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“Stay Small”という共感でつながる小さな経済圏 ── & Supply・井澤 卓

裏通り、非効率にも見える内装への投資 ── 。商売の定石からは逸脱した飲食店舗やホームグッズブランドの運営をするクリエイティブスタジオ〈& Supply〉。「Stay Small」を合言葉に、資本主義やSNSと“ちょうどいい”距離を保ちながら、つくり手の思想が見える偏愛的な空間づくりと共感でつながる小さな経済圏を育てている& Supplyの井澤卓さんにお話をうかがいました。
※本連載では、2025年11月に原宿で展開した〈Authors Harajuku〉がいかにして誕生したのかを、そのプロセスやリサーチフェーズから辿っていきます。

Photography by Daisuke Kobayashi
Editing & Text by 『Authors』編集部

「Stay Small」という小さな経済圏

& Supplyは、場づくりを主とする事業を展開しています。『まるで旅をしているような時間を日常につくりだす』ことをビジョンに掲げて、非日常のど真ん中にあるラグジュアリーホテルのような場所ではなく、日常の延長線上に感度が上がるような瞬間を差し込むことをめざしています」とFounder CEOの井澤卓さんは話します。

その思想は、家の外である飲食店舗だけではなく、〈MYTONE〉のようなホームグッズブランドを通して家の中へも通底しています。日々、暮らしのなかで触れるものからも「旅のような時間」をもたらそうとする試みです。井澤さんが、そうした“場づくり”を志すきっかけはなんだったのか。

インタビュー場所は、「裏渋谷通り」からさらに一本、細い路地へと折れて進むと現れる〈Hone〉。目印はごく控えめなサインだけで入口は少しわかりづらい。ひとたびドアを開けると、外の雑多さとは別世界の洗練された空間が広がる。

「学生のころから、関心はありました。それが決定的となったのは24歳くらいのときに訪れたニューヨークの〈Ace Hotel(エースホテル)〉での体験でした」

ドアマンはデニムにキャップをかぶった“気のいいお兄ちゃん”。ロビーに訪れる人たちは、仕事をしたり、コーヒーやお酒を飲んだりと思い思いに過ごしている。「ホテルはかくあるべし」という固定観念にとらわれずに、自分たちのスタイルを表現していることに衝撃を受けたそうです。

「当時のエースホテルは日本ではまだ知る人ぞ知る場所でしたが、実際に体験して『こういう場所をやりたい』と素直に思いました。エースホテルの創業者アレックス・カルダーウッドのファンだったので、雰囲気やクリエイティブの余白のようなものがどのようにつくられているのかを知りたくて、インタビューや記事を読み漁ったりもしました。いまのエースホテルはすごく大きなプレイヤーになっていますが、成長をめざす組織としてはあるべき姿だと思います」

井澤 卓Taku Izawa & Supply Founder CEO。1987年生まれ。明治大学卒。Yahoo! Japan、Googleで国内外120社以上のデジタル化とデジタルマーケティングを営業・運用担当として支援。ビジネスコンサルティング、データ分析、施策提案、広告運用まで一気通貫したサービスを提供し、ビジネス課題に対し効果的にデジタルマーケティングを活用するための戦略構築と実行を行なう。在職中よりレタリングアーティストとしても活動し、Paint & Supply、RELISHの2つのチームを率いる。2018年に独立し、クリエイティブスタジオ& Supplyを設立。空間・グラフィックを中心にさまざまなビジュアル制作や企業のプロモーション支援を行なっている。趣味は飲食店の食べ歩きとホテル宿泊。

井澤さんが言う“雰囲気やクリエイティブの余白のようなもの”とは、どういうことなのか。& Supplyが大事にする「Stay Small」という言葉を引き合いに出して語ってくれました。

「ベルリンに〈Michelberger Hotel(ミヒェルベルガーホテル)〉というホテルがあります。エースホテルと並んで、ぼくたちの最初の店舗〈LOBBY〉をつくるときにとても影響を受けた場所です。『Stay Small』は彼らが掲げている言葉で、ホテルを拠点に身の回りの共感する人たちの作品やプロダクトを紹介して、小さな経済圏を循環させているんです。本当に好きな人、つながりがある人としか仕事をしない。共感する人たちとの経済圏を強固にして、まずは周りの人を幸せにしていくこと。それをぼくらはStay Smallと解釈しています」

& Supplyは、10年後に売上を100億円まで伸ばすと宣言しています。経済活動としては決して“Small”ではない売上目標を掲げながら、輪郭はあくまで身の回りの人たちに留めておく。重要なのは、規模ではなく、誰と経済圏をつくるか。そのアンビバレントな姿勢こそが、& Supplyのスタンスだと言います。

