ぼくは、好きな女の子に鼻毛が出ていることを指摘されて明日を生きられない
「鼻毛……出てるよ?」
放課後の帰り道、いつもより少し近くを歩いてくれた彼女がそう言った。
それはまるで何気ない言葉のようで、でもぼくにとっては世界が終わる音だ。
「ごめん、先に帰るね」とぼくは駆け出し公園のベンチにうずくまった。
鼻毛ひとつで、すべてが終わるなんて。
もう、明日を生きる勇気が出ない。
そんなぼくの前に、三人の奇妙な男たちが現れた。
一の賢者:ソクラテス
「少年よ、恥とは何だ?」
目の前の男はまるで先生のような声で語りかけてきた。
「ぼくは彼女の前で鼻毛が出てたんだ。終わりだよ」
「違う。真の終わりは自分を知ろうとしないことだ。
君は今、自分に何が足りないかを知った。それは始まりだよ」
「始まり?」
「そう。“無知の知”を得たのだ。鼻毛を出す自分を知ったなら、今後の鼻毛に注意できる。すばらしい成長の機会じゃないか」
……なんだその励ましは。でも、ちょっとだけ救われる気がした。
二の賢者:ディオゲネス
「おい坊や。鼻毛で悩んでるって?そんなもん、誇れ」
ベンチの後ろから服もボロボロの男が現れた。
まるで浮浪者のようだけど、目だけが異様に光っていた。
「誇る?」
「そうさ。鼻毛とは君が自然の一部である証明だ。
進化が選んだ、鼻の守護者だ!」
「でも、好きな子の前で!」
「鼻毛も愛せぬ奴に、真の恋愛は無理だ!」
彼はそう言うとポケットからミラーを出し、自分の鼻毛を指でピンッとはじいた。
自由すぎる。
でも……笑ってしまった。
三の賢者:チャールズ・ダーウィン
「進化とは試行錯誤の積み重ねだ。
鼻毛ひとつで絶望するのは、君が進化の途中にいる証だよ」
今度は静かに白いヒゲの紳士が現れた。彼はノートに何かを書きながらぼくに言った。
「失敗しなければ、次のステージには行けない。
君は、恋という荒波に挑んだんだ。素晴らしい勇気じゃないか」
「でも、恥ずかしくてもう会えないよ」
「ならば改善しよう。鏡を見る習慣をつけよう。
そしてもう一度話しかけてみるんだ。恋も進化も、止まったら終わりだ」
三人の賢者の言葉はバカみたいだけど、どこか温かい。
鼻毛が出てたのは事実だけど、それで人生が終わるわけじゃない。
明日ぼくは彼女に会う。
そして言うんだ。
「昨日はありがとう。君が言ってくれたからぼくは、進化するよ」
あとがき
恥ずかしさって、ときどき命より重く感じる。
でもそれを笑い飛ばせる誰かがいること、それを肯定してくれる声があること。
そして何より自分自身が「それでも進もう」と思えた瞬間こそが、一番の救いなんじゃないかな。
ぼくの鼻毛は、今日も静かに風に揺れてる。
ありがとう賢者たち。
明日を迎える前に、お鼻の手入れをしていく。
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