ん坊だった、らしい。その影響か、中学生になった今も身長は小学生低学年並みだ。「メシをガンガン食べれば背なんてぐんぐん伸びるもんだ!」という父の教えに従い、ガンガンメシを食べた結果、身長134cm、体重65kgのぼくができあがった。

 しかもどう神様が采配を間違えたのか、ぼくの髪は半分が白髪で、父に言わせれば「ブラック・ジャックみたいでかっけえ!」髪で、それもまた中学生の残酷な好奇心を刺激するには充分な要素なのである。

 小さくて丸くて白黒のぼくは、サッカーボールのように可愛がられ、蹴られ突き飛ばされ、青春の1文字すら刻まれることなく学生生活を送っている。

 そんなぼくの目の前に(正確に言えば足元に)、ハートのシールが貼られた恋文、もといラブレターが落ちている。生まれて初めて見た愛の伝達物質。噂では聞いていた。紙に愛の言葉をしたため、想い人に届けられる古来より伝わる告白方法。ごくりとツバをのみ込んだ。

 手汗で汚さないよう、爆発物を取り扱うように角を慎重につまみ上げる。さて、どうしよう。周りを素早く見渡す。明らかに挙動不審なぼくの背後から「まじでー?」と言う女子生徒の声が突如響いた。思わずラブレターをポケットの中にねじ込み、そのままぼくは駆け出した。

 滴る汗を拭いながらベッドにカバンを放り投げると、ポケットからラブレターをつまみ出した。くしゃくしゃになったラブレターのハートのシールが、どうぞめくって中を見てくださいとばかりに、ぺろりと剥がれて揺れていた。

 良心の呵責と戦いながら、とりあえず裏返してみた。宛名はない。差出人もない。返すにしても、これじゃあ仕方がないよね?と自分に言い訳をたれ流し、ラブレターの中身を取り出した。

【Dear 愛しいあなたへ

 初めてあなたを目にしたときから、わたしの視線はあなたから引き剥がすことができなくなってしまいました。あなたの小さくて丸いフォルムが授業中でも下校中でも、家に帰ってからも、あなたのことで頭がいっぱいです。

 今まではあなたの白と黒の髪を、斜め後ろの席から見ているだけで満足でした。でも、もうそれも限界です。見ているだけでは満足できなくなってしまいました。あなたと言葉を交わしたい。あなたに触れたい。手をつなぎたい。

 あなたが好きです。あなたも同じ気持ちだったら嬉しいです。】

 ──ぼくだ。ぼくだぼくだぼくだ。これは、ぼくに宛てられたラブレターだ。ベッドの上でボールのように飛び跳ねる。ぎしぎしと悲鳴を上げるスプリングの音も耳に入らず飛び跳ね続ける。体の奥底で今まで感じたことがないような熱い塊が熱を帯びている。

 青春が、両手を振りながら軽やかにスキップでやってきた。しかし、差出人は誰だろう。斜め後ろの席と言うからには隣の桜田さんは除外できる。ぼくの後ろの列も除外だ。そもそも、最前列のぼくの斜め後ろは候補が多すぎる。

 いや、単純にぼくのすぐ斜め後ろの席ということだろうか。右斜め後ろの土橋さんは挨拶をしてくれる。左斜め後ろの加藤さんは、振り返るとよく目が合う(気がする)。待てよ、その後ろのクラス委員の斎藤さんは、ぼくがボールにされているときに注意してくれた。

 結局、候補を絞りきれなかったぼくは、古来より伝わる方法をとることにした。犯人は、現場に戻る。ぼくの張り込みが始まった。

 左手にはアンパンを、右手には牛乳を持つオーソドックススタイルで、ラブレター取得現場を張り込む。リュックの中には予備のアンパン4つと牛乳が3本入っていて、肩に圧力をかけてくる。

 牛乳が腐らないか不安に襲われていると、ざりっ、ざりっ、と足音が近づいてきた。明るい茶色の髪に長いまつ毛。話したこともない、派手めな女子だった。長いまつ毛を伏せがちに、足元や植え込みの中に忙しなく視線をさまよわせている。間違いない、ラブレターの落とし主だ。しかし、斜め後ろの席とはどういうことだろう?

