第13回牧水・短歌甲子園で気になった歌
第13回牧水・短歌甲子園で気になった歌をいくつか引きます。
摩擦のなくなった新惑星に吹く突風で意味のなくなるモビール
/永井敦也
モビールっていう、張り詰めたバランスでかろうじて在ることができている物体に、透明よりも透明な風が吹く、そういう心象風景の歌なのかなと思った。情景にあるさびしさと取り返しのつかなさが、結句「モビール」の伸びやかな音によって極まる感じがする。壊れる、じゃなくて意味がなくなる、であるところに描写の丁寧さ、作り込みの高さを感じる。
新学期長い短い一日のすべてを布団にくるんで眠る
/児玉りの
一日の話をしているけれど、新学期のいろいろな一日が歌の中に存在しているような感覚になるのは、「長い(一日と)短い一日」という省略があるからだと思う。「新学期」はいつの間にか「一学期」とか「二学期」とか呼ばれるようになるから、「新学期」でいられる期間って一週間くらいなのかな。その何日かのすべてが一首の中に詰まってる。大きな時間を巨大なお布団でくるんでいるような感覚がいいと思った。
春の空きりひらくよう新品のはさみで開ける合格通知
/緒方ゆい
ライトグリーンの同系色コーデ、みたいなとてもきれいな歌。気持ちのいい内容の歌が気持ちのいい韻律で歌われていて、とても気持ちがいい。一方で、ここに差し色とか小物とかのずらしが入り込んでくると、「唯一無二のあなた」の個性が出てくるのかなとかも思った。
新着のメッセージくる液晶に飛びつく濡れたまんまの右手
/佐野史絵那
右手に意思が宿っていて、その右手がスマホに喜び勇んで飛びついていく。気持ちって時に意識を追い越すのかも。「右手くんこらこら」みたいに言うけど、右手の所有者である自分もほんとは飛びつきたがってる姿が見えてきてコミカル。
三千年立派な兄と「競」ってる隣の兄の足のとんがり
/川上峻
漢字が生まれてから三千年、ずっと「競」の兄たちは隣り合って競い合っていたんだ、という発見がすごい。歴史的な把握から字面の把握にスライドしていくのも洒落ていると思う。飛び跳ねている左の兄と、どっしり構えている右の兄ってどんな会話をするんだろう。
寂しさを競う腹なり蜩のカナカナカナは晩夏の響き
/西昂希
なんといっても上の句がいいと思う。「何のことだろう」って読み手を下の句にグンと引っ張っていく力強さがある。それで、どんな下の句が来るかと期待して読み進めると、なんとも肩の力の抜けた、あっさりとした描写が出てくる。この下の句の淡さによって、より上の句が際立つように思う。推し歌。
束になり泳ぐ魚に憧れる色恋前のルーティンワーク
/酒井宏太郎
筑波大付属の持つフレーズ力の高さを特に感じる一首だった。下の句の音色に色気を感じる。意味を越えて読み手に届かせることのできる歌だから、上の句をもっと飛ばせたんじゃないか(というか、一度作り終わった歌を短歌甲子園という場に合わせて整えたのかな)とか思った。
恒星のうらに裂け目をみてそっと覗く少年恋をどうする
/樫浦ももこ
傲岸不遜と言うべきか、かなり挑発的なんだけどそれが全く滑稽になっていなくて、ポーズがしっかりと決まってる。300年くらい生きている吸血鬼が十数年しか生きていない人間におもしろがって語りかける、みたいな歌の口調と主体の姿勢が堂に入っている。四句目の句割れってかっこいい。推し歌。
第一試合の歌≪新月のような顔して揺らめいていたよね正しい昼休みには≫にある「新月のような顔」や「正しい昼休み」のような、幽玄な視点から語られる語調、モチーフの選択が特徴的な作者だと思う。もっと歌を見てみたい。
ドア閉まり君と二人のエレベーター上がりっぱなしの恋エネルギー
/東木場葵
くどさすら感じる持って回った言い方の上の句から、「上がりっぱなしの恋エネルギー」っていう底抜けに間の抜けた下の句が出てきてお腹が痛くなるまで笑った。愛唱性があったり、フリとオチが丁寧に用意されていたりと、内容だけでなく歌の韻律、構造も実はちゃんと評価ができる。宇宙まで突き抜けちゃった。
好きになる ぼくの恋心で熟れて美しくなるあの日の君を
/沖野七海
ぼくの恋心で君が美しくなるという、ある種の思い上がりなんだけど、(思い上がってんじゃないよもうと思っちゃうんだけど、)でも、それを「好きになる」、つまり肯定する、なんて言われたらもうこっちとしてはお手上げとしか言いようがない。この歌は回想、懐古の歌だと思うんだけど、「好きになる」ということは、それまでは好きじゃなかったってことで、「あの日」が「ぼく」にとって苦しい思い出だった時期もあったはず。君を好きになっているんだけど、実は「あの日」の恋をしていた「ぼく」のことも好きになっていて、この歌はそこがいいところだと思う。二句目三句目の句またがりの勢いも、なんというか「乗り越えた感じ」が出ていていいね。強い自己肯定の歌だと思う。お守りにしたい。
恋しいは「miss」であること 間違いのない感情に霧雨が降る
/古谷明希歩
