わたし猫です。
夏目漱石の『吾輩は猫である』をずっと読んでいる。意外と普通におもしろい。言葉使いとか例えがわからない箇所はあるけれども、基本的にはほのぼのとした話。
時々、『梧桐《あおぎり》の緑を綴《つづ》る間から西に傾く日が斑《まだ》らに洩《も》れて、幹にはつくつく法師《ぼうし》が懸命にないている。晩はことによると一雨かかるかも知れない』
みたいな文豪らしいキレキレの描写が夏目漱石先生!と思ったりしつつ、なんだか読みふけってしまう。500Pくらいあって、基本ほのぼのと話が進むから、なかなか読み終わらない。しかし、猫の視点でよくこんなボリュームが書けるなぁ。ネタが尽きなかったんだろうか。猫が銭湯を見に行くだけで終わる章とかあったけども。
猫の漫画はよく見るけど、猫の小説が少ないのはこれのせいなのかな。マンガで考えれば、100万馬力の少年ロボットが世界を救ったり、未来から来たロボットが家に居座り色々助けてくれたり、超能力を擬人化させて「スタンド」的な俗称が付いたら、あの名作たちを思い浮かべてしまうものね。
まあいいや、パクってしまえ。
主人が家には2人いる。朝、人間というものはなぜこうも慌ただしく、せわしないんだろうか。いつもなんだか、朝はバタバタしてうるさい事、相違ない。もう少しワタシのように早く起きたらいいのに、と思い。毎朝、主人の顔に前足を当てたり、爪をたてたり、「にゃあにゃあ」鳴いてみたり、壁をごしごしやって音を立ててみるのだけれども、一向に起きる気配がない。一瞬、主人は起きたりするのだけれども、傍らに置いてあるスマホを光らせたかと思ったら、またすぐにグゥグゥとイビキをかき始めるのだ。いつも同じ時間にスマホが鳴り響き、一瞬起きては、スマホの光を消し、またスマホが鳴りを繰り返してようやく起きて来る。起きてきて、ワタシが起こそうと「にゃあにゃあ」と鳴いていたものだから、ごはんを欲していると思われ、すぐにあのカリカリを我が皿に入れて来る。入れて来るのだから仕方なく、今食べたいわけではないけど、たいしてうまくもないカリカリを食す。主人はカリカリを入れると満足したかのようにタバコというもので口から煙を吐き出す行為をする。いつも、換気扇の下へ行って口から煙を吐き出している。換気扇をつけたり消したりする手間を考えると、わざわざ煙を吐くような事をしなければ、いいとワタシは思う。人間は顔もつるつるして毛も少なく煙を吐く息ものだ。バタバタと主人は出かける準備らしきものをしている間もすきあらば、わざわざ煙を吐きに換気扇の下へ行く。やがて、ガチャンと音が聞こえて、主人が2人とも出ていくと、ようやくワタシの自由な時間となる。
ワタシは大体、本を読んだり、窓際で日向にあたったり、TVを眺めていたりする。ワタシは今読みかけの「進撃の巨人」を手に取り、読みふける。場所は大体決まっており、冷蔵庫の上が相場なのだ。仲間の調査兵団の一人が大型の巨人だという事を言い始めた時、驚いて冷蔵庫から落ちてしまった。今、ちょうど調査兵団が海までたどり着き、エレンとアルミンの夢が叶い、涙した。
気が付くと寝ていたようで、窓際から西日が差していて、部屋がオレンジに染まっていた。窓を覗くと西日をふさぐように鳥たちが影を作って飛び、わたしは欠伸をひとつした。
やがて、女主人が帰ってきて、なにやら独り言のように「きいきい」と言葉を発している。ワタシに気づき、目やにを取ってくれた。涙したのがバレていたのだろうか。そして、テーブルの上でスーパーの袋からいろいろと取り出し始めたので、わたしも袋を覗かんとテーブルの上に飛び乗る。袋をやおら覗いていると「こぉら」と言われて、一旦机の下に降りる。夕餉の準備を女主人は始めたようだ。
しばらくして、足音が聞こえたので玄関の方へ向かった、匂いからして男の方の主人が帰ってきたようだ。なぜか扉を開けず、ピンポーンと音を立てた。女主人が扉を開けて男主人を家に入れると、「鍵無くした」と男主人は言った。鍵を無くす?という言葉は何度か聞いたことがある。なんだか、男主人は不服そうにしているが女主人の方が「なんでよ。合鍵くらい作ってらっしゃいよ。ないと困るんだから」と言われ、男主人はしぶしぶまた外へ出ていった。
しばらくして帰ってくると、男主人は自慢げに合鍵を見せていた。満足したのか、冷蔵庫を開けて、炭酸水のキャップを開けると炭酸がスプラッシュした。床が水浸しになり、女主人が「なにしてんの」と甲高い声をあげる。男主人は床を拭き終えると、トイレへ駆け込んだ。ワタシもそれに続こうと一緒に駆け込んだ。男主人は哀れな事にしょうべんもスプラッシュしてしまい、また床を拭いていた。この人間はしょうべんもままならない哀れな生き物だ。とワタシも粗相を克服した手前、大きな事は言えないが、哀れなものだ。
やがて、人間たちは夕餉を食べ始め、男主人は今日は一日ついてなかったという意味の話をしていた。昼飯を歩き回った挙句に食べそびれ、コンビニでおにぎりを歩きながら食べたそうだ。そして、鍵を無くし、炭酸と小便をスプラッシュしてしまい、散々だったとか喋っていた。わたしは、ふとスプラッシュマウンテンという言葉は何のことだったかが気になり、本棚にむかった。その言葉の載っている本はいくら探しても見つからなかった。明日、主人がいなくなった時にパソコンを使わせてもらおう、と決意した。
