AI時代に必要なのは、論理よりも“妄想”かもしれない──『直感と論理をつなぐ思考法』を読んで
AIが当たり前のように論理的な整理や分析をしてくれるようになった今、人間に残る思考とは何なのだろうか。
そんなことを考えていると、論理だけではたどり着けないものが、むしろこれから重要になるのではないかと思うようになりました。
それは、直感や違和感、妄想のような、まだ言葉になりきっていない感覚です。
もちろん、直感だけでは現実を動かすことはできません。けれど、AIが得意とする論理や整理と、人間が持つ直感や妄想がうまくつながれば、これまでよりも広く、深いアイデアにたどり着けるのかもしれません。
そんなことを思っていたときに出会ったのが、『直感と論理をつなぐ思考法』でした。
以前、筆者の『右脳を活かすデザイン思考』を読んだことがありましたが、本書ではさらに一歩踏み込み、「自分モード」で考えること、そして妄想を起点にビジョンを形にしていくプロセスが丁寧に整理されています。
この記事では、本書を読みながら考えたことを、AI時代の思考、デザイン、そしてビジネスにおけるビジョンづくりという視点から整理してみたいと思います。
1.AI時代に、論理だけで考えることの限界
本書の「はじめに」においては、まず「他人モード」にハイジャックされた脳、ということが触れられています。
毎朝きまった時間に会社に行く
カレンダーアプリや手帳で次の予定をチェック
会議やアポイントメントに臨む
頼まれた書類を作成
経費精算の処理
SNSに投稿して、「いいね!」をチェック
そこで出てきた話題を友人を話す
・・・
ふつうに生きていると、私たちの脳はずっと「他人モード」になっていて、「自分がどう感じるか」より「どうすれば他人が満足するか」ばかりを考えていると言います。
膨大な情報に忙殺されている人、部下のマネジメント責任がある人、顧客の対応に追われる人、家事・育児・介護を抱える人・・・
大きなネットワークの中で生きる私たちの日々は「他人モード」で湿られている、といいます。何気ないソーシャルメディアの投稿をするときですら、「どうすればフォロワーたちを喜ばせ、『いいね!』を押してもらえるか」をつい考えていると。
日常の中で「自分モード」のスイッチを切ったまま日々を過ごしていると、私たちは「何がしたいのか」を思い出せなくなります。こうなってしまうと、「君はどう思う?」と意見を求められても、そもそも「自分がどう思うのか」すら、よくわからなくなると言います。
そしてそういう人からは何か新しいことを発想したり、粘りつよく考えたりする力は失われるといます。さらに何かにワクワクしたり感動したり幸せを感じたりする力も、だんだん鈍っていくと言います。
確かに私の会社にもそういう人がいるな・・・と思いました。
朝はメールなどの確認と返信
朝定例に参加
顧客定例向け資料を作り
終わると議事録をつくり
社内外からのメールに返信
トラブルがあればトラブルフォローや関連ミーティング
仕事が終われば、子どもをお風呂に入れて
休日はどこかに連れていなければ、と連れ出す。
まえからこの人には何やりたいの?と聞いても、特になかったように思えますが、完全に「他人モード」でしか生きることができなくなっているからかもしれません。
今後他人モードだとAIエージェントがその部分をやってしまうのではないか、とか思ってしまいます。
そしてこれが社員などに閉じる話ではなく、ビジネスや企業経営でも同じことが起きていると言います。安定して業績を上げている企業でも、売上・利益、株主、マーケット、競合他社など、「外部」ばかり見ているうちに、「自分たちの原点」=「そもそも何がしたかったのか」を見失ってしまいます。するとその組織からは不思議とエネルギーが失われ、それが数年後には経営状況にも響いてくるようになります。
逆に圧倒的な結果を出し続けている会社やチームの陰には、「これがやりたい!」という強い想いを持った人たちがいます。彼らを動かしているのは、根拠があるとは言えない「直感」、得体のしれない「妄想」という、「ビジョン」の素になっているものだと言います。
そして筆者は
『妄想』を駆動力にできる人・組織は、やはり強い
と言います。
シリコンバレーなどで活躍するイーロン・マスクなどのイノベーターたちにおいては、「妄想」が、「戦略」や「市場ニーズ」に先行していると言います。
彼らは「論理」や「戦略」からはじめないと言います。
彼らを突き動かすのは「直感」だけであり、自分が描く未来に対する、狂信的とも言える「妄想」であると言います。
そのような「論理」を離れたところからスタートしながら、最終的に、目の前の現実を動かすにはどうすればよいか。
これが本書の主題であり「直感と論理をつなぐ思考法」となります。
2.「他人モード」の脳から抜け出せなくなる私たち
本書では思考の領域を絵を用いながら説明していて、
①カイゼン思考
②戦略思考
③デザイン思考
④ビジョン思考
と定義しています。
①のカイゼン思考はPDCAサイクルの領域です。誰かが規定したゴールを基準に、全てが動いている世界であり、KPIを絶対善と見なしている世界です。この世界で勝者になるために必要なのは、ただ1つ、生産性を高めることとなります。
そして①の世界は、AIやロボティクスによるオートメーション、そしてVUCAという世の中の見通しがつきにくくなりつつあるということ。
②の戦略思考の世界では、より大きな売上・利益を獲得したり、時にはルールそのものを変えたりすることで、市場の支配力(パワー)を高めます。その勝敗を左右する武器が「戦略思考」であり、その本質は「自分たちが勝てる目標を設定し、資源を集中配分すること」にあります。正しい目標を設定するためには、現状を分析して、「モレやダブりがないように」課題を切り分けるのが効果的。それを端的に表した課題分析のフレームワークがMECE。
