「小説っておもしろいや!」って最初に思ったの東野圭吾だった
また一つ青春のかけらを作ってくれた人がいなくなった。
私に初めて「小説っておもしろいや!」と思わせてくれた人。
読書はあまりしてこなかった学生時代。「ぼくらの七日間戦争」シリーズと流行っていたシドニィシェルダン「ゲームの達人」と吉本ばななの「キッチン」を高校生の時に読んだっけか。夏休みの宿題で夏目漱石の「こころ」の読書感想文を書け、というのがあってそれも読んだ。当時は失恋くらいでなんでKは自殺したんだ? くらいの感想。弱い男だぜ。と中学生の私はKを馬鹿にしていた。流行っていたと言えば村上春樹の「ノルウェイの森」は最初の飛行機のシーンでうずくまる意味がわからなくて挫折した。あれも失恋だっけか。その頃の私は失恋の痛みをわかっていなかった。中二病が重傷すぎて「恋? なんだそれ? 食えんのか?」って思っているのがかっこいいと思っていたのだ。大人になってから改めて「ノルウェイの森」を読んだ時も結局挫折した。主人公セックスばかりしてる癖にさみしいとか、セックスとは程遠いモテない生活をしている男にとっちゃ、「おっぱいとか揉んでるくせに、しゃらくせぇ」としか思えず、本を布団に投げつけたんだった。
私の読書体験なんて、20歳超えるまでそんなもんしかなかった。漫画ばっかり読んでた学生時代。暇のある大学生の時も、漫画ばかりでほとんど本を読まなかったな。
やがて上京して、週2のコンビニの夜勤バイトと週1の専門学校に行く以外はひとり暮らしの家でほぼ引きこもりのような生活を1年続けた日々があった。貯金があったとはいえ、湯水のごとく使うには心もとなく、毎月の家賃や光熱費、食費以外にはあまりお金を使いたくなかった。コンビニの廃棄弁当で食費はなんとかなっていたけど、110円の缶ジュースを買うのも躊躇うくらいに貧乏ではあった。ともすれば、映画を観に行くことはおろか、本や漫画など買うのもためらわれ、当時はビデオデッキを持ってはいたけれど、レンタルビデオ屋でレンタルするお金を捻出するのにすら、苦悩した。そうしてタダで本を貸してくれる図書館で本を借り始めた。あの頃は暇があれば本を読んでいた。タダで楽しめる娯楽が本しかなかったのだ、当時は。
ブックオフも近くになかったし、古本屋でも立ち読みは怒られたんだもの。それに、本を読むという行為にハードルを感じてもいた。漫画ばかり読んでいたから、バカになっていたのかもしれないけど。字だけ読んで楽しいもんかね? と懐疑的だった。して、図書館でおすすめ文庫から適当に読んでみるかって、最初に手に取った本が「悪意」と「秘密」というタイトルの二冊の小説だった。
漫画より時間かけて暇つぶしが出来るだろう、と「悪意」をなんとなく読み始めた。手紙形式で話が進んでいく小説で、ものすごく読みやすくて、すらすら読めてしまって、小説の中盤で話がひっくり返り、とんでもなく驚いた。それからもう夢中で読んだ。どうなるんだ? どうなるんだ? って読む手が止まらなかった。小説っておもしろい!って初めて思うくらいの読書体験をした。(あとあと古典的な技術でホワイダニットていうのを知ったけども。初体験は衝撃だった)読み終えて少し興奮して、奮発して自販機で110円の缶コーヒーを買い、飲んだ。誰もいない夜の公衆電話わき。すごいもん読んだ、って友達に電話しようとしてやめた。まぁ携帯でメールしたけど。
帰ってきて、おもしろ~の勢いで続けて「秘密」を読み始めた。これもまたスラスラと読めて、おもしれぇわ、最後の方は泣けるわ。最後の一行でまたびっくりするわ。で、ますますのめりこんだ。これもとんでもねぇや!ってしばらくテレビの音を消して、ボーとした。世の中にこんな面白えもんあったんだ。ってただただボーとした。いつの間にか日が落ちて部屋が暗くなりかけていた。
早く次の小説を読ませてくれ、と図書館に行った。行こうと思ってこの二冊は誰が書いてんだろう? と、よくよく文庫カバーを見てみると、同じ人が書いてるじゃないか。え~と、とうのけいご? ひがしのけいご? 東野圭吾か。え? この人こんな傑作二冊も書いてるの? まだいっぱい出してるうぅぅ。って図書館で東野圭吾をワンモアタイムワンモアチャンス並みに探した。山崎まさよしのように探した。
それからはずっと、東野圭吾フェアが私の中で始まった。「変身」と「分身」と「白夜行」と、次から次へと図書館にある東野圭吾を読み漁った。他の人のも読んでみようと宮部みゆきの「火車」とか伊坂幸太郎の「陽気なギャングが地球を回す」とかも読んで、小説がおもしろくなって、毎週のように図書館に通っていた。
宮部みゆきは何作か読んだし、伊坂幸太郎もハマって、しばらく伊坂幸太郎ばかり読んでた。ずっと好きだったな伊坂幸太郎。最近出ている小説は読んでないけども…。「ガソリン生活」を最後に読んだかな。
あの頃は人生で一番本を読んでいた。吉本ばななや村上龍や町田康にもどっぷりつかり、筒井康隆さんや司馬遼太郎さんも読み漁り、恩田陸や舞城王太郎、吉村萬壱先生などなどなど…。吉村萬壱先生すごい好きなんだよな。
それから松尾スズキさんの小説「宗教が往く」は図書館じゃなく友だちに貸してもらって読んで、好きになりすぎて、食費削って小説を新刊で買ったものな。まだ文庫なくて3000円くらいした。すっかり本を読む楽しさに虜になってしまった。
とにかく、読書という行為を最初に教えてくれたのが東野圭吾なのです。「容疑者Xの献身」などのガリレオシリーズもちょこちょこ読んでいたけど、最近は全然読んでいなかったな。読書といえば東野圭吾と名前が出るくらいどメジャーな作家だから浅いと思われたくなくて、なんとなく避けてしまっていた。
また東野圭吾先生の作品を読みたくなった。
私に読書という趣味をくれた人だった。また一冊、借りてこよう。いや、買ってこよう。
おしまい
