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ForresterB2B④|フェニックスのキーノートで最初に示された一枚 ─ Forrester「Visibility Vacuum」とAI検索時代のBtoBマーケティング

2026年4月、フェニックス。Forrester B2B Summit North America の初日でした。

満席のキーノート会場で、Forrester の Principal Analyst、John Buten 氏が登壇します。その冒頭で示された一枚のスライドに、ひときわ大きく「94%」という数字がありました。

BtoBバイヤーの94%が、すでに購買プロセスでAI検索を使っている。

正直なところ、最初は「やや盛った数字では」と思いました。けれど出典は Forrester 自身の Buyers' Journey Survey 2025、回答者は17,649人。誇張のしようがない規模のデータです。

そして Buten 氏は、この変化に名前を与えました。Visibility Vacuum(ビジビリティ・バキューム)。直訳すれば「可視性の真空」ですが、この記事ではあえて原語のまま使います。訳すと、概念の輪郭がぼやけてしまうからです。

本記事では、このキーノートと関連セッション(Webflow、Profound、Jasper)で語られた内容を、現地で聞いた立場から整理します。



Visibility Vacuum とは何か

Profound 社プレゼンスライド:AI検索時代のバイヤー認識形成

Forrester の定義はシンプルです。

BtoBバイヤーが Answer Engine 内で意思決定の大半を完結し、自社から「見えなくなる」現象。

出典:Forrester B2B Summit

ここで鍵になるのが Answer Engine(アンサーエンジン) という言葉です。Claude、ChatGPT、Perplexity、Google AI Overviews、Microsoft Copilot ─ 検索結果のリンク一覧ではなく、質問に対して直接「答え」を返す情報サービスのことを指します。

バイヤーは、これらの中で比較・評価・絞り込みを終えてしまいます。あなたのサイトに辿り着く前に、です。

その結果、二重の意味で「見えなくなる」現象が起きます。マーケティング担当者からはバイヤーの動きが見えなくなり、同時に、バイヤーからも自社が見えにくくなる。この双方向の不可視化が、Visibility Vacuum の本質です。

Forrester はこの新しい接点への最適化を AEO(Answer Engine Optimization) と呼んでいます。日本で先行する「LLMO」という用語とは、対象範囲も発想も少し違います。ここは深入りすると長くなるので、別の記事で改めて整理する予定です。


数字で見る、静かな地殻変動


John Buten 氏キーノートスライド:自然流入50-75%減、CV率3-4倍増

Buten 氏が示したデータを並べると、変化の方向がはっきりします。

  • AI検索を購買プロセスで使うBtoBバイヤー:94%

  • AI検索が購買判断に与える影響度(他接点比):2倍

  • 今後12〜18ヶ月での自社サイトへの自然流入の減少見込み:50〜75%減

  • Answer Engine 経由トラフィックのコンバージョン率:3〜4倍

最後の2つを並べて読むと、奇妙なことに気づきます。流入は減るのに、来てくれた人の成約率はむしろ上がる。 これは、Answer Engine の中で十分に検討を済ませた、確度の高いバイヤーだけがサイトに辿り着くからです。

検索全体の構造も変わっています。検索ボリュームは週20億件から25億件へと増えているのに、クリックは週8億件から4.6億件へ、ほぼ半分まで落ちている。検索の量は増え、サイトへの訪問は減る ─ いわゆるゼロクリック化です。

質問の形も変わりました。かつての検索は平均3〜4語のキーワードでしたが、Answer Engine への問いは平均15〜23語。自然な話し言葉に近い、長い問いが前提になっています。


「可視性をKPIにする」とは ─ SAPの先行事例


John Buten 氏キーノートスライド:SAP の ERP カテゴリ言及率と引用率

抽象論で終わらせないために、Forrester は SAP のケースを紹介しました。

SAP は2024年に流入減少を察知し、2025年に全社で動き出します。SEOプラットフォームベンダーと組んで自社独自の「Visibility Score」を開発し、Answer Engine 上での自社と競合の言及率を可視化しました。

ERPカテゴリでの数字が示唆的です。SAPのブランド言及率は12.8%で、競合(1.7〜3.6%)を大きく上回っています。ところが、サイト引用率になると5.3%。競合(1.0〜1.4%)よりは高いものの、言及率の半分以下に落ち込みます。