しかしこの世界におけるゲームには「終わり」がないということ。そしてこの競争状態には「持続可能性」がありません。
そして③のデザイン思考があると言います。論理から想像へ。
デザイン思考の核となっている「デザイナーが一定の制作物を生み出すときに行っている思考うロセス」とは何か。そのエッセンスは次の3つになります。
手を動かして考える–プロトタイピング
デザイン思考のモットーの1つに「Build to Think(考えるためにつくる)」というものがある。まず手を動かしてみて、そのなかで発想を刺激し、新しいものをつくりあげていく。
→ 構築主義という学習モデル。構築主義の核心は、緻密な計画に先立って、まず不完全なアウトプットを行い、それを起点に対話・内省を促していく。このような試作品のことをデザイン思考の世界では、「プロトタイプ」、そのような試作品をつくる行為を「プロトタイピング」と呼ぶ。五感を活用して統合する–両脳思考
両脳思考とは、「左脳/右脳」「論理/直感」「言語/イメージ」といった二項対立を乗り越え、両者を統合しながら新しいものをつくるという態度。スタンフォード大学で提唱された「両脳思考」でも、思考のLモード(言語脳)とRモード(イメージ脳)を自覚的に切り替えながら、発想を磨き上げていく手続きが推奨されている。
→ この際のヒントになるのが、VAKモデルという考え方。これはVisual(視覚の)、Auditory(聴覚の)、Kinesthetic(体感覚の)という単語のイニシャルからとったもので、NLP(神経言語プログラミング)心理学の世界などでしばしば言及される概念で、人は五感を通じて知覚を行っているがどの感覚を優先的に使っているかは個人によって異なり、Visual型/Auditory型/Kinesthetic型の3類型があるとされる。新しいものを生み出すためには、「なんとなく気になる」のような直感的な体感覚(Kinestheticモード)からはじめ、自分なりのアイデアを具体的なイメージとして描く視覚(Visualモード)に移り、最後にそれに呼び名をつける(Auditoryモード)という順序で考えることが自然と想定される。生活者の課題をみんなで解決する–人間中心共創
プロトタイピングからスタートするデザイン思考では、乱雑なメモや整理されていない箇条書きを見せられるよりも、第三者にも「思考内容」が可視化されるというメリットがある。プロトタイプが目の前にあれば、少なくともそこには対話の「場」が生まれる。
→ 何か具体物があることで人と人との議論が生まれるため、アイデアが進まなくなる事態を避けられる。またプロトタイプを目にしながら「言語化」を行う過程で、メンバーのVAKモードが異なっていれば、本人が見落としていた発想が容易に見つかる。SNSやクラウドツールの普及で、誰とでも協働のしやすい環境が用意されているので、プロトタイプをオンラインで素早くシェアし、それに対する瞬時のフィードバックを得ながら、再度、プロトタイプのサイクルを回していけるという意味では、デザイン思考はより”現代向き”の発想法だとも言える。
しかし、デザイン思考とは、万人が創造性を発揮するためのアプリケーションに過ぎません。しかし「みんなでつくる」以上、「自分一人てつくる」ときよりも「自分らしさ」が失われることになります。
デザイン思考を忠実に実行すると、どうしても「他人モード」に偏りがちであり、クライアントの問題解決をするデザイナーにもこれと同じことが起きると言います。
ダニエル・ピンクは「モチベーション3.0」という本の中で、個々人の「内発的動機」が重視される時代になりつつあると訴えているとあります。モバイルデバイスなどによって関心が「外」に向きがちな時代だからこそ、”いまここ”にいる「自分」へと注意を引き戻すことに、人々が価値を感じるようになっていると言います。
このニーズは個人ベースのみでなく、組織論の文脈でも生まれていると言います。現代のような不確実性が高い市場環境にあっては、「そもそも何をしたい会社なのか」といった全体感が不可欠になっているといいます。
3.カイゼン思考・戦略思考・デザイン思考・ビジョン思考の違い
それでは④のビジョン思考の位置づけとはどうなるのか。
本書では次のようなマトリックスで①〜④の思考が整理されています。
Issue-Driven かつ 0→1(創造)
③デザイン思考(創造的問題解決)
Issue-Driven かつ 1→∞(効率)
①カイゼン思考(PDCAによる効率化を目指す)
Visual-Driven かつ 0→1(創造)
④ビジョン思考(妄想を駆動力にして創造する)
Visual-Driven かつ 1→∞(効率)
②戦略思考(論理に基づき勝利を追い求める)
①カイゼン思考や③デザイン思考を突き動かしているのは、外的な問題・課題(イシュー)であると言います。
また②戦略思考では、より内的な動機が支配しています。戦略や論理思考は、競合からシェアを奪い、市場で勝利することをモチベーションしています。つまりここで思考をドライブさせているのは、「勝ちたい」「儲けたい」というシンプルな願望となります。
これに対して④ビジョン思考において、個人をつき動かしている欲求は、より雑多であると言います。その対象は必ずしも社会的・経済的な成功だけでなく、人を感動させる音楽を作り続けるアーティストも、「2035年までに人類を火星に移住させる」というイーロン・マスクも、金銭や社会的承認への渇望に留まらず、より根源的な願望を駆動力にしていると思われます。
ではこのビジョン思考の世界にはどういくのか?