「見積もりを取っている間も家賃が発生します。それに、あまりVE(バリューエンジニアリング:空間の機能や価値を維持しながらもコストを削減する手法)もしないので、見切り発車することが多いです。あとから請求書を見て『うわー!』ってなっています(笑)」

まだ顕在化していない「欲望」

「最大公約数的なものはつくらない」と断言しながらも、純粋に好きなことを仕事にしている人とも違う。その思考の背景には、ペインターとマーケターという井澤さんの少し不思議な経歴が関係していそうです。

「出自がマーケターなので、基本的にはプロダクトアウトではなく、マーケットインから考えます。目線は常にマーケット側。ただ、まだ顕在化していないマーケットを探すというイメージです」

世界のいろいろな街を歩きながら、「世界は動いているのに、日本はまだ追いついていない」と感じる瞬間が何度もあったと言います。「どこかで必ず求められるはず。だったら東京のこの場所にあったらいいよねということを考えながらお店をつくっています」

「飲食業界は職人的な人が多くて、ややもすると『自分がつくりたいものをつくる』ことが目的になってしまいがちです。でも、求め続けられないと店は維持できない。だからシェフやマネジャーには、口を酸っぱくして『マーケット視点をもとう』と言っています」

「浪漫」と「算盤」の間で最適な着地点を見つけること。Stay Smallな経済圏を長く続けるための現実的な条件でもあると考えています。それは空間づくりにも表れています。

リズムよく並ぶ照明のグリッド。天井の納まりにまで意識が行き届いていることが伝わってくる。

非効率なところにこそ偏愛はにじむ

「いい空間は、つくり手の思想が見えることが条件だと思っています。『こんなところにまでこだわるのか』という偏愛的な部分が、空間のあちこちににじんでいる状態とでも言うんですかね」

例えば、& Supply の店舗では木目調のフロアタイルのようなフェイクな建材は使わずに、自然素材や無垢材など、リアルなものを使い続けています。そのぶん、コスト管理も大変だし、経済的な合理性を欠くこともあります。

「でも、そうした深いこだわりにこそ、つくり手の思想に触れられると思うんです。目に入るすべてが『なんで?』につながっていく空間と言ってもいいかもしれません。幡ヶ谷に〈PADDLERS COFFEE〉というお店がありますが、目に見える空間に家庭的なものが一切なくて、決済端末にすら木枠が被せられています。『この人が自分で考えてつくっているんだろうな』ということが伝わってくるんですよね」

「ぼくらのデザインは過去に例がないことが多いので、大工さんが嫌がるんです(苦笑)。でも、それが過ごしやすさとか、感度が上がる空間の条件だと思います」

では、& Supplyが手がける店舗ではどうだろうか。内装に用いる建材だけでなく、「ハズレ席はつくらない」ことも徹底しています。どの席に座っても、そこからの景色がキービジュアルになるようにつくる。ゾーンによってインテリアを変えて、次に来たときに『あっちに座りたい』と思ってもらえるような工夫を施しています。

「造作にはコストがかかりますが、それがそのまま体験価値になります。1〜2年ではなく、10年続く店にする前提でフェイクを排した空間をつくり込みます。同時にSNSで見た時点で選ばれる内装であることも、いまの時代にはすごく重要なこと。写真に切り取られたとき、どの角度からも『らしさ』が立ち上がるようにしたいと考えています」

バーカウンターにはナチュラルワインやスピリッツのボトルのほか、カクテルに添えるドライフルーツのガラス瓶も並ぶ。

通りを「目的地」にする

& Supplyの店舗の特徴は内装だけではなく、「少し奥まった場所」という立地にも表れています。立地だけで勝負が決まってしまうような場所ではなく、「この店を目的地に選んで来てもらう」前提で設計していると井澤さんは話します。

「『自分たちが入ることで価値をあげられるか』という観点で出店場所を選んできました。繁華街の一等地は、誰が入居してもお客さんが入るから家賃も高い。あえて、表からの人通りがほとんどない場所を選んできました」

1日に何千人も交通量があれば、そのなかには『いつかは行ってみたい』と思う人はいる。& Supplyの店舗にはその「オフラインの認知」がない。それを補うために、SNSを戦略的に使うと言います。

バズ狙いやフォロワー獲得ではなく、行きたい店のリストにずっと残し続けてもらうこと。そのために心がけているのが、いかにして「来店障壁」を下げるか。スタッフの顔を出したり、店内の雰囲気を見せたりすることで、事前に「どんな人が働いているのか」「どんな空間で、空気感なのか」が伝わるようにしています。

路地から奥まった、LOBBYのエントランス。

「内装がどれだけ格好よくてもスタッフがツンとしていたら、お客さんの思考が一気に減点方式にスイッチを入れてしまう。すると、なにを頑張っても『良くなかった』という印象になってしまいがちです。だからこそ、第一印象で加点方式にスイッチを入れてもらうことを意識している」と言います。

