三賢者と「ぼくは、夜空を見上げてみた」
星は変わらず瞬いているのに、ぼくの内側では何かがぐらりと揺れている。
「アリストテレスが言ってたんだ。
地球は宇宙の中心にあって、星はそのまわりを回っているって」
そう誰かが教えてくれた。
安心できた。
ぼくという存在が、宇宙の中心にいるような気がして。
だけど最近ヘンな説を耳にしたんだ。
“本当は地球が動いている”――って。
すると、まるで星の瞬きから抜け出してきたように三人の賢者がぼくの前に現れる。
最初に話しかけてきたのは、ニコラウス・コペルニクスだ。
白衣にインクのしみがついてるのを気にせずこう語る。
「ぼくの頭の中では地球が太陽のまわりを回っていたんだ。
怖かったよ。
それを言えば、すべてがひっくり返るんだから」
その横で天文台から降りてきたような背の高い男、ガリレオ・ガリレイが望遠鏡をかついで笑う。
「しかし、月には“山”があった。
木星には“衛星”がいた。
天は完全で不変だなんて誰が決めたんだ?」
最後に、赤いマントをまとった哲学者アリストテレスが歩いてくる。
かつての「正しさ」の象徴が静かに口を開いた。
「間違えることは恥ではない。
人間が“なぜそう思ったか”を問うこと。
それが哲学という名の夜空への問いだ。」
「でもさ、アリストテレスが間違えるなんて……」
ぼくはぽつりとつぶやいた。
するとコペルニクスが夜空を指差して言う。
「間違いじゃないよ。
“あの時代には”正しかった。人はその時代の“光”の中でしか真理を見つけられないんだ」
ガリレオが続ける。
「もし君が“動かない星”のような生き方をしていたら、地球が動いているなんて思いもしないだろう?
でも僕らは揺れることで見えてくる真実を見たんだ」
アリストテレスはにこりと笑い、こう結んだ。
「もしぼくが今を生きていたら“天動説”と“地動説”の両方を問い直すだろうね。
だって、ほんとうに動いているのは“人の心”なのだから」
ぼくは、何もかもがぐらぐらしている気がしていた。
「じゃあ、なにを信じればいいの?」
「ぼくたちの“中心”はもうどこにもないの?」
夜空がやけに遠く感じた。
“中心”がなくなるってこんなにも寂しいことだったんだ。
その時、ふと気づいた。
星はまわっていない。
でも、「ぼくは、」その星を見上げている。
そして問いを持った。
「ほんとうに大切な中心って、どこにあるんだろう?」
その問いがぼくの内側に小さな太陽を灯した。
ぐらついていたのは、地球じゃない。
ぐらついていたのは、誰かの「正しさ」にしがみついていたぼく自身だった。
そう思うと星が少し近く見えた。
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