名前は出る。でも、サイトには辿り着いてもらえない。 これこそ Visibility Vacuum の典型的な姿です。

SAP はこの可視化を起点に施策を打ち、LLM経由トラフィックを400%改善したと、Forrester は報告しています。重要なのは、まず「見えているかどうか」を測れる状態にしたこと。測れないものは、改善できません。


Forrester が示した「5つの戦略」

John Buten 氏キーノート最終スライド:5つの戦略の俯瞰

Buten 氏は、Visibility Vacuum を乗り越えるための5つの戦略を提示しました。

  1. Make Visibility a KPI ─ 「Answer Engine 上にどれだけ表示されるか」を公式のKPIとして組織に組み込む。

  2. Study How Buyers Now Buy ─ バイヤーが投げる「質問」の傾向を継続的に観察する。

  3. Learn How to Speak LLM ─ LLMが理解しやすい構造でコンテンツを整える。

  4. Prioritize Human Voices ─ LLMは「合意(consensus)」を重んじる。だからこそ、顧客・業界専門家・レビュアーといった第三者の声を意図的に育てる。

  5. Work Together as One ─ マーケ単独では完結しない。広報・製品・CS・Web開発まで横断する。

私がいちばん刺さったのは、5番目に添えられた一文でした。

AEO is more of a team sport than SEO is.(AEOはSEO以上に「チームスポーツ」だ)

出典:Forrester B2B Summit

SEOは、極論すればマーケティング部門の中で完結できました。でもAEOは違う。バイヤーが投げる問いに正確に答えるには、製品情報も、サポートの一次情報も、広報が発信する事実も、すべてが同じ方向を向いている必要があります。部門の壁が、そのまま「答えの不正確さ」として表に出てしまう。 これは、組織設計の問題です。


実務に落とす ─ Webflow の「4つの柱」


Webflow 社プレゼンスライド:AEOとSEOの4観点比較フレームワーク

戦略3「LLMの言語を学ぶ」を、実務レベルで具体化したのが Webflow 社のセッションでした。Webflow は4つの柱を提唱しています。

Content(コンテンツ)。キーワード単位から、質問単位へ。見出しを質問形式に変えるだけで流入13%増、更新頻度を5倍にして流入42%増・コンバージョン14%増。そして、ChatGPTの引用の95%は過去10ヶ月以内に更新されたコンテンツ(中央値6ヶ月)から来ている。鮮度が、引用の前提条件になっています。

Technical(技術)。schema、altテキスト、構造化データ、FAQ、目次。これらをテンプレートに組み込んだだけでLLM経由流入59%増、SEO流入23%増。注目すべきは実装率で、Googleトップ10結果の73%はschemaを実装しているのに、全Webサイトでは実装はわずか12%。先行者の余地が、まだ大きく残っている領域です。

Authority(権威性)。バックリンクは引き続き重要ですが、それだけでは足りません。Reddit、YouTube、業界レビューサイトでの、プレーンテキストによる広範な肯定的言及が効いてきます。

Measurement(測定)。キーワード順位から「出現シェア」へ。自社の主要な質問群に対して、何%の確率で回答に含まれるか。Webflow自身はカテゴリ1位の67%で出現し、市場シェア60%の競合を可視性で上回っているそうです。

ただし、Webflow は釘も刺していました。AEO経由のトラフィックは現状まだ一桁%。SEOを捨てるのは間違いです。 正しいのは「SEOを維持しつつ、いまの貢献度より大きくAEOに投資する」という比重の置き方です。


Visibility だけでは足りない ─ Profound の「3階層」

Profound 社プレゼンスライド:Nike Alphafly 3 で見る Parrot Problem

ここからもう一段深くなります。Profound 社のセッションは、「そもそも出現するか」だけでは不十分だと指摘しました。

Profound は AEO を3階層で捉えます。Visibility(出現するか)/Sentiment(肯定的に語られるか)/Accuracy(正しく語られるか)。 出ているだけでは意味がない。出た上で、正確に、好意的に語られて初めて意味を持つ、という整理です。

印象的だったのが「Parrot Problem(補足過多問題)」でした。オウム(鳥)が聞かれたこと以上に喋り続けるように、LLMは質問への答えに、要求されていない補足情報を応答全体の約50%も足してくる。たとえば「Nike Alphafly 3 の価格は?」と聞けば、価格の後に勝手に競合製品との比較が差し込まれる。ブランドが、意図しない文脈に置かれてしまう。