 疑問にフタをして、慌ててアンパンを飲み込むと牛乳で流し込んだ。喉に居座ったアンパンが牛乳をせき止め、ぼくは盛大に噴き出した。

 両膝を付いてむせ込んでいると、ぼくの頭の上に影が落ちた。そして彼女の声が降ってきた。

「何してんの、あんた。だいじょうぶ?」

「──っあ、ぁの、げふん、ラブレター、きみ、落としたった?」

 何度も練習した「落とし物はこのラブレター、だよね?」は牛乳とともに地面に染み込み、頬を染める少女の幻影はシミとなって消えた。代わりに出た言葉は「げふん」を間に挟んだカッコよさとは正反対のセリフと、可哀想な生き物を見る少女の瞳。

「あっ──そう……中身、見た?」

「いやいや……いや、見たよ。その、ありがとう。きみとは話したことないけど、まずは友達から──」

 鼻から流れ出る牛乳を拭いながら、懸命にリカバリーをはかった。

「え?──ん?いやいやいや、いやいや、ちょっと待って、ちょっと待ってね……あ、そうか、なるほどね」

 そう言うと彼女はプハッと息を噴き出すように笑い出した。

「それね、現国の授業で出た課題。【あなたの好きなモノを擬人化して、ラブレターを書いてください】ってやつ。あんたのクラスはやってない?てか何年生だ?」

 ぼくはなかなか焦点の合わない目で、笑いすぎて顔を真っ赤にした彼女を見つめながら、今言われた意味をなんとか頭に理解させた。それはそうだ、ぼくにラブレターなんて、来るはずがなかったのだ。

「あの、1年生です」

 落胆に頭が押しつぶされるほど項垂うなだれながら、回らない頭は自動的に今分かることに返事を返していた。

「じゃあ、1コ下だね。手紙の相手はね、友達の鞄にぶら下がってるパンダのキーホルダー。可愛くってねぇ。でも、そうね、書いてあること、まんまあんたのことだもんね」

 そう言って彼女は風船が破裂したように再び笑い出した。ぼくはなんだかいたたまれなくなって、綺麗にシワを伸ばしたラブレターをクリアファイルから取り出すと、彼女に返した。

「くしゃくしゃにしちゃってごめんなさい。じゃあ──」

 踵を返し、足取り重く歩き出した。アンパンと牛乳の入ったリュックが来たときよりも重く感じた。そのリュックが更に重くなった。人1人分くらい。驚いて振り返ると、彼女がリュックに覆いかぶさっていた。

「待とうか少年。きみ、よく見ると、いやよく見なくても、パンダに似てるなー。名前は?」

 背中に感じる彼女の重みと顔の近さにドギマギしながら、再び自動的に答えた。

「た、丹沢、丹沢丹です」

「たんざわたん?……なにそれ……いや、ごめん……名前を笑うつもりはないんだけど……ツボった……」

 彼女が痙攣するように笑う振動がリュックを通して伝わってくる。この名前を付けた父親に初めて怒りの感情を覚えるとともに、綺麗な人がこんなに近くで笑ってくれているという喜びが複雑に絡まり合い、ぼくを無の境地へと導いた。

「はい。丹沢丹と言います。以後お見知り置きを。それでは、ごきげんよう」

 無表情にそう告げるとぼくは再び歩き出した。しかし、リュックを掴まれたぼくの足は、足元の土を掘るばかりで一向に前に進む気配はなかった。

「ごめんて。もう笑わない。仲良くしようよタンタン。あたしは希空。希望の空でノア。よろしくね」

 そう言って笑う彼女は、どこまでも澄き通った青空のようだった。ぼくの青春のページは、彼女の明るい笑い声と、遠慮なく引っ張られるリュックの重みで埋め尽くされていく……かもしれない。



今回、AIに採点してもらうという試みをしてみました。92点でした。高得点のような気もするけど、結構読み違えてる。そこはそういう意図じゃないんだよAIさん……という箇所がちらほら。ただ改善点なども細かく教えてくれて(それが本当に改善かどうかはともかく)、今後も採点してもらおうかなと思いました。
そのうちAIが採点する文学賞なんかも出てくるんでしょうか?

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