三賢者と「ぼくは、」―水と空気と、かたちのないはじまり
ぼくは、どうして世界が「こんなふうに」はじまったか知りたかった。
そして先生は「ビッグバンの前はわからない」と言う。
しかし、わからないで終わるのはなんだか悔しい。
夜の静けさの中、思考は波のようにうねり続ける。
すると世界が微かに軋み、空気が揺れた。
そう、彼らがぼくの前に現れたんだ。
「世界の根源は“水”である。」
にこやかな顔で川辺の石を拾いながら語る。
(川辺なんて…これは夢か…)
「水は流れ、凍り、蒸気にもなる。
種を育て、人を潤す。
神々の気まぐれで世界ができたのではない。
目に見える自然から、考えるべきなのだ」
ぼく:
「でも、水だけじゃ説明できないことも…ある気がする」
「だから私は“アペイロン”だと考えた。限りなきかたちのないもの」
静かに、だが断固とした声で言う。
「水は湿り、火は熱し、土は重い。
相克がある限り、それらの根源はもっと高次の“無限定なるもの”でなければならない」
ぼく:
「でもそれって見えないんでしょ?証明できないってことじゃないの?」
「ならば“空気”を見よ。」
風を手のひらに感じさせながら、柔らかく語る。
「空気は冷たくなれば水になり、熱されれば火になる。
この世界のすべては濃くなり薄くなることで形を変える。
それは見えぬが、感じることができる“息”のようなものだ」
ぼく:
「……“息”って、生きてることとつながってる気がするよ」
「もうひとつききたかったんだ。
どうしてあなたたちの考えが今も知られているの? 文字も残ってないのに」
三人は顔を見合わせた。
そして、タレスが言った。
「それは“耳を傾けた者”がいたからだ。」
「アリストテレスが我らを記録し、誰かが彼を読み、また誰かが彼を語った」
「哲学とは記録ではなく“問いが燃え続けること”なんだ」
夜空に火のような流れ星が走った。
アナクシマンドロス:「やがて“数”によって世界を読もうとする者が現れる」
アナクシメネス:「すべてが“変わり続けている”と訴える者も」
タレス:「そして“存在とは何か”を立ち止まり見つめる者も」
三人の顔が焚き火のゆらめきの中で遠のいていく。
「次に現れるのは数を愛し、火を信じ、道を問う者たちだ」
ぼくは、そこにある石ころを拾い、そしてつぶやいた。
「水も空気も、かたちのないものも……見えないけど考えようとすれば、
ちゃんと“そこにある”気がする。見ようとする限り、問いは続くんだ。」
そのとき、空からどこか弦の音が聴こえた気がした。
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