さらに深刻な例も紹介されました。Profound が大手ウェアラブルメーカーと行った調査では、応答の11%にブランドの誤情報が含まれていた。原因の多くは、Web上に残った古いPDF、更新されていない第三者レビュー、過去のプレスリリースでした。

「11%の確率で、営業担当者が誤った情報を顧客に伝えている」と置き換えてみてください。その深刻さが、肌感覚で伝わると思います。

Profound はもう一つ、新しい職種も提示しました。Marketing Engineer ─ マーケティングの知識を持ちながら、AIエージェントを構築できる人材です。すでにGoogle、Ramp、Autodesk、Circle が求人を出しており、GoogleのものはこのJob Descriptionの最初の事例だといいます。日本での採用は当面むずかしいでしょうが、「どんな人材が必要になるか」の予告編としては見逃せません。


これは戦術ではなく、構造変化です

ここまでを振り返ると、ひとつの結論に行き着きます。

Visibility Vacuum が突きつけているのは、「LLMへの対策」という戦術論ではありません。BtoBのGo-to-Marketそのものの再設計です。

測る対象が変わる(キーワード順位 → 可視性・正確性・感情)。主戦場が変わる(自社サイト → Answer Engine上での見え方)。役割の境界が変わる(マーケ単独 → 全部門横断)。必要なスキルが変わる(コンテンツ+SEO → コンテンツ+AEO+エンジニアリング)。

ひとつの施策で片づく話ではなく、組織として向き合う視点のセットなのだと思います。


よくある質問

Q. 「LLMO対策」と同じことですか? 重なる部分は多いですが、同じではありません。LLMOはLLMそのものを最適化の対象とした技術寄りの考え方、AEOはAnswer Engineという「バイヤーとの新しい接点全体」を対象にした戦略的な考え方です。視野の広さと、組織に求められる動き方が違います。

Q. SEOはもう不要ですか? いいえ。AEO経由のトラフィックはまだ全体の一桁%にとどまります。SEOを捨てるのは、9割以上の流入を捨てることと同じです。正解は「SEOを保ちながら、いまの貢献度より大きくAEOに投資する」。実際、Google AI Overviewに出る内容の半分強は、従来のトップ10検索結果とも重なっています。

Q. 効果はどれくらいで出ますか? SEOよりかなり早く見えます。Webflowの事例では、6ページにschemaとFAQを足してから2週間で、LLM経由の引用増の57%がそのページから出ました。Answer Engineが常時Webを取り込み直しているためです。

Q. 中堅・中小企業でも取り組むべきですか? むしろ早く動くほど有利です。schemaを実装している企業は全体の12%しかなく、先行者の余地が大きい。初期投資もSEOほど重くなく、サイトの構造化・FAQ・コンテンツの質問形式化など、小さく始められます。


おわりに ─ 日本のBtoB企業へ

帰国してから、「AI検索対策、うちもそろそろやるべきですよね」というご相談が増えました。問題意識は正しい。けれど、多くの場合、問いの立て方が少しずれています。

「対策」という言葉は、どうしても「いまのやり方に何かを足す」という発想を連れてきます。でもフェニックスで見たのは、足し算ではなく、設計のやり直しでした。最初に示された「94%」の一枚は、その号砲だったのだと思います。

幸い、まだ誰も整っていません。schemaの実装率が12%という数字は、裏を返せば、いま動いた企業が取れる先行者利益が大きいということです。日本のBtoB企業にとっては、むしろチャンスの局面だと考えています。

あなたの会社は、Answer Engine の中で「見えて」いるでしょうか。それとも、もう「見えなく」なりはじめているでしょうか。


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著者プロフィール

内村 裕香 / 株式会社ベネクロ 代表取締役

  • BtoBマーケティング・RevOps コンサルタント

  • Adobe Marketer of the Year 2020 受賞

  • Forrester B2B Summit North America 2026 Certified(Activating the Modern GTM)

  • MOps / RevOps 専門領域 10年超

世界最前線の BtoB マーケティングの知見を、単なる翻訳に留めず、日本企業の実情に合わせて再構築し、組織で実際に実行できる状態に落とし込むことを使命としています。

▶ Webサイト:benecro.co.jp 
▶ ナレッジセンター:benecro.co.jp/resources 
▶ LinkedIn:Yuuka Uchimura


Forrester B2B Summit North America 2026 解説シリーズ 第4弾。次回は5大示唆の残り(Preference Marketing、Buying Group Transformation、Accountability Reset、Human + AI GTM)を順に取り上げます。

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