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三賢者と「ぼくは、オードリー・タンになりたくない」

ぼくは、画面の中で笑顔で語るあの人を見ていた。
デジタルで国を変え、透明性を生み、平等と多様性の象徴にもなっている人。

「…すごいなぁ」
けれど、その声にすぐもうひとつの声がかぶさった。

「…でも、なんか違うんだよ。

憧れても、なりたくない。
あそこまで“立派”すぎると、もう僕じゃない。
あの人は“完全な倫理”に近すぎる。
眩しすぎて、自分の影が濃くなる。
ぼくは、
スティーブ・ジョブズの方がいい。稼いで、拍手されて、伝説になって――
それが僕の、夢の形かもしれない」

そんなことをつぶやいたそのときだった。

iPhoneのSiriが勝手に起動し、「それは本当ですか?」と囁いた。


デバイスから現れる、三人の賢者。

「“未来をつくる最良の方法は、自ら創ること”――君はその意味を忘れていないかね?」

アラン・ケイ

「ふむ、君は僕の表面だけを見ている。そういう人間に僕はなりたくなかった。」

スティーブ・ジョブズ

「“タンにはなりたくない”とな?よかろう。ならば“誰”になるんだ?“誰”でもなくなったまま死にたくはあるまい!」

ディオゲネス

アラン・ケイ
「彼(タン)はシステムを変えた。
君は“それじゃ足りない”と言う。
だが、君が変えたいのは世界か?財布の中身か?それとも他人の視線か?」

ジョブズ
「アランは教育と構造を変えたが、僕は欲望の操作に賭けた。
だがな覚えておけ。
プロダクトには魂が宿る。
金だけで動いたモノには、誰も共鳴しない。」

ディオゲネス
「お主“倫理の英雄”がイヤで“金の王”になりたいのじゃろ?
ええじゃないか。
だが、それを恥じる勇気があるか?
“邪なぼく”を受け入れよ。そこからが始まりじゃ。


「だって、オードリー・タンって正しすぎるんだよ!」
ぼくは叫んだ。

「誰からも好かれて、賞賛されて、世界の模範になってて。
でも僕は、そんなの…無理なんだよ。
ぼくは…ズルいままで、チヤホヤされたい。
稼いで、“すごいね”って言われたい。
ほんとは“立派”じゃなくて、“うらやましい”って言われたいだけなんだ。」


ジョブズ
「その言葉は…正直だ。いいか、それがスタートラインだ。
人は皆最初は“称賛”を燃料にする。だがそれはすぐ燃え尽きる。
その先を走れるかどうかが人生を分けるんだ。」

アラン・ケイ
「“タンにはなりたくない”という言葉の中に、君の輪郭がある。
だからこそ、なにを創りたいかに戻りなさい。
“タンじゃない自分”を形にするんだ。」

ディオゲネス
「ほれ見よ。
ようやく“ぼくは、”が“ぼくこそは”になりかけとるぞ。」


ぼくはそっとノートを開いた。
「オードリー・タンにはなりたくない。
でも、“僕にしか書けない物語”はあるかもしれない。
そうつぶやいた。

未来に向かって、
誰かの正しさに従うのではなく、
自分の“邪さ”ごと抱えた問いを出発点に、ひとつのスケッチを描きはじめた。

ジョブズの背中が遠くに見えた。
けれど、そこを追う足取りがだんだん自分のものになっていった。

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