『晴れバレンタイン』のショートストーリー
「お待たせいたしました、お待たせしすぎたかもしれません」
日本全国に7名ほど散在する『地蔵ファン』という名の異常者の皆さん、お久しぶりです!
以前集中的に公開したゲンキジャパン論からもう一年半ですか。
この間、地蔵はインプットに勤しむ毎日でした。より正確に言うと、どうしても物を書く気になれず、苦し紛れに狂ったようにインプットに励んでいました。ただ新たに流入し続ける知識のせいで狭くて浅い私の脳みそがオーバーフローしそうになり、また余白を作る為にnoteの舞台でアウトプットを始める所存です。
再び文章を書くきっかけになったのが、モデルをしている百恵さん。
彼女のYouTube動画に触発されて、先月から今月にかけてショートストーリーを幾つか書けるようになりました。これから順次UPしていきますが、今回はその第一弾を公開します。
百恵さんはモデル業以外にもカバー曲のシンガーだったり、TikTokの配信者であったりと、様々な活動をしている人です。
ある時は銭湯に住込みで働きながら空いてる時間に浴場!で弾き語り、ある時は単身欧州に飛び、パリを拠点に海外メゾンのショーに出たりと、活動の帯域がとにかく広い方。
TikTokのliveなど見てると、パリでのモデル活動も中々大変で、順風満帆とは言えない厳しさもあるようですが、そこは持前のポジティブさで様々な困難を朗らかに歌い飛ばそうという、程よく脱力しつつも、しなやかな力強さが魅力の女性です。
そう言えば、ゲンキジャパンも数か月パリに滞在して動画撮影していた時期がありましたね。日本を飛び出し海外で自身の価値を証明しようとする人達は、ジャンルを問わず見ていてワクワクします。
もっとも、私が真剣に推したゲンキジャパンは去年の一月で完全に死に、残念ながら現在のものではありませんが……
百恵さんにお話戻ると、彼女の魅力は幾つもありますが、自分は歌声が一番好きですね。
特に繊細で壊れそうなんだけど確かな持続力がある高音が素晴らしい。
清らかで澄み切った声質が、地蔵の汚れ切った心の中で微かに残っている真白い部分に直接響いてきます。
まだ百恵さんの歌声を知らない人は是非一度聴いてみてください。
先に述べた銭湯での弾き語りは百恵さんのYouTubeに動画があるし、夜によく配信しているTikTokのliveでも気持ち良さそうに歌ってくれています。
百恵さんのトークも聞けるし、自宅でリラックスして弾き語っているTikTokはお勧めですよー。
以上、地蔵復活の挨拶と、百恵さんのご紹介でした。
付記
百恵さんのYouTubeを元にしたショートストーリーは全部で4つあります。
それぞれの作品に該当する動画を文章の先頭と一番最後に埋め込みました。
「読んでから見るか、見てから読むか」
ふる~い角川映画のキャッチコピーを引用し、了とします。
百恵さんのインスタ
https://www.instagram.com/momoe.ee/?hl=ja
百恵さんのTikTok
https://www.tiktok.com/@momoe.ee
『晴れバレンタイン』のショートストーリー
目が覚める。
窓から差し込む柔らかい光線が眩しい。
パリは久し振りの晴れ。
何日ぶりだろう。
僕はベッドから起き上がり、机上のバラの束から一本抜き取り階下に降りた。
キッチンでママンが朝食の準備をしている。
「ボンジュール、ママン」
「ジャン、ボンジュール」
眠そうなママンにバラを手渡す。
気持ち、ママンが頬を赤らめた気がした。
「メルシー。ジャン、今日は素敵な女の子にバラを渡せるといいわね」
「うん」
そう、今日はバレンタインデー。
僕たち男が好きな女の子にバラを贈る日だ。
僕は今13歳。残念ながら好きな子はいない。
何て不幸なんだ。2月14日なのに好きな女子がいないなんて!