そのためはこれまでの前提となる考え方・生き方にとらわれている限りは閉塞感は変わらないので、考え方・生き方をアップデートするべきであるといいます。
そして筆者は「人生における転機には3つの段階がある」とするトランジション理論によれば、
(1)まず「終わらせる段階」に進み、終わらせることで新たなものを受け入れる「余白」をつくる
(2)「ニュートラルな段階」では、日々の自分の感覚に意識を向け、むやみやたらと動かない
(3)最後には「次のステージを探す段階」が訪れるので、あれこれ探し回るなかで、そのうち自分が進むべき方向にピンとするものが現れる
というプロセスを経て、モードを切り替え、あとは活発に動いていくだけであるとしています。
このトランジション(移行)を成功裏に進めるには、ある種の「まわり道」が有効になると言います。
本書では前述した①〜④の世界について絵をつかいながら分かりやすく説明した後に、④ビジョン思考の裏にはその基本サイクルの4つが「ビジョンのアトリエ」という言葉を使って、さらに地下に広がっているとする絵を使って説明します。
4.ビジョン思考とは、妄想を現実につなげる思考法である
ビジョン思考の基本サイクル、つまり「直感」を駆動力にした思考は、以下のようなサイクルを描くと言います。
妄想する(Drive)
自分の妄想を形にする知覚する(Input)
ビジョンの解像度を上げる組替する(Jump)
自分なりの切り口を与える表現する(Output)
自分らしい表現に落とす
→ また1.妄想するへ
しかし「自分モード」で考えられない以下の理由が、それぞれ上記のサイクルの1〜4に影響を及ぼしていると言います。
内発的動機が足りない → 妄想(Drive)
「やらなければならないから、やっていること」で占められる。インプットの幅が狭い → 知覚(Input)
「知りたい情報」だけが流れ込んでくる状態独自性が足りない → 組替(Jump)
「いいね!」のような他人の称賛を得やすいものばかりに偏り、似たようなポストばかりが世の中に溢れ出すアウトプットが足りない → 表現(Output)
学んだことを外部化する機会がないため、いつまで経っても「その人なりの視点」が生まれてこない。
問題解決は、ビジネスの基本ではあるものの、それだけでは足りないものがあると言います。それは、組織レベルではいわゆるイノベーションの枯渇として、個人レベルでは言い知れぬモヤモヤ・停滞感として発現します。
他方で、自分らしくいきいきと活動している人、ビジョナリーと呼ばれる人・企業は、意識的にかどうかは別として、必ずこうした「ビジョンのアトリエ」にアクセスし、「自分モード」のスイッチを入れ直している、と言います。
上記の思考モードを「習慣」として成り立たせるには、次のものが必要となります。
①ビジョン思考の「スペース」
②ビジョン思考の「メソッド」
まず「スペース」。ビジョン思考を習慣化するうえで何よりも大切なのは、そのために「スペース」を人為的につくることであると言います。このスペースとはノートのような「空間的余白」だけでなく、それを埋めるための「時間的余白」をも意味しています。
この「スペース」をつくるには「余裕ができたら、やってみよう」ではなく、まず先回りして余白をつくります。本書でも例で挙げられていたのですが、
「いますぐ無地のノートを買うこと(空間的余白)」
「いますぐノートを書く予定を入れること(時間的余白)」
という2つのアドバイスをしたということが書かれています。組織レベルでマインドフルネスと呼ばれる瞑想を採用する企業は、枚挙にいとまがないというのはここに理由があるようです。
私たちの仕事時間は「やるべきこと」で溢れていくからこそ、「何もしない状態=空白」をつくる方法にはそれだけの価値があると言います。
そして誰でも実践できる「メソッド」に落とし込まれていることといい、先に示した妄想からスタートしたビジョン思考が、サイクルになる必要があると言います。
レイ・カーツワイルの「シンギュラリティ(技術的特異点)」はAIが人間の脳を超えることになる、ある特定の時点のことを意味しています。人間の脳はアナログ回路であり、デジタル型であるコンピュータ回路と比べると圧倒的にスピードは遅いと言います。その一方、人間の脳には、あちこちの場所が同時発火する「超並列型処理」という顕著な特徴があるといい、最大100兆回の計算を一瞬で行うというこのメカニズムのおかげで、人間の脳内では「予期せぬつながり」が生まれ、「ひらめき」を生み出すと言います。
脳神経外科のワイルダー・ペンフィールドは、脳と身体との対応関係を調べ、一種の「地図」をつくりあげました。それを元にして、脳内の対応領域が多い器官を、より大きく表現したのが「ホムンクルス」という人形です。

https://en.wikipedia.org/wiki/File:Front_of_Sensory_Homunculus.gif
人間の神経細胞のほとんどは目・手・口に関わる部分に集中をしています。」「機械にはできない思考」「最も人間らしい考え方」があるのだとすれば、そのキモは「脳のできるだけ幅広い領域を同時発火させること」だろうと主され、VAKの要素(目・口・手)をバランスよく取り入れることは必要になってくると思われる。
5.ビジョン思考の4つのサイクル①|妄想
本書に書かれている具体的なメソッドを簡易に紹介します。
なお以下にある妄想クエスチョンは「質問」を自分に対して設定するということですが、この「質問」を自ら設定できないと、結局はこれまでの踏襲でしか思考ができないのでないか?やりたいことがでてこないから、ずっと同じことをやり続ける、ということがあるのではないか?
