東京大学の摩訶不思議制度「進振り」について東大OGが解説するぞ
東京大学出身者の履歴書を見て、おそらく一番びっくりすることは……、「学部生なのに、入口と出口の学部が全く一致していない」ということではないでしょうか。
実際、私・とうせ自身も
入学:東京大学教養学部 文科三類
卒業:東京大学文学部 思想文化学科 美学芸術学専修課程
という感じで履歴書に書きます。
なんでこんなことが起きるのか? と聞かれたときに「東大には進学振り分け、通称『進振り』という制度があって……」から説明を始めると、今度は「『進振り』って何??」と聞かれます。
そういうわけで、改めて「進振り」についてまとめてみたいと思います。
実は、このあたりの「東京大学用語」は東京大学新聞などが毎年毎年丁寧にまとめているんですが、まぁ、まじめすぎるよね。
東京大学OGとしては適当すぎる女のフィルターを通して解説してみますので、楽しんでくださいね!
実は、「教養部制」は東大固有の制度ではない
「進振り」という名前だけ聞くと軽そうですが、実態はかなり重たい制度です。教養部制という特殊な仕組みとセットで存在するので、理解しようとすると大体の人が混乱します。
本記事では、実体験を踏まえつつ、「進振り」がどういう制度で、学生に何をもたらしているかを整理します。
制度自体は、初めて知ったとき「面白い」と感じました。文理の境界をまたげる設計は、現在の日本の大学制度ではかなり珍しいからです。とはいえ、そんな面白い教養部制度も、今だともう8大学しかないらしいですからね。東京大学にしか教養部制がないと誤解する人がいてもおかしくない。
今回調べてみて、ICU(国際基督教大学)ってそうだったんだ!? って新しい驚きがありました。

「進振り」で何するの?
進振りの前提として、東京大学では入学時に学部が決まっていません。文科一・二・三類、理科一・二・三類という「類」に入り、最初の2年間は教養学部で共通教育を受けます。その成績をもとに、3年次から進学する学部・学科が決まります。これが進振りです。
進振りは「試してから学部を選べる」合理的な制度ですが、実際にはかなりの競争と戦略性を要求します。制度を正しく理解していないと、「東京大学に入ったけれど、希望の学部に行けない」という事態が普通に起きます。
ポイントは、評価が絶対評価ではなく
・各講義で取った評価の平均点ベースで
・上から点数が高い順に希望が決まる
制度だということ。自分が何点取ったかが大事で、そのうえで「周囲と比べて高いか」がすべてになります。
そのため、進学の自由度を上げるために、学問的な興味よりも「いかに効率よく平均点を上げるか」というゲームになりがちです。ゲームルールが決まっていると異様な集中力を発揮するのが東大生なので、大学生の「遊んでばかり」という一般的イメージに反して、多くの東大生が1、2年生の頃から意外なほど必死です。
東大新聞もツッコミいれている。まぁ20年以上前からこの流れ変わってないもんな~。
受験が終わった~と気を抜いていると、あっという間に成績がしょっぱい感じになります。特に人気学部に行く競争は熾烈で、「試してから選ぶ」どころか、「最初から狙って全力で取りに行く」学生しか残りません。
実践的な話をすると、進振りでは「不得意科目」が致命傷になります。私の場合、英語・ドイツ語の語学が苦手なのに、全然まじめに学習時間取らなかったんですよ。その結果、持ち点がガンガン下がっていったのがかなりきつかったです。
語学苦手過ぎて平均点合格(※語学の救済措置。平均点が50点以上であれば落とした単位も取ったものとして認めてくれる)とかしてるからな……w
語学を何とか低空飛行するにあたり、不真面目学生のとうせも、シケ対(試験対策。語学試験などのカンペを作ってもらって、それを覚える)の皆様にしっかりお世話になっています。
調べてみたら、最近はシケプリもwebシステム化されてるんか!!……ただ、片手間で善意でこういうDX対応やる奴がいるのも事実なんですよね、東京大学。人材の層は厚い。
とはいえ、文系は合間にバイトをしたりサークル活動をしたりする程度の余裕がまたありますが、理系はさらに過酷だったと聞いています。実験・レポート・専門科目が重なり「どうやってみんな大学生活エンジョイしていたの?」と今でも不思議です。
持ち点が低かったらどうなるの? とうせはどうした?
持ち点が低いと、実質進学希望が集まらない「底割れ」学科しか選べなくなります。当時の文学部だとイン哲(インド哲学)とかな……。

https://jidaisakugosha.net/?page_id=565
とはいえ、上記のスクショでも言及している通り、イン哲は仏教徒の最高学府なんです。色々あって在学中に『バガヴァッド・ギーター』読んだし、社会人になってからカウティリヤ『実利論』読んだらめっちゃくちゃ面白かったし、インド哲学進学もそれはそれでよかったかもしれない。もっとはっちゃければよかったかも
私自身は文科三類から文学部思想文化学科 美学芸術学専修課程に進学しました。今だとA群(思想文化_美学芸術学)って言うのね。評判読んでたら当時と比較しても、いい意味で相変わらずでよかった。いいとこだよ美芸。
結果だけ見れば第一志望ですが、正直に言うと「持ち点で通りやすい選択肢の中から選んだ」という側面もあります。本当の意味での第一志望かと問われると、やや曖昧です。この感覚は、不真面目な進振り経験者にはわかる人が多いと思います。
正直、進振りどうだった?
私の場合、進振り・教養学部制で得たのは「結構なんでも楽しめる」という自認でした。
全学共通科目である情報の講義が、原理からやらせるストロングスタイルで、Excelで文字コードのエンコードとデコードを手計算させられるようなガチな内容だった他、地震学の講義も面白かったし、はるばる茨城の奥地で牛の乳しぼりやったのも面白かったし、運動が苦手な女子たちと太極拳やったのも楽しかったw
なので、「世の中のことはだいたい面白がれそうだぞ」と知る意味では教養学部制はとてもいい制度でした。この「なんでも面白がってみるスタイル」は後々のキャリア形成にも影響しています。事業ドメインが全然違っていてもキャッチアップして生きていけるのは、この特性がプラスに働いているからです。
私は「行ける範囲で興味が持てるところ」を選んだので、結果的に運が良かったと思います。2009年は底点=私の点数状態で、ギリギリで何とか入れましたが、後年、美学芸術学が人気専修になり、底点が跳ね上がったと知って正直ビックリですよ。制度の偶然性はかなり大きいです。

むしろ心理学入りやすくなってたんだ!?って不思議な驚き。
https://todai.info/shinfuri/news/2017/2.php
一方で、心理的なレールに強く乗っている人ほど、進振りはしんどそうでした。明確な志望学部があり、そこに届くかどうかで人生が左右される感覚になるからです。
結論として、教養部制と進振りは、とにかく忙しいので万人向けではありません。ただその分、濃密で思考体力が鍛えられる時間でもありました。
「制度設計は人の行動をここまで変える」という視点で見ると、進振りは非常に示唆的な仕組みだったと思います。教養部制が日本からほぼ消えた今だからこそ、一度きちんと振り返っておく価値はある制度です。
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