驚きと納得もあって、フレーズの力もあって、二句切れの小洒落た魅せ方も備えた、間違いのない歌。個人的には霧雨がmist(霧)とかかっているところがいいと思っていて、作り込まれた歌にこういう偶然性を見出せるとうれしい。筑波の永井さんの作り込み方とはまた別の作り込み方をしていると思う。
古谷さんは歌の完成度も高くて評も上手かった。審査員の評に対するごく私的な印象だけど、「短歌をやってる高校生」じゃなくて、「将来歌人になりうる人」相手への話をしていたように思う。それを引き出せたっていうのはかなり大きいんじゃないか。最後の質問への解答として、大口さんが三十一文字を支配することとか、歌を作る目的は何かといった話をしていたけれど、どう消化して歌作りに反映させていくか、自分も悩ましいなと思った。
これまでは「短歌甲子園に勝てる歌作り」という側面がなくはなかったと思うんだけど、それがなくなった後にどういう歌ができてくるのかが気になってる。
草刈りと適度な水やり欠かさずに収穫誓う三度目の恋
/川越優羽
討論タイムで「恋が実る」という慣用表現から歌に広げたことの是非を問われた際に、「おもしろいと思ってやりました」と答えたところに感動した。おもしろいと思ったことをやっていこうぜ。
始発バス揉まれてゆらぐ足元にまだ真四角のスクールバッグ
/児玉りの
始発バスからスクールバッグへと、四角い物体のサイズが変容していくところがおもしろい。始発バスのぎゅうぎゅう感が、スクールバッグのもっとぎゅうぎゅう感に圧縮される感覚があって、それが入学直後の押しつぶされそうな心細さにつながってるように思う。
夕焼けを栞でとじてもう一度君の言葉に夢で逢いたい
/樫下小春
決勝用作品の≪それじゃあねなんて言いたくないようにバスの扉はまだ開かない≫と並べて読むと、より込み上げてくるものがある。どちらもできない願望のことを言っているんだけど、栞でとじられる夕焼けだったり、開かないバスの扉だったりといった情景にそれを託すことができてるのがすごいと思う。願望を増幅する情景の選択が巧み。
言葉にはできないことの言い訳に君はいつものジェスチャーゲーム
/佐野史絵那
題詠「言葉」に対して、言葉ができないことを描いたのがいいと思った。言葉にできない状況ってたぶんしっかり考えると深刻で、それは人間が言葉を使うことで繁栄してきたからなんだけど、その深刻な状況に対してジェスチャーではなくジェスチャーゲーム、と茶化していく姿勢が素敵だった。この歌が漫画だったら、最終章で君が最後のジェスチャーゲームをするんだよね。いつものジェスチャーゲームを。泣き笑いの表情で。
求めてた言葉出るまで脳内で告白ガチャを回す爆死す
/安田湖夏
「回し爆死す」ではなく双方を終止形にしたことによって、爆死のずっこけ感、ズコー感が際立ってる。
脳内でぐるぐるして爆発する感じと、これまでの二戦で見た安田さんの印象とがマッチしていて、それもプラスに働いていたと思う。安田さんは評が劇場的で、気持ちを込めて話すのがよかった。たぶんこれからプレゼンテクニックの引き出しがもっと増えていって、気持ち以外の部分もねらって見せていくことができるようになってくるんじゃないかな。
少しうつむきがちに話す西くんと、たんたんと話す沖野さんと、気持ちを空回りさせながら頑張る安田さんとのバランスが、チーム全体のグルーヴ感の醸成につながっていた気がするから、そういうチーム単位での見せ方も考えつつ、最後はオーディエンスに託す、みたいなやり方ができていくといいのかなとか、素人目には思うけどどうだろう。
手のひらを回せば過ぎていく夏に汗の粒らがぴちぴち光る
/西昂希
手のひらをぱたぱたしている(手であおいでいる)のかと思ったら、手のひらを横に回したりしているのだというのが討論の場でわかって驚いたし、おもしろいと思った。さびしさの中にきらきらしたものを見せていくことで、そのさびしさがいっそう濃くなっている。手を回す動きが、過ぎ去る夏にゆっくりと手を振っているように見えて、個人的な感動ポイントだった。推し歌。
人生の数直線上 一点にすぎない誕生日おめでとう
/沖野七海
大きな把握をしたあと、取るに足らないものとして誕生日をクローズアップして、そして言祝ぐ。誰かの誕生日ではなくて、すべての動植物に対しておめでとうと言っているような、スケールの大きい祝福の歌だと感じた。
観客投票の個人戦で入れた歌は
扇風機ティッシュを揺らしTシャツを揺らしティッシュを クマゼミの声
/非公表
でした。
このほか、
≪新旧の制服行き交う校舎にて燃やす先輩ナショナリズムを/川越優羽≫
≪とりあえず他よりもっと、もっとって過当競争の末の僕たち/岩本菖≫
≪競技場張り詰めた空気解けるとき六分間の普通計算終わる/黒木理那≫
≪競売にかけられている青春を買い戻すのは他人でなく我/佐久間春來≫
≪競えども黒鉛の肌の美を凌ぐ夜行性のデッサンドール/高橋里奈≫
≪三年後私は生きているだろうか安寧に甘んじ見る競べ馬/中村有≫
など、気になる歌がたくさんありました。
あわせてよみたい↓
