ForresterB2B⑤|商談は「予選」で決まる ─ Preference Marketing |BtoBマーケティングでの"選ばれ方"
2026年4月、フェニックスで開催された Forrester B2B Summit North America 2026。Day2 のキーノート「Make Brand + Demand Your Preference Multiplier」で、Ian Bruce と Kelvin Gee の両氏が示したのが Preference Marketing です。
このシリーズも5本目になりました。前回(④)は、AI検索がバイヤーの「見つけ方」を変える Visibility Vacuum を扱いました。今回はその次、見つけてもらった先で、どう「選ばれる」か。その話です。
半分以上は、私たちが会う前に決まっている

セッションの冒頭で示されたのは、Forrester Buyers Journey Survey 2025 の数字でした。
バイヤーの68%が、購買プロセスを始める時点で、すでに本命のベンダーを決めている。そのうち80%が、最後までその本命を選ぶ。掛け合わせると約55%。半分以上の案件は、正式な検討が始まる前に決着しています。

両氏は、これをF1のポールポジションに例えました。レースの勝敗は、日曜の決勝ではなく、前日の予選で大半が決まる。BtoBの購買も同じ構造だ、と。
実際、F1でポールポジションから発進したドライバーの優勝確率は、歴史全体で4割前後です。商談化した案件を追いかけるのは、決勝当日の追い抜きにあたります。逆転は起きますが、勝負の大半は、その前バイヤーが誰にも相談していない段階で、すでについている。
バイヤージャーニーは、もはや selection(選定)ではなく confirmation(確認)のプロセスになった。両氏はそう表現しました。
なぜ予選で戦えていないのか

予選で勝てない最大の理由は、組織構造にあります。両氏はそう指摘しました。
「BtoBマーケティングは a house divided ─ 分断された家だ。同じレースに、2台の車を別々に走らせているようなものだ」。2台の車とは、ブランドチームとデマンドチームのことです。

ブランドは認知と評判をつくりますが、それが売上にどうつながるかを示せない。デマンドはMQLとパイプラインを追いますが、予選 ─ 購買前の選好づくり ─ を諦め、すでに検討に入った層の刈り取りに集中する。結果として、どちらも「予選で勝つ」ことに責任を持っていません。
次のアライメントは、マーケの「中」にある
ここからは、私の考えです。
日本で「アライメント」といえば、長らく"マーケと営業の連携"を指してきました。MQLの定義をすり合わせ、リードの受け渡しを整える。その努力自体は正しい。
ただ、Preference Marketing が問うのは、その一歩手前です。マーケと営業の連携の前に、マーケティングの"中" ─ ブランドとデマンド ─ が、そもそも統合されているのか。

統合されれば、ブランドは「ビジネス成果への実際のインパクト」を、デマンドは「長期的な成長への貢献」を語れるようになります。分断されていた二者が、初めて同じ言語で成果を語れる。それが両氏の示した絵でした。
選好を作る3ステップ

Forrester は、実装を BUILD(構築)→ MEASURE(測定)→ DEPLOY(展開)の3ステップで示しました。
BUILD(構築)

選好は、認知 → 認識 → 感情 → 選好 → 支持、という5つの段階を下から一段ずつ上って、初めて生まれます。多くの企業は一番下の「認知」で議論を始め、そこで終わる。「この課題なら、この会社」という連想を、ひとつのテーマで一貫して積み上げることが、構築の実務です。
MEASURE(測定)
ブランド投資のROIを測定できているBtoBマーケティングリーダーは、25%です。指名検索、直接流入、商談での「前から知っていた」という声、レビューや口コミ ── こうした選好のシグナルを、受注率や商談スピードに接続する。ここで初めて、ブランド投資は「説明できる投資」になります。
DEPLOY(展開)


市場での選好の高低と、バイインググループとの相互作用の高低。この2軸で4象限に整理し、打ち手を変えます。勝っている象限(Pole Position)は守り、拡大する。選好はあるが動いていない象限は、パイプラインに転換する。全方位に同じ力をかけず、自社がどの象限にいるかで配分を決める。
Workday の実装

Forrester が挙げた実例が Workday です。長い商談サイクルと、Oracle・SAP に埋もれる存在感が課題でした。
同社が打ったのが「Rock Star」キャンペーン。本物のロックスターを起用したブランド広告です。ただし、そこで終わっていません。スーパーボウルでのブランド広告、年次イベント Rising での実演、1対1の商談専用に設計されたツアーバス。ブランドで作った選好を、そのままデマンドと営業の現場に流し込む設計でした。
日本では、広報が広告を出し、その効果を測って終わる ─ という形になりがちです。キャンペーンをマーケと営業の計画に接続してこそ、選好は売上に変わります。
日本の多くは、まだ二段手前
Preference Marketing は、マーケティング成熟度の最終段にあたります。しかし日本の多くの企業は、その二段手前にいます。

段階は3つです。プロモーション → デマンドジェネレーション → ブランドとデマンドの統合。多くの現場は、まだ最初のプロモーション ── 広告を出す、展示会に出る、資料を作る ─ を「マーケティング」と呼んでいる段階です。「デマンド一色」ですら、まだ先の話であることが少なくありません。
ただ、それでも最終段を知る意味はあります。目的地が「購買が始まる前に選ばれる状態を作ること」だと分かっていれば、目の前の施策を、その方向に選べる。段階は飛ばせませんが、方向は最初から合わせられます。
おわりに

「Team Brand と Team Demand の分断を終わらせ、ひとつの戦略の下に再統合せよ。それこそ、バイヤーが我々に求めていることだ」。両氏は、そう締めくくりました。
商談が始まる前に、選ばれる状態を作る。それが、これからのBtoBマーケティングの仕事です。
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https://benecro.co.jp/resources/btob-preference-marketing/
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https://benecro.co.jp/resources/strategy/forrester-visibility-vacuum/
▶ シリーズ前々回: Forrester Connected GTM Framework とは ─ Forrester が示す5フェーズと、Revenue Operations が担う役割 https://benecro.co.jp/resources/forrester-connected-gtm-framework/
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著者プロフィール
内村 裕香 / 株式会社ベネクロ 代表取締役
・BtoBマーケティング・RevOps コンサルタント
・Adobe Marketer of the Year 2020 受賞
・Forrester B2B Summit North America 2026 Certified(Activating the Modern GTM)
・MOps / RevOps 専門領域 10年超
株式会社ベネクロは、BtoBマーケティングを、経営の機能として組織に根づかせる会社です。
世界最前線の知見を、翻訳ではなく源流から汲み、日本企業の実情に合わせて再構築する。そして、資料や戦略で終わらせず、データとAIで動く仕組みまで仕立てる。売上に、速度と方向を ─ Revenue Velocity を共通言語に、日本のBtoB企業が「マーケティングで勝つ力」を持つことを目指しています。
▶ Webサイト:benecro.co.jp
▶ ナレッジセンター:benecro.co.jp/resources
▶ LinkedIn:Yuuka Uchimura
Forrester B2B Summit North America 2026 解説シリーズ 第5弾。次回は5大示唆の残り(Buying Group Transformation、Accountability Reset、Human + AI GTM)を順に取り上げます。