「初期は『このコミュニティに入りたい』と思ってもらえるような集客を意識していました。でもいまは、いろいろな人に開かれた空間をつくるタイミング。常連さんとは和気藹々としつつ、新しい人にもフレンドリーに話しかける」

空間と接客とSNSで裏通りのハードルを少しずつ下げていく。その積み重ねが、奥まった場所を「目的地」に変えていくのです。

プラットフォームとの付き合いかた

SNSは、さまざまな局面で裏通りの「目的地」化を助けています。例えば、LOBBY2階のビストロの予約が埋まらず苦戦していた時期に、UGC(ユーザー投稿)を分析すると、SNS上で話題の料理は ── ブラータチーズをとろ〜んと開ける動画や、余白のない豪快な肉盛りなど ── プロの料理人から見て「ありふれた」ものばかり。

しかし、マーケターの目線で見ると、ブラータチーズやステーキフリットの他にも、バスクチーズケーキ、キャロットケーキなどスイーツが目につきます。SNS 上には、2〜3万人規模のフォロワーをもつアカウントがスイーツメニューごとにいくつも存在している。そこに載れば、全国のいたるところからお客さんが来る。重要なのは、その“プラットフォーム”との関わり方なのだと気づきました。

「料理人としては『真似したくない』ものが、実はいちばんお客さんに届いていた。これは事実として受け止めないといけないと思って、『目的になる定番メニュー』をあえて設定することにしました。例えば、ブラータチーズでも、いかに迎合せずに驚きを与えられるか。『これを食べに来る』理由になる一皿を、制約のなかで考えました」

特定のメニューは共通言語として多くの人に届く可能性を秘めている。しかし、同時にすべてのトレンドに乗るわけではありません。客単価や業態に合わせて、マスのプラットフォームとの距離の取り方を微調整するのです。

「この価格帯なら乗ろう。でも、このニッチな店なら、あえて外れよう。大事なのは、自分たちがどんなゲームをプレーしているのかを理解したうえで、どのように折り合いをつけるか」

Stay Smallであることと、ビジネスとして持続させること。両者を同時に満たそうとするからこそ、トレンドとの距離感にも戦略が求められるのです。

空間は引き渡してからが始まり

最後に、井澤さんに都市開発やまちづくりへの期待を聞いてみました。

「最初にできたシアトルのエースホテルも、もとは理髪店をやっていたり、ナイトエコノミーでパーティーをしていた地元のクリエイターたちに、『好きにつくっていいよ』とオファーしたのが始まりだと聞きました。すごく素敵な立ち上がり方だと思います。本当におもしろいものがつくりたいのであれば『任せる』。そして『何も言わない』というスタンスが、どこかで必要なのではないでしょうか。管理をしようとすると予定調和なものしか生まれませんから。日本ではなかなか難しいかもしれませんが」

そのなかで日本橋の〈K5〉はとても稀有な存在だと、井澤さんは一目を置きます。

「あそこまで突き抜けたクリエイティブで、とんでもないお金のかけ方をした施設は日本にはほかにないのではないかと思います。制約はいろいろあったとは思いますが、それでも角が取れずに突き抜けている。ああいうプレイヤーがもっと増えれば、都市開発やまちづくりの新しい可能性が拓けるような期待感があります」

LOBBYの壁も、もともとは直そうと思っていたが、お金がなくて壊れたままになっている。

いかにして「余白」をなくさずに、実現させるのか。

「シドニーの〈Paramount House Hotel(パラマウントハウスホテル)〉に行ったときに衝撃を受けました。腰壁まで建具がきれいで、そこから上はむき出しのコンクリートだったんです。日本のホテルだと、ああいうデザインにはならない。そういう『未完成さ』がなくなると、やっぱりどこかで見た空間になってしまいますよね」

& Supplyのプロジェクトは、「空間は引き渡しで終わりではなく、そこから始まる」という感覚が強いと言います。それは空間への投資を「イニシャルコスト」ではなく、「長期的な売上や単価に効く投資」として捉え直しているから。すると、裏通りの奥まった場所でも非効率な偏愛を惜しみなく注ぎ込み、Stay Small な経済圏が育っていく。

その営みは、「ちいさなまち」をつくることそのもの。誰かの偏愛と覚悟がにじむちいさな場の積み重ねから、新しい風景が立ち上がってくる。そういう事例がひとつでも増えるとまちはもっと賑わいを増していくはずです。

主催&ディレクション
NTT都市開発株式会社
林 正樹、山下尚行、井上 学(デザイン戦略室)
NTTアーバンソリューションズ総合研究所
吉川圭司

企画&編集&バナーデザイン
Takram
渡邉康太郎、菅野恵美、江夏輝重、矢野太章