ぼくは、救いを求めているのに、助けられる器があるのに助けようとしない人の気持ちが理解できない
石畳の上でぼくは、膝を抱えて座り込んでいる。
目の前を助けられるはずの人たちが通り過ぎていく。
誰も手を差し伸べない。
そんなとき、静かに腰を下ろしぼくに問いかける。
「なぜ、彼らが助けないのか、知りたいのか?」
ぼくはうなずく。
ドストエフスキーは遠くを見つめながら言う。
「人は自分の小さな苦しみに耐えることすら時に精一杯だ。
ましてや他人の重荷を背負う覚悟など滅多に持てはしない。
それでも、それを知った上で人を愛する覚悟を君は持てるか?」
ぼくは黙ったまま胸が熱くなるのを感じた。
広場の片隅からカミュが歩み寄ってくる。
彼は一枚の紙飛行機を折りながらぼくに話しかけた。
「世界は不条理だ。
救いを求めたからといって必ずしも救われるわけじゃない。」
ぼくは涙ぐみながら叫ぶ。
「それでも、助けられるなら助けるべきだろ!」
カミュは紙飛行機を空に飛ばした。
「正しさに理由はない。
ただ君が助けるか、助けないか、それだけだ。
それでも助けたいなら、君はこの不条理な世界で自分自身を裏切らずにいられる。」
広場の上空を紙飛行機がひらひらと舞った。
小柄な老女がぼくにそっと手を伸ばす。
その手は、あたたかかった。
「人はしばしば弱さから助けることを選ばないのです。
でも私たちは数ではなく、目の前のひとりを救うために生きるのです。」
ぼくははじめて少しだけ肩の力を抜いた。
マザー・テレサは静かに微笑んで続ける。
「あなたが救いを求めたとき、手を差し伸べる誰かは必ずいます。
でもそれは期待する形ではないかもしれません。
だから、あなた自身がまず誰かの手になりなさい。」
ぼくは立ち上がった。
救われない痛みを抱えたまま、
それでも自分の小さな手を誰かに差し伸べるために。
ふと、
小さな泣き声が耳に入った。
路地裏の隅。
汚れたシャツを着たひとりの少年が壁にもたれて泣いている。
ぼくは足を止める。
声をかけようとして、でも怖くなった。
「見ないふりをして通り過ぎたら楽なのに。」
ぼくの中の弱い声がささやく。
心臓がいたい。
助けたところで、
何かできる保証なんてない。
傷つくだけかもしれない。
それでも
マザー・テレサの言葉がよみがえる。
「数ではない。目の前の、たったひとりを。」
ぼくは、そっと膝をついた。
「……どうしたの?」
ぼくが声をかけると、少年は顔をあげた。
目は赤く腫れ、涙と鼻水でぐちゃぐちゃだった。
「だれも、助けてくれなかった。」
胸が痛んだ。
ぼく自身を見た気がした。
「ここにいるよ。
まだ何もできないかもしれないけど、
それでも、君のそばにいる。」
少年は信じられないものを見るような目でぼくを見た。
そして、
泣きながら、ぼくの手をぎゅっと握った。
上空を、紙飛行機がひらひらと舞った。
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