普段話している仕事のメンバーの思考などを見ていても思うことがありますので、妄想クエスチョンってとても自分モードにするには、必要なのではないか、と思います。
「10%成長」よりも「10倍成長」を考える(ムーンショット)
ムーンショット型アプローチの本当の目標は、定めた目標に行きつく過程で、様々な技術が生まれ、その技術が世の中に還元され、そして世の中が変わること。これがムーンショット型のアプローチにある、もう一つの大きな効果。ビジョン・ドリブン化する組織マネジメント
経営者はごくゆるやかな不変のミッションだけを提示しておき、あとはそこに集まった個人やパートナー企業が思い思いにそれぞれのビジョン(妄想)をミッションの価値を守る範囲で実現していく、いわゆる「ティール組織」が望ましい。「紙×手書き」を基本とする
「新品のノートを買う」という行為は、今すぐ誰にでもできるという意味で、最も簡単な「余白デザイン」。できるだけ「他人モードの思考」がまったく書き込まれていない、まっさらな状態のものが望ましい。紙のノートのメリットは「手書き」ができること。余白デザインの第一の原則は「ペーパー・ファースト」。「感情アウトプット」を練習する–––モーニング・ジャーナリング
新品のノートを買ったらまず試してほしいのが、ジャーナリングという方法であり、以下がポイント。
・毎日決まった時間に書く
・人に見せないことが大前提
・毎日決まったページ数を書くようにする(例:毎日2ページ書く)
・お気に入りのペンで手書きする。
・最低でも1か月続ける。
ジャーナリングの記述内容は、「過去に起きたこと」よりは「その時に感じていること」が望ましい。客観的な事実ではなく、あくまでも主観的な感覚・感情にフォーカス。一番とっつきやすいのは、「感情ジャーナリング」で、自分がいやだと思ったこと、うれしかったこと、どうにもきになっていることなどを、ありのままに書いていく。「何もしない時間」をスケジュール予約
「他人モード」に先回りして、その侵入を受け入れない時間帯、「自分モード」のスケジュールを予約して、予定をブロックしてしまうことが必要。余白の押さえ方のポイントは以下。
・時間単位の余白→朝8時・昼11時・昼15時・夜10時半に毎日アラームがなるように設定。そのたびに1分間だけ自分の呼吸に注意を向けるマインドフルネス瞑想を行う。
・日単位の余白→毎日の決められた時間「自分だけのための予定」を入れる。夜の予定はコントロールしづらい部分もあるので、「朝」か「昼」がおすめ。
・週単位の余白→1週間のなかの決まったタイミングに、2〜3時間をまとめてブロックする。毎日のノートを見返したり、テーマを決めて自分を振り返ったりと、余裕をもって自分自身と向き合う時間を確保しておく。
・中長期単位の余白→年に4回(3か月おき)ほど、「自分モード」デーをつくる。たとえば3月末・6月末・9月末・12月末の1日をまるごとブロックし、他の予定は入らないようにしておく。質問もまた「余白」である–––妄想クエスチョン
質問文というのは、それに対する回答を期待した「余白」である。「質問」があって初めて「回答欄」が生まれる。質問を自分に対して設定するということは、答えのための余白をつくることに等しい。妄想を触発する妄想クエスチョンとしては、次のようなものがある。
・「子どもの時代の夢はなんでした?」
・「青春時代、何/誰に憧れていましたか?」
・「もし3年間自由な時間ができたら、何をしたいですか?」
・「もし100億円の投資を得られるとしたら何をしたいですか?」
→ この妄想クエスチョンでも大切なことは「手で考える」こと。1枚の紙を用意し、上に大きく横書きで「子ども時代の夢はなんでしたか?」と書いてみる。そして左端に箇条書きの冒頭希望「・」(ビュレット)を3つかいてみる、もしくは「1」「2」「3」と数字をふる。これによって単なる白紙が、妄想を書き出すためのキャンバスとしての意味を獲得する。なかでも「子ども時代」を振り返る質問は、自分の根本的な関心事などを探索する際の常套手段だと言っていい。
→ 前述の感情ジャーナリングになれてきたら、別のバージョンも試す。
・欲望ジャーナリング
「○○してみたい」「○○になりたい」など自分の欲望に目を向けて、それを言葉として吐き出す。
・妄想ジャーナリング
「もし1ヵ月に1000億円使えるとしたら・・・」などの架空の設定を入れて、そこから妄想をふくらませる。思考の「錨」を下ろす––偏愛コラージュ
創造的な発想にあたっては「K→V→A」の順が望ましい。
→ 「好きだったもの」を抽象的に思考したり、文字に」したりするだけでなく、具体的な画像をプリントアウトして机の上にパッと並べる。これにより、体感覚(Kinesthetic)と視覚(Visual)の刺激が得られるようになる。素材はスマホのカメラロールの中にある写真データでも、ネットで画像検索したものでもよい。
→ 「好きなもの」の写真の素材のなかからピンとくるものを6〜10枚ほど集めて、机の上に並べ直してみる。次にそれを貼り合わせてコラージュを作っていく。偏愛コラージュのポイントは、忘れかけていたものも含め、いまの自分を形作っている「好き・関心」を一覧化していることにある。「考える→手が動く」を"逆転”する––ひみつ道具プロトタイプ
体感覚(Kinesthetic)を重視したエクササイズとしては、レゴブロックを使った方法がよく知られている。やり方は、ある「お題」に対して、限られた時間・限られたピース数で何か作品をつくる。ポイントは「考えずにとにかく手を動かす」ということ。
<お題の例>
・なりたい私(制限時間5分・10ピース)
・あなただけの「ひみつ道具」(制限時間10分・20ピース程度)
→ 制限時間がおわったら、その作品の「タイトル」を正方形のポストイットに書く。あまり悩まず、1分くらいでパッと言葉にする。創造の「テンション」を引き出す––魔法の問いかけ
理想と現実との間に横たわる「ギャップ」の認知があって初めて、現実を変えようとするエネルギーが生まれる。そのために必要なのが「問いかけ」という方法になる。これは一種の余白デザインであり、問いかけの形式になっていることで、自ずと私たちの思考にはそれに答えようとする強制力が働き、その余白を埋めるべく、具体的なアクションが起こりやすくなる。
<問いかけの例>
「課題=現状のユーザーに新たなトライアルをしてもらう」
ではなく「どうすれば、現状のユーザーに新たなトライアルをしてもらえるだろうか?」という疑問文のかたち。
→ 何か具体的な問題を起点にして、その解決を目指すイシュー・ドリブンな取り組みにおいては、「どうすれば…できるか?」(HOW-MIGHT-WE型)という問いかけを立てることによって、「マイナスをゼロに引き上げようとするドライブ」が生まれる。
→ 妄想を起点にした考え方の場合、問いかけは「もしも…ならどうなるか?」(WHAT-IF型)という形をとり、「ゼロからプラスに引き上げる駆動力」となる。
→ 「その妄想を実現するには何が必要か?」ではなく、「妄想が実現したら何が起こるか?」とさらなる未来に目を向けてみる。妄想(ビジョン)はその実現可能性をかんがえた途端に、エネルギーを失っていく。
<WHAT-IF型の例>
・もしも誰もが週3日だけ働く時代が来たら、どうなるか?