でも今日は街に出て綺麗な女の子がいたら、思い切ってバラを渡すつもり。
「幸運を…」と十字を切ってから僕はママンの目を盗み、バゲットを一切れつまみ食いした。
「ジャン、お願い。はしたない真似はやめて」
バラを受取って機嫌が良かったママンが、いつもの怖いママンに戻った。
放課後、親友のジルとローランの三人で即席の『バレンタインの騎士団』を結成。
仲間と一緒ならバラを贈る時の恥ずかしさは3等分になる。一人だと恥ずかしさが勝って、素敵な子にバラを渡しそびれるかもしれないしね。
最初モンマルトルが良いかなと思ったけど、カップルが多そうなので別の公園に行くことにした。
「昨日のPSGは凄かったな。デンベレが特にキレていた」とジル。
「確かに。今年こそCLで優勝して欲しいよね」と僕。
僕らが歩きながらフットボールの話や根性の悪い理科の先生の悪口で盛り上がっていると、公園の木々が見えてきた。
モンマルトルほど高くないけど、この公園にも丘がある。
僕らが駆け足でその丘に登ると、日没前の太陽が黄金色に輝いていた。
「この夕陽くらい綺麗な女の子がいたらな」と僕が溜息まじりに言った。
「でもそうだと、会ったらすぐ消えちゃうってことだぜ」とローランが茶々を入れた。
「確かに!」と三人で笑い合う。
こんな時間が僕らには堪らなく楽しい。
僕とジルとローランは横一列に並んで座り、丘の上から道行く人たちを観察した。
杖をつき、難しいことを考えながら歩いてそうなサルトル似のお爺さん。ジーン・セバーグに似たベリーショートの女の子とジャン=ポール・ベルモンドみたいな渋いおじさんのカップル。ポール・ポグバそっくりのガタイの良いお兄さん。赤ちゃん連れの若いお母さんも結構いる。
そして、木々の間に三角座りしながらお菓子を食べてる白いキャップの女性。
「ホント久し振りに晴れたもんな。みんな太陽を浴びたいんだよ」とジルが呟く。
「ちょっと待って。ジル!ローラン!あの子、アジア人かな。むちゃくちゃかわいくないか?」
僕が指さした方向を二人が同時に見た。
「アメージング…」とローラン。
「日本人かな?でも凄いbelle femme」とジルの上ずった声。
「去年の年末にママンとプッチーニのラ・ボエームを観に行ったんだ。その時のお針子ミミの女優に凄く似てる」と僕がジルより上ずった声で言った。
「よし、僕はあの人にバラを渡す」
「ホントか、ジャン?」ローランが叫んだ。
僕は無言で頷いた。でも心臓はドキドキとうるさかった。
「分かった。俺たちもついていく」と二人が言ってくれた。
僕を先頭に『バレンタインの騎士団』が女の人に近づいていく。
女性がつまんでいるお菓子はショコラではなくクッキーだった。
彼女が僕らに気付き笑っている。お針子ミミの素敵な、素敵すぎる笑顔だ。
「こんにちわ。今日は何の日か知ってますか?」と僕。
少し沈黙が流れる。
「えっと、バレンタインデー?」とミミが僕の目を真っすぐ見つめて言った。
「そうです。あなたは日本人?」
「ウィ。仕事で来ています」
「フランスではバレンタインの日に男性が女性にバラを贈ります」
「知ってるわ。素敵な習慣ね」
「ありがとう。ミミ、違った… あなたにこの花を贈ります」
for you
僕は一輪のバラをミミに差し出した。
ママン相手ならシチューのお替りの皿を渡すくらい簡単にバラをあげられるのに、何でこんなに緊張するんだ。
「わ、ほんとう?ありがとう!すごくキレイね」
とミミは微笑みながらバラを受取ってくれた。
「おお、アメージング!」
興奮したジルとローランが僕の後ろで踊り出した。
鉄柵に腰掛け、僕らを遠巻きに見ていた女の子のグループがクスクス笑っている。
ミミも満面の笑みだ。
「今年の夏に日本に行きます」
「そうなの?良いところよ。東京は人が多いけど。是非楽しんで」
「メルシー」
ミミはその時、日本に帰っているのだろうか。日本でまた偶然会えたらいいのに。僕が真夏の東京でミミと偶然再会する場面を想像していると、ジルとローランもバラの花を彼女に渡そうとしていた。
ローランなどは渡す前にバラを口でくわえる始末だ。その瞬間、鉄柵の女子たちの笑いが爆発した。
三人の『バレンタインの騎士団』は無事にバラの花をミミに受取って貰えた。
「ありがとう。またどこかで」とミミが言った。
お別れの時だ。
「さようなら、また必ずどこかで」と僕も言った。
夕陽はもう西の空に吸い込まれようとしている。
僕らは丘を下り、暗さが増してきた公園を後にした。
三人とも帰り道はなぜか言葉少なだった。
「また会えるかな?」とローランが口を開いた。
「分からない」と僕。
「でも彼女がいない俺たち三人にとって、今日が最高の一日になったのは間違いない」
ジルの言葉に僕とローランは深く頷いた。
「来年も晴れるといいな」と僕は真っ暗な空を見上げながら呟いた。
ミミ、今日は本当にありがとう。
Happy Valentine💛
