転生したら凡人だった件
人生2周目。別名「強くてニューゲーム」。僕は今回の人生で「目立たなく生きていく」と決めた。
転生前。
「先生、また※※※のような作品をお願いしますよぉ〜」
原稿の督促に来た編集者の何度目かわからぬ言葉に僕はうんざりしていた。
(せいぜい短編しか書けないぞ、僕は……)
大学時代。僕と同じように文芸作品を書く仲間と共に同人誌を作成した。これが文芸界で評判となった。当然だ。僕に短編を書かせたら天才なのだから。その翌年、ヒットしたデビュー作のせいで、僕は苦しめられてきた。
ベストセラー作家に僕の作品は絶賛され、瞬く間に人気作家となった。
不本意だった。僕はあの女に好かれたいがために、僕が有名になればあの女も振り向いてくれるだろうと小説を書いただけなのに、あの女は振り向かず何故か作品だけが一人歩きした。
僕には悩みがある。短編作品を書かせれば天才だと認めよう。しかし、長編が書けないのだ。まったく書けない。「先生なら書けるでしょう?」と編集者に何度も言われ書いてみるも「ん〜」という編集者の反応。思うような評価は得られない。
僕は苦しんだ。書けないのだ。書きたいものはあるのだけれど、書きたいものが書けない。大衆が読みたいものを書くしかないのだ。
「自分探し」のため何度も海外に渡るも、そこにほしいものはなかった。それどころか慣れない土地のせいか土地のウイルスのせいか病に臥すようになっていく。
僕には常にぼんやりとした不安が付き纏った。書けない。編集者が、大衆が、望むものが書けない。僕は書きたいものを書きたいだけなのに、何も書けなくなった。
気がつくと大量の薬を飲み……そして転生していた。
100年後の日本だ。意味が微塵もわからないが、僕は生まれ変わったようだ。
運がいい。神も仏も信じないが、神の思し召しか僕は2度目の人生を手に入れた。
書かずとも女性に好かれるようになろう。それだけを目的に生きてやろう。
しかし本屋に行くと自分が文豪として祭り上げられこそばゆいし、僕の名前の賞まである。まずい。少し文筆からは離れよう。今は恋愛だ。
最初はうまくいかなかった。書くのは得意だけれど話すのは苦手だ。徐々に女性に慣れていき……僕は「モテる」ようになった。
ここで本来の性格が出てしまった。僕はそもそも文が書けるのだ。書かずにはいられないのだ。かのベストセラー作家にも認められた文筆力だし、書く方が話すよりも饒舌なのだ。
たまたま知った現代の作家に僕がまとめた「恋愛論」を送ってしまった。それが見初められ本になってしまった。まただ。また其方の世界に足を踏み入れてしまった。
此度の人生は同じ轍は踏まない。僕は目立たず生きるのだ。目立てば期待される。期待されると応えたくなり、結局は身を滅ぼす。
だけども本来のナルシストな性格が邪魔をする。やはり表に出たいのだろうか。とうとう自分の文章をネットなるものに発表しはじめしまった。
それでもこっそり生きていくとしよう。僕に書かないという選択肢はない。なるべく平易な文を書こう。それなら期待はされないし目立たない。僥倖な2度目の人生なのだから。
自分の書く文章はうまくないと知っているヤスです、こんにちは。
……僕は「ヤス」として生きていく。
創作ショートショート「転生したら凡人だった件」
[画像協力:さちわ]
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