・もしも平均寿命が1000際になったら、どうなるか?
・もしも空飛ぶクルマが発売されたら、どうなるか?
・もしもお金が存在しない世界になったら、どうなるか?
・もしも1日100冊ずつ読書ができるなら、どうなるか?
→ 妄想クエスチョンのときのようにA4用紙の上に大きく「問いかけ」を書き、下の空白を左右2つに区切る。「どうなるか?」の答えのうち、左にはポジティブなこと、右にはネガティブなことを箇条書きしたら、右欄のマイナス面が、本当に純粋によくないことだけなのかを振り返る
6.ビジョン思考の基本サイクル②|知覚
まず私たちは、「シンプルさ」「わかりやすいさ」を突き詰めるほど、視野が狭まるようになっていると、筆者は言います。
「個人向けにカスタマイズされた情報」に触れれば触れるほど、個人の頭のなかは「ほかの個人」と同一化していき、人と同じことしか考えられなくなります。それをビジネスの文脈に置き換えるとレッドオーシャンの競争に、そして個人レベルでは言い知れぬ停滞感に行き着きます。
そこで注目したいのが「知覚」。知覚(Perception)とは、単に「熱い」とか「冷たい」といった感覚(Sensation)とは異なり、安宅和人氏の言葉を引用して、以下であると述べられています。
「『知覚』とは非常に簡単に言えば対象の意味を理解することである。もう少していねいに言えば、自分の周りの環境を理解するために知覚情報を統合し、解釈することだ。したがって、たとえばカメラはあくまで記録装置であり知覚しているわけではない。(…中略…)人間は価値(意味)を理解していることしか知覚できない。知覚できる範囲はその人の理解力そのものだ」
状況の判断の優劣は情報から独自の意味を作り出す「知覚力」が左右すると言います。この意味では、情報のタコツボ化とは、知覚力が失われている状況であると言います。
テクノロジーが与えてくれる「シンプルでわかりやすい世界」のタコツボを避け、「自分視点で考えること」に関心を持つためには、知覚力は決定的に重要な意味を持っています。
「『単純化しないと理解できない』なんて誰が決めたの?複雑なものを複雑なまま吸収し、自分の理解をつくっていく–––そんなことは赤ちゃんだってやっているのに」
というネットワーク理論を研究する複雑系科学者の佐山弘樹氏の言葉が引用されていますが、周りで起こっている出来事をそのまま感じ取り、それに対して意味づけるというセンス・メイキングのプロセスは、誰もが新生児のときにやっていることと言います。
では本来備わっているその力を取り戻し、鍛えていくのには、どうしたらよいのか。知覚力は大きく以下の3つのプロセスから成り立っていると言います。また本書ではエクササイズが紹介されているので、簡単にタイトルだけ紹介します。
感知–––ありのままに観る
じーっと漢字を眺めていると、それが見知らぬ図形のように見えてくることがある。これは脳のモードの切り替わりとして理解できる。ありのままに観るためのトレーニングによって、デッサン力を引き上げることができる。
・「ペットボトルスケッチ」でモードの切り替わりを体感
・言語脳を遮断する「逆さまスケッチ」
・1日をイメージ脳で過ごす「カラーハント」解釈–––インプットを自分なりのフレームにまとめる
自分の頭のなかをありのままにアウトプットして考える。この段階では「言葉」を使わずに「絵で考えて、絵に描き出す」のが有効。
・妄想を1枚の絵にする「ビジョン・スケッチ」
・「1単語・1イラスト」の視覚化トレーニング意味づけ–––まとめあげた考えに意味を与える
個人のイメージでとらえている世界を、他人と共有するには、「言語化」が欠かせない。このとき参考になるのが、「画像」と「言葉」とを往復する思考法。
・モード切り替え力を高める「クラウドハント」
・知覚力を磨く「ムードボード」
7.ビジョン思考の基本サイクル③|組替
「自分モード」で思考するには、主観的な妄想をそのままアウトプットし、その解像度を上げていくという手順がこれまで。これを実践に移そうとすると、はたしてすばらしいアイデアなのかということにぶち当たります。
筆者は、アイデアは
「出してからどう磨き上げるかが勝負。そして、それには方法論が存在する」
ということを学んだと言います。ファーストステップでいきなり質の高いアイデアを出すセンスよりも、一定のプロセスを経てアイデアを丁寧に磨き上げていくことが大事になります。
そもそも「デザイン(design)」という言葉は、ラテン語のdesignare(デーシグナーレ)を語源としており、これは「分離すること、はっきりさせること」を意味するセット語(de-)と「印・記号」(signum)から成り立っていいます。
つまり行為としてのデザインには、対象を構成要素に分解した上で、再び組み立て直すというニュアンスがあり、デザインとは組替そのものと言ってもいいものです。
その組替とは「分解」と「再構築」から成り立ちます。
自分の内側から塊のまま出てきた妄想を、できる限り細かく「分解」し、全体がどんなパーツから成り立っているかを把握します。
そして組替には必ず「再構築」のステップがあります。そしてこの分解されたパーツをもともとあった姿とは別のかたちに組み直す工夫が必要になります。
この二つのステップを踏むことによって、個人レベルの着想(=妄想)には客観性が付与され、より「アイデアらしく」することができます。
既存のアイデアに隠れている「あたりまえ」をしっかり洗い出して、パーツ分けする。「あたりまえを覆す」ための3ステップの分解メソッドを筆者は取っていると言います。
①「あたりまえ」を洗い出す
②「あたりまえ」の違和感を探る
③「あたりまえ」の逆を考えてみる
7-1.分解のステップ①|「あたりまえ」を洗い出す
世の中であたりまえとされる「常識」を思いつくかぎり羅列していく。伝統的なルールや慣習のようなものでもいいし、近年出てきた「流行」などでもいい。これは多ければ多いほどいいので、ウェブのキーワード検索を使ったり、可能であれば複数人でブレストをしたりして、ラフに発想していくのがいい。
この時に箇条書き形式のメモではなく、組替を前提としたものに書くことがポイントとなります。
本書で紹介されているのが「可動式メモ」で、組替を行うためのキャンバス(B4サイズのノートでもOK)を用意し、キャンバスに直接メモを書き込まず、メモは別途用意した正方形のポストイットなどに書くようにし、ポストイット1枚につき1つの情報を意識します。
このように最初から「動かせる」かたちでメモをまとめるようにすると、つねに発想の「組替」モードをオンにすることができると言います。
7-2.分解のステップ②|「あたりまえ」の違和感を探る
テーマに関して「常識」を書き出したら、次に来るのは「違和感のある常識」をピックアップするステップになります。
ここで重要なのは、やや無理をしてでも、「ここっておかしいんじゃないか?」「いったい、どうしてこうなんだ?」と引っかかりを探ることであると言います。
少し「意地悪」な人格を自分の中につくりあげて、「常識」に隠れている「ツッコミどころ」を探すことを意識します。日常ではスルーしてしまう「あたりまえ」の前で立ち止まり、「本当にそうかな?」「そもそもこれって・・・」と考えてみます。それが見つかったら、「自分はどういうところに違和感を抱いたのか?」「何がそんなに引っかかっているのか?」「どうすると違和感がなくなりそうか?」についても振り返ってみます。
「違和感」のアンテナの感度は、日頃の習慣のなかで磨いていくのがいちばんであると言います。ただ違和感というのは、その場限りのものであり、時間が経つとすぐに忘れてしまうことが多いものです。「これって変だな」と感じるたびにジャーナリング・ノートを取り出すのは大変なので、すぐにスマホで写真に収めることを習慣化してみます。違和感は身体からくるので、体感覚(Kinesthetic)を鍛えるエクササイズにもなります。
7-3.分解のステップ③|「あたりまえ」を裏返す
最後にやるべきは「あまのじゃく」スイッチを入れることとなります。書き出したすべての「常識」について、機械的に「その常識の”裏”は何か?」を考えてみます。
特に違和感があった常識については、ステップ②での考察も参考にするとよく、アイデアの良し悪しはあまり考えずに、とにかく機械的に出すことを心がけることがポイントとなります。
■あまのじゃくキャンバス
ここまでの3つのステップについての具体的な実践法が、本書ではまとめられています。
まずキャンバスを用意し、その中央に「分解したいテーマ」を置きます。これはポストイットに文字で書くか、できれば視覚的なイメージになっているとアイデアの触発力がより高くなると言います。
1)まず、分解テーマの周囲に、そのテーマに付属している「あたりまえ」を張り出して行きます。ここではあまり深く考えずに、連想して出てきたキーワードをどんどん書いていきます。
2)次にそれらをもう一度見直してみながら、「違和感」を探していきます。その際に内容的に関連しそうなポストイット同士は近くに貼り直したり、明らかに重複しているもの・的を外しているものを間引いたりします。違和感があったものには、ポストイットの右上に「☆印」などをつけておきます。
3)最後に、徹底的に「あまのじゃく」になって、「あたりまえの逆」を一番外側に貼っていきます。「常識」はイエロー、「非常識」はピンクなど、ポストイットの色を変えると、視覚的にも違いが際立つのでよいとのこと。「常識」と「非常識」は、それぞれ対応関係がわかりやすいように線でつないでおきます。
7-4.再構築のステップ①|アナロジー思考
「あまのじゃくキャンバス」を作ったら、一番外側にある「非常識」にざっと目を通してみる。ここで分解した構成要素にさらに「幅」を持たせておくと、より独創性の高い組替が可能になります。
その時に有効なのが「アナロジー」です。アナロジーとは一般に「類推」と訳され、未知の事柄A(ターゲット)と既知の事柄B(ソース)があったとき、両者の間の類似性Cをもとに「Aもこういう性質を持っているだろう」という推論を働かせることです。
要するに「なんとなく似ている!」という感覚のことです。
そしてアナロジーを誰かにわかりやすく伝える表現方法、いわゆるレトリックに落とし込んだのが「メタファー(比喩)」となります。
(例)「あの恋愛はドラマのようだった」というとき、「あの恋愛」と「ドラマ」とのあいだには、たとえば「感情を揺さぶるような思いがけない展開がある」という共通点。
安宅和人氏は「優秀なマーケッターは目に見えないつながりを見つける力を持っている」と語っていると言い、これはアナロジーによって身につく力とも言えます。
たとえば筆者の事例では「山本山」のリブランディングを手掛けたとき、「日本茶」への回帰がテーマで「どうすれば日本茶を、急須を持たない平成世代に飲んでもらえるか?」という戦略を考えた際、参照したのが「ワイン」とのアナロジーであったと言います。
アナロジーは、いままでにない視点が必要とされる未来創造の現場では、非常にパワフルな武器になります。
7-5.再構築のステップ②|アナロジー的な認知を促す
アナロジー展開による思考の発散を邪魔しているのは次の3点であると言います。
ターゲットの構成要素がつかめていない
ターゲットとなる発想・問題の構成要素が明確になっていないことがおおい。「うちの職場は動物園」というメタファーを思いつくいは、まず「うちの職場」に関して「キャラクターが多様でバラバラ」「マネジャーが苦労している」「みんなが要求ばかりをしてうるさい」といった要素分解が先行していなければならない。ソースの引き出しが少ない
ターゲットの構成要素が明らかになっていても、それを結びつけるための既知の事柄(ソース)が少なすぎると、類似点の発見が起こり得ない。端的に言えば、ある程度の知識・経験が「引き出し」として欠かせない。ソース不足を補いたい場合は、異分野の人との会話、様々な芸術作品・エンターテイメントなどに触れたりするのも一つ。小説を通じたフィクション体験と現実の体験とを脳は区別しておらず、物語を追体験することで脳のアナロジーの力は高まっていくとする研究もある。相違点ばかりにフォーカスしてしまう
違いをみつけたくなるのは、とくに脳がLモード(言語脳)になっているとき。Rモード(イメージ脳)のスイッチを入れるときには、ターゲットやその構成要素をビジュアル化し、大づかみに把握する。
■アナロジー式「アイデア・スイッチ」
アナロジーをつかってアイデアの組替を行うには、
まず「あまのじゃくキャンバス」で分解したいくつかの構成要素に着目し、「似ているもの」を探してみる。
たとえば「公共空間でもつけっぱなしでいられるイヤホン」というアイデアがある場合、その構成要素である「公共空間で身につけるもの」「頭につけるもの」などを手掛かりにして似ているものを探していく。その結果「帽子」とか「カチューシャ」がといったメタファーが見つかったとする。
今度はターゲットに立ち戻って「カチューシャのようなイヤホンがあったら?」とか「帽子みたいなイヤホンって?」というように、見つかったメタファーのソースを起点にしたアナロジーを考えていく。すると、ここからさらに発想の「幅」や「奥行き」を広げていける。
これこそが「組替」であり、単なる「主観的な妄想」だったものを、「オリジナリティのあるビジョン」へと生まれ変わらせるには、このプロセスが欠かせません。アナロジーを元に発想をまとめ直して行くときは、再び視覚的なかたちに「再構築」を行います。
その際のフォーマットが「アナロジー・スケッチ」であり、当初の「ビジョン」とそれに「掛け算」を行うメタファーを書き込んだら、それをびじゅあるかさせていくものです。
7-6.再構築のステップ③|「制限」がある方がまとまる
フォーマットを決め、一定の制限の中でまとめてしまう、というコツが書かれています。
一気にアイデアをまとめ上げる「セルフ無茶ぶり」の諸技法が紹介されています。
時間に制限を入れる
「10分以内でアナロジー・スケッチを描いてみよう」とか「3分以内でにキャッチフレーズを考えてみよう」などと、再構築のために時間を自分で決めてしまう。再構築のフォーマットやメディア形を決める。
・広告ポスターをつくる
・ギャラリーを借り、アート作品を展示する
・イラストだけで表現する
・手元にある雑誌の切り抜きでコラージュをつくる言葉に落とし込む
・ネーミングを考える
・プレスリリースをつくる
・オリジナルの四字熟語に落とし込む
・1枚のスライドでコンセプトをまとめる
・1行のキャッチコピーをつくる
・五・七・五で魅力を伝える
8.ビジョン思考の基本サイクル④|表現
「表現」はビジョン思考の「最終プロセス」として位置づけているが、」これは「終点」でありながら同時に「始点」でもあります。
本書では、パーソナル・コンピューターの父、アラン・ケイが「Dynabook」を構想した際のスケッチが引用されています。これが書かれたのが1960年代であるといい、タブレット端末という「妄想」は、かなり以前から構想されていたことになります。

https://wisdom.nec.com/ja/innovation/2019062401/index.html

https://staff.persol-xtech.co.jp/corporate/security/article.html?id=71
「手を動かして具体化しながら考える」という構築主義の思考法では、発想のスタート時点において、箇条書きメモのような文章ではなく、まず具体物(ビジョン)をアウトプットします。このように、試作品(プロトタイプ)によってアイデアをブラッシュアップしながら、同時に実現化に向けて歩き出す手法をプロトタイピングと呼びます。
そしてプロトタイピングにおいては、まず具体的な試作品をつくる「表現」のプロセスが最初に来て、その成果物を前にしながら議論を行い、再度、より完成度の高いプロトタイプを生み出して行きます。具体化→フィードバック→具体化という繰り返しにおいて、この反復を「イタレーション」と呼びます。
では「表現(プロトタイピング)」を行う際には、どんなことにきをつければいいのか。ここで気をつけるべきは、
①表現の「動機づけ」をする
②表現を「シンプル」にする
③表現に「共感の仕掛け」をつくる
という3つがあると言います。
8-1.表現の余白づくり①|表現の「動機づけ」をする
まず必要なのは、「習慣」や「動機づけ」をつくることになります。まずは「手」よりも先に「頭」を動かしてしまう思考のクセが染み付いている中で、自分の手を動かしたり、他人に表現してみせたりすることを避けようとする「感情」をどうするか。
「とりあえずPC」の惰性を断ち切る
「アウトプットせざるを得ない状況をつくる」
ビジョンアートの作品展示会
8-2.表現の余白づくり②|表現を「シンプル」をする
最初のプロトタイプは「誰」に見せるかが重要であり、初期段階では、アドバイスが的確かどうか以前に、アイデアをしっかりと理解してもらい、ポジティブな反応をもらうことが欠かせないと言います。
フィードバックのファーストステップでは、そうした自信をしっかりと醸成する必要があると言います。
「いいアイデアを思いついたら、まずはほめてくれる人、新しいもの好きな人、ノリのいい人に話せ」
というのがポイントのようです。
そしてアイデアをどう理解してもらうか。それは以下の2つのポイントが書かれています。
一瞬で伝わる「絵」を用意する。
「言葉」や「文章」に頼ることは最も避けるべき。パット見て理解できる「ビジュアル」に落とし込んでおくべき。相手の知識との「接点」をつくる
この実現には「メタファー(比喩)」が有効。聞き手に合わせて、「接点(メタファー)」をカスタマイズするというやり方。
■ビジュアルメモ
ビジュアルに落とし込む力をより高めたい人は、日頃から「ビジュアル要素」を入れながらメモを取る。イラスト付きでノートを取るようになることで、授業理解度が一気に高まったと筆者は言います。
なお視覚化しながら情報をインプットする習慣は、「理解」や「記憶」に対して正の影響を与えるだけではなく、ビジュアルメモの習慣は、アウトプットの質にもプラスに作用するようです。
あまりに構造化された情報も混沌としすぎた情報も、創造性を高める効果は弱くなる。むしろポンチ絵(フリーハンドの落書き)やダイヤグラム(いわゆる「図解」)のような中間的なフォーマットの方が、人間の創造性を育むうえでは役に立つのだと言います。
■ビジョン・ポスター
妄想(ビジョン)を磨き上げるための以下のプロセス
・妄想を視覚化する「ビジョン・スケッチ」
↓
・要素分解を行う「あまのじゃくキャンバス」
↓
・メタファーを組み込んだ「アイデア・スケッチ」
によって解像度を高めてきたアイデアを1枚のポスターにまとめる。盛り込む要素としては、次の3つ。
□ネーミング
ビジョンが持っている「本質」を端的に表す名前
□コピー
そのビジョンの「魅力」が伝わってくる短いフレーズ
□キービジュアル
ビジョンの「メタファー」を含んだ視覚要素
その上で、実際にこのプロトタイプを人に見せるときには、「これは要するに、○○のような✕✕です」というように、メタファーを含んだ説明から入るとよい。
8-3.表現の余白づくり③|「共感の仕掛け」をつくる
最後に忘れてはならないこと、それはプロトタイピングの「最終目標」は何かということであると言います。
プロトタイピングは一種の「思考法」「発想法」であるから、この問いは「そもそも何のために考える/発想するのか?」と言い換えてもいい。
筆者はこの問いには「人を動かすため」だと答えることにしていると言います。
プロトタイプを見せられた側が、思わず身を乗り出して、「私にも手伝わせてくれませんか?」と言い出すレベルを目指した方がいい、と言います。
「どうなるか?」の筋書きを見せる。
メタファーによる「理解」を超えて、さらに「人を動かす」ことを目指すときには、ストーリー(物語)が強い味方になってくれる。
■人の心を動かす「英雄の旅」フレーム(神話学者のジョセフ・キャンベル)
「英雄の旅」フレームを埋めていくときは、まず次の7つの問いに答えながら、「ストーリーボード」を埋めていく。
1.現実
主人公は現状でどのような課題に直面しているのか
2.冒険への誘い
主人公はどのようなきっかけで新たな世界の存在を知るのか
3.迷いのメンターの支援
主人公は旅立ちを前にどのように感じ、メンターが持つどのような力によって、その世界へ入ることを後押しされるか?
4.一線を越える
主人公は、どのような覚悟と期待を持って(商品やサービスの世界に飛び込むという)旅立ちを決めるか?何が覚悟を決めるきっかけとなるのか?
5.試練
新たな世界の中でどのような(複数の)試練と直面するか?メンターはどのように主人公を支援するのか?
6.克服と報酬
主人公はどのようにして試練を克服し、それによってどのような宝物を得るか?
7.宝を得て帰還
宝物を得た主人公は、元の世界に住む仲間を見て、何を思うだろうか?彼らにどんな声をかけるか?
この段階でストーリーに面白みが足りないと感じたら、次の点に注意して「味付け」を変える。
□アップダウンのコントラストを激しくする
□主人公の葛藤を描く
□試練や苦労をできるだけ詳細に描く
□物語を通じて主人公が本当に得るものを描く
最後に、それぞれのステップを端的に現すビジュアル要素を用意する。手書きイラストでも良いし、よりビジュアルにこだわるならば、TEDのような写真を中心としたスライドをパワーポイントなどで作成しても良い。
9.本書を読んで考えたこと──AI時代にこそ「自分モード」が必要になる
本書を読んで強く感じたのは、ビジョン思考とは、単に自由に妄想するための方法ではないということです。
むしろ、自分の中にある違和感や直感を出発点にしながら、それを知覚し、分解し、組替え、表現することで、他者にも共有できるかたちにしていく思考法なのだと思いました。
特に印象に残ったのは、デザインを「分解と組替」として捉える視点です。
アイデアは、突然どこかから降ってくるものではありません。
まず、自分が感じた違和感や妄想を取り出す。
次に、それを構成要素に分解する。
そして、別の文脈やメタファーと組み合わせながら、新しい意味として再構築していく。
このプロセスは、まさにデザインそのものだと感じました。
AIが論理的な整理や分析を支援してくれる時代になるほど、人間に求められるのは、正しく整理する力だけではなく、「そもそも何に違和感を持つのか」「どんな未来を見たいのか」「何を実現したいのか」という、自分の内側から立ち上がる問いなのだと思います。
他人の期待に応え続けるだけでは、思考はだんだん「他人モード」になっていきます。
顧客、上司、社会、マーケット、KPI。
それらに応えることは大切ですが、それだけでは新しいビジョンは生まれにくい。
だからこそ、あえて余白をつくり、自分の感覚に戻り、妄想を言葉や絵にしてみることが必要なのだと思います。
本書は、直感や妄想という曖昧なものを、現実に近づけるためのプロセスとして整理してくれる一冊でした。
AI時代において、論理的に考える力はますます補完されていきます。
だからこそ、人間にしか持てない違和感、偏愛、妄想、そしてそれを形にしようとする意志が、これからますます重要になるのではないでしょうか。
他人モードで日々を過ごしている人ほど、一度立ち止まり、自分の中にある「妄想」に耳を澄ませてみる。
そのきっかけとして、本書はとてもよい一冊だと